国境の飛び地問題

しばらく前のことになるが、India Today誌を読んでいたら、隣国との関係でとても興味深い記事が目についた。インドとバーングラーデーシュの間の飛び地問題である。その記事の英語版が同誌ウェブサイトに掲載されているので以下をご参照願いたい。

In a State of Limbo (India Today)

印パ分離独立以来、つまりインド東部が現在のバーングラーデーシュの前身である東パーキスターンと分かれた際、双方の国境線内に両国の飛び地が存在しており、それが後々まで尾を引いており、飛び地の人たちについてどちらの国でも『外国人』として扱われており、事実上の無国籍であった。身分証明書の類も与えられず、医療や教育といった基本的な社会サービスを享受できないままに放置されていたのだという。

そもそもこうした飛び地が発生した原因とは、印パ分離独立前に地元の藩王国であったクーチ・ビハールとラングプルが、それぞれの王がトランプやチェスでの賭け事の勝敗で土地のやりとりをしたことが原因なのだというから、とんだ為政者もあったものだ。ふたつの藩王国のうち、前者がインド、後者が分離独立時の東パーキスターンに帰属することになったことなったため、飛び地が両国国境をまたいで散在することになってしまった。飛び地問題の解消については、1958年、1974年そして1992年にも合意がなされたものの、実行に移されることはなかったようだ。

今年の9月になってようやく両国がこれらの飛び地とそこにいる無国籍の人々の扱いについての合意がなされ、双方の領土内の飛び地の交換の実施とそこの人々には国籍選択の自由が与えられることになったとのことで、さすがに今度はそれらがきちんと実施されるのではないかと思うのだが、これらの人々が何らかの理由で、居住している土地の帰属先とは異なる国籍を選択するようなケースには、著しい不利益を被るであろうことは想像に難くない。

インド側にある飛び地ではムスリムが多く、その反対側ではヒンドゥーが多いとのことである。単純にムスリムだからバーングラーデーシュ、ヒンドウーだからインドという図式ではなく、それまで自分たちを冷遇してきた行政つまり飛び地を内包していた国の政府への不信感とともに、『私(たち)が本来所属するべき国』への期待感(あるいは失うものよりも得るものが多いかもしれないという推測)から国境の向こう側の国籍を選択する例も決して少なくないだろう。とりわけバーングラーデーシュ領内の飛び地の人々にとっては、総体的に経済力の高いインドへの移住が合法となること自体が魅力であろう。

土地の帰属のみで解消できるものではなく、結果的には一部の人口の流出と受け入れも伴うことにもならざるを得ないように思われる。政府の対応には不満があっても、住み慣れた土地を離れる当事者たちにとっては苦い『第二の分離』として記憶されることになる例も少なくないだろう。

移住という選択があるにしても、それぞれの人々がこれまで築いてきた人間関係、仕事関係はもちろんのこと、通婚その他いろいろ抜き差しならぬ事情も報道でカヴァーされることのない色々な事例が沢山あることだろう。

インド・バーングラーデーシュ飛び地問題については、以下のサイトにもいくつか参考になる動画がリンクされている。

Indo-Bangladesh Enclaves (Indo-Bangladesh Enclaves)

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