インド人100万人

一説によると、UAEに在住するインド人労働者の数は100万人にも及ぶのだとか。総人口567万人(人口統計に在住外国人も含まれている)中、UAE国籍を持つ人々は20%ほどで、あとは外国籍の人々だ。
UAE以外のアラブ諸国とりわけ非産油国の人々が15%, アラブ圏外ではイラン人が8%とかなり多いものの、なんと南アジア諸国の人々が50%を占めていることから『インド人100万人』という数字は驚くに値しないかもしれない。あるいはパーキスターン、バーングラーデーシュといった両隣の国々から渡っている人々も含めた『インド系人口』とした場合、とてもその数で収まるものではないだろう。
経済的な重要度に比較して、人口規模が小さく、様々な分野における労働人口が不足している湾岸産油国と、経済成長目覚しいとはいえ、世界第2の人口大国であるうえに、まだまだ失業率が高く、需要があればそれこそ無尽蔵ともいえるマンパワーを供給できるインドとの相性は、中東湾岸地域と南アジアという隣接する地理条件とともに、極めて良好だ。
歴史的につながりも深く、人々の行き来が頻繁であったことから、仕事や住居といった紹介・斡旋というベーシックなニーズにおけるインフラも備わっている。同時にこれは労働者たちに対する搾取の構造ということも言えなくもないにしても、出稼ぎに行くにあたってのハードルもそう高くないことになる。
インド人労働者といっても、エンジニアや金融関係者といった頭脳労働者から工場や建築現場の作業員までいろいろあるが、肉体労働者たちに対する待遇、とりわけ賃金契約、住環境、作業現場の安全性確保等々にかかわる問題点が指摘されることは多い。
また相当の危険を覚悟のうえで、あるいは騙されるような形でリスクの高い仕事を担わされる者も少なくない。数年前に、イラクでインド人、ネパール人などのトラック運転手が武装グループに拉致されて殺害される事件が続いたことを記憶している方も多いだろう。
このあたりの産油国ではどこもインド在住者は多いが、特に観光客の目につきやすいサービス産業に従事する者も多いためか、UAEの東隣の国オマーンについて、JTBの『オマーン情報』に、同国で使用されている言語について『アラビア語、ウルドゥー語、ヒンディー語』という記載があるくらいだ。
オマーン情報 (JTB)
おそらくタクシー運転手、ホテルやレストランを含むレジャー施設の従業員等にインドやパーキスターンの人々が占める割合が高いこともあるのだろう。
オマーンについては、位置的に南アジアに近いがゆえに、現在の出稼ぎの人々以前にやってきた移民の子孫が多いことでも知られている。南アジア西端にあるパーキスターンのバローチスターン地方から多数のバローチーの人々による移住の歴史もあることなどから、インド地域からの移民史という観点からも、ペルシャ湾を挟んでイランの南側に位置する湾岸地域は興味深いエリアである。

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1990年8月にイラクがクウェートに侵攻したことに始まった湾岸危機の際、当時のインドでは外貨準備高が枯渇(輸入決済2週間分の7億米ドル相当)することによる経済危機を迎えた。危機による原油の高騰、湾岸市場への輸出高の減少などに加えて、この地域の産油諸国で働く自国民からの送金が減少した影響も大きかった。
1991年6月に首相に就任した故ナラスィマー・ラオは、著名なエコノミストであり、インド中央銀行総裁であったこともあるマンモーハン・スィン(現在インド首相)を財務大臣に任命した。当時のインドは、綱渡り的な経済運営を強いられながらも、これを機会に大胆な経済改革を断行した。
その結果、『災い転じて福と成す』といった具合に、今の経済的繁栄につながる基礎を築くこととなった。そのため2004年12月に他界した彼の首相在任中の最大の功績は、マンモーハン・スィンを財務大臣に据えたことであるという評価は多い。
もちろん今のインドは当時よりずっと豊かになり、経済規模も拡大したことから、湾岸諸国へ出稼ぎにいった人々による送金に頼る度合いも大幅に下がっているため、単純な比較はできない。
しかし現在でもケーララ州のように失業率が高く、湾岸諸国への出稼ぎが多く、彼らの送金が内需拡大に貢献しているという地域もある。同州からは、こうした国々に職を求めて出向く医者や看護婦といった医療関係者が多数あることでも知られている。
ドバイショックが、今後湾岸地域の経済ならびに世界経済にどれほどのインパクトを与えることになっていくのかは予断を許さない。堅調な伸びを維持するインド経済については、その波及を楽観視する声も多い。
だが出稼ぎ者の送金という、ややミクロな視点からは、UAEのみでも100万人規模とされるインド人労働者たち自身や彼らが養う故郷の家族、ひいては彼らを多く送り出している地域の経済は、まさにショックな事態を迎えることにならないともいえず、今後の推移を見守りたいところである。
Dubai crisis raises migrant worker fears (BBC NEWS Middle East)

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