勝ち目はあるのか?

テレビニュースを見ていたら、『ハウラー駅で爆発物』という速報が出ていた。ウェブサイト上でもこの件について以下のような記事が掲載されている。
Box with ‘explosives’ found in train at Howrah station (NDTV.com)
なんだか最近ずいぶん多いなと思う。
そういえば、お隣りパーキスターンの首都のイスラーマーバードでも、ほんの数日前に大きな爆破テロがあった。標的となったマリオットホテルはグローバルに展開するアメリカ資本のホテル。ニュースによると建物は全焼とのことで、ホテルとしての機能は停止している。メディアで報じられていたホテルエントランスのパーキングエリアに大きく空いたクレーター状の穴が爆発のすさまじさを物語っているようだ。
ホームページ上にも事件により無期限で休業する旨記されている。同サイト上に用意されているPhoto Tourで豪華な施設設備等が紹介されているが、首都一等地の特にセキュリティが行き届いているはずのエリアに立地する国際的なホテルがこのような攻撃に遭うこと、そもそもザルダーリー新大統領がテロ対策を交えた演説を行なった直後にこうした事件が起きることについて、こと治安に関する新体制の能力に大きな疑問を抱かざるをえない。
こうした中で、インドにとっては腹の底まで信用はできないものの、国軍の支持を背景に内政面ではそれなりの安定をもたらし、近隣国に対しても一定の筋が通った対応をしてきたムシャッラフ大統領の辞任後対する不安は、後任のザルダーリー氏の選出でますます先行き不透明なものになった。このたびのテロ事件は、同国の今後の迷走ぶりを予見するかのようで実に気味が悪い。
パーキスターンにおける近年の過激派の浸透には、ジア・ウル・ハク大統領時代にさかのぼるこれまで歴代の政権がとってきた政策に要因があるとよく指摘されている。利用するほうも利用される側も互いの利益のために手をたずさえていても、まさに同床異夢で腹の奥で考えていることは違う。風向きが変わればあっという間に縁遠くなってしまうどころか、敵対してくることだってありえる。『傀儡政権』だってスポンサーにいつまでも忠実というわけではないように。また国内において比較的リベラルな傾向のある東部と、より厳格な北西部の文化的差異に基づく地域対立の関係もあるようだ。
また政府自身についても、ISI(パーキスターン統合情報部)に対する文民統制の欠如が長年指摘されているところであるし、北西辺境州の中のFATA (Federally Administered Tribal Areas)のように中央政府の管理がほとんど及ばないエリアがあるというのも、パーキスターン国内的にはそれなりの歴史的経緯と合理性をもって認識されているとしても、外国から眺めれば明らかに治安対策上問題が大きい。
従来、インドではテロが起きるたびにパーキスターンの関与を疑い、これを強く非難してきたが、国内しかも首都の中心でこうした事件が起きることを防ぐことができない政権自体にそもそも当事者能力は期待できるのだろうか。
だが『外国による関与』のみらならず、今年7月にバンガロール、アーメダーバード、そして9月にデリーで起きた連続爆破テロにあたり、犯行の主体がインド国内にある地下組織のインド人メンバー、つまりテロの国産化が進む傾向が大いに懸念されている。
社会の様々な面でいやがおうにもグローバル化が進む中、過激な思想やテロはいとも簡単に国境を越えたネットワークを形成していき、既存の統治機構はいつも後手に回っているようだ。事件に対する対症療法に終始しているようだ。国境という境目ごとの『タテ割行政的テロ対策』ではもはや封じ込めることはできないのではないだろうか。
テロ対策、治安対策は厳格になっていくいっぽうだが、その反面誰もが『叩くだけではダメだ』ということはとっくに気がついている。なぜテロが起きるのか?彼らの行動をどうやって防ぐことができるのか? テロリストたちはどうやって生まれてくるのか? こうした人々が出てこないようにするにはどうすればいいのか? 私たち人類に与えられた試練といえるだろう。
現象面に限って言えば、インドもパーキスターンも国内で頻発するテロに苦慮している。
『敵の敵は味方』というわけではないが、テロという共通の敵に対して地域で『共闘』していく必要があるようだが、それをできない時点でテロリストたちに大きく先んじられている。進化を続ける21世紀の『都市型ゲリラ』であるテロリズムに対して、果たして政府はついていくことができるのだろうか?

「勝ち目はあるのか?」への2件のフィードバック

  1. インド経済の行方について今後どうなると予想されますか?
    今回のテロは、インド政府そして企業家にとっては脅威になりました。
    本当にパキスタンや他イスラム派の関与によるテロだったのでしょうか。
    何故、テロは起きたのでしょうか。

  2. 今後どうなるのかむずかしいところですが、少なくとも短期的には良くない影響が出ることは避けられないでしょう。あまりにひどい事件でしたし。
    目下、誰が何のためにどうやって事件を起こしたのかということで究明が進められているところですが、やはり早々にしてラシュカレトイバの名前が挙がっており、隣国の軍の関与も取りざたされています。
    おっしゃるとおり、なぜテロが起きたのかという根本的な部分についても考えなくてはならないのですが、残念ながらその大元の部分は解決のしようがないこともまた難しいところでしょうか。
    今回のテロはまさにインドにおける過去最大スケールのものでありましたが、事件そのものと同じくらい気にかかることがあります。
    それは国民や野党を目の前にして、政府がどのような説明と対策を講じるのか、犯人たち(パーキスターンのパンジャービーが中心であったらしいとか)がやってきたとする国に対してどのようなアクションを起こすことになるのか、というところでしょうか。
    ともに立て続けに起きるテロに手を焼いていることもあり、手をたずさえて共闘するということにでもなればいいのですが、そのようなシナリオは想像しにいくです。
    両国の間で、さらなる流血や憎しみを増幅させるような事態が待ち受けていないことを願うのみです。
    今のところ『外国』というよりも、すぐお隣の国の関与が取りざたされているところですが、このところ『テロの国産化』が云々されているインドにあって、この凶行に自国民が少なからず関わっていたらどういう展開になってくるのか。
    今後の成り行きを見守るしかありませんが、インドという世界最大の民主主義国、そして長い闘争の末にようやく真の民政移管を実現したパーキスターンの人々の叡智に期待したい、というところでしょうか。
    それにしても、度重なるテロに対して、果たして政府には『勝ち目』があるのかどうか、どうも悲観的にならざるを得ないのがとても残念であります。

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