新しいダリット政治家の時代

昨日、国民会議派にダリットの政治家マッリカールジュン・カルゲーが選出された。

7月に行われた大統領選ではBJP推薦のダリットのドロウパディー・ムルムーが勝利を収めて就任したように、インド政界では国民の統合と斬新かつ公正な政治の象徴としてダリットが登用される例が増えているようだ。

もちろんそれらは投票(国民会議派総裁は党員による投票、インド大統領は国会議員及び地方議会議員による投票)を得て決まるものであるだけに、それらを支える広範囲な支持が必要であることは言うまでもない。

これまでもダリット出身の政治家はいた。独立直後の初代法務大臣、アンベードカル博士がそうであったように。だが、当時は彼のような優れた法曹家がたまたまダリットでもあったというような具合で、風当たりも強かったため、彼は仏教徒に改宗。以降、ダリットの人々の間では同様に仏教徒に改宗する人々が増えるなど社会の分断の象徴でもあった。ゆえに現在のそれとは大きく異なる。

また90年代以降はUP州でダリットを主な支持基盤とする大衆社会党が躍進し、政権を担うこともあった。女性党首でやはりダリットのマヤワティーのカリスマ的な指導力と人気もあったが、やはり社会から広範囲な支持を得ることはなく、その後は同じく後進階級ではあっても支持層が異なる(ヤーダヴを中心とするOBCsその他後進諸階級)の社会党との争いが続き、やがては同州にもこれらふたつの後進階級の支持を集める政党による支配をよしとしない人々によるBJPへの人気が高まり、現在はBJP政権下にあるなど、やはり社会全体から支持を集めるものではなく、既存の政治に対するアンチテーゼとしてのダリット指導者であり、ダリット政党でもあった。

実際、その大衆社会党政権下にあった当時のUP州では、あたかも一種の「文化大革命」でも起きたかのような混乱であったと聞く。州政府幹部の首が多くすげ替えられ、ダリット層の人々が何か事件の犠牲になると現地にすぐマヤワティーを始めとする政権幹部が急行し、現地警察を糾弾。警察幹部ですらいとも簡単に左遷あるいはクビになるなど、戦々恐々とした感じであったのだとか。またその他のUP政府の各組織内人事にも政権等はさかんに介入するなど、なかなか大変なことになっていたらしい。

そんなわけで、「台頭するダリット指導者」の多くは、既存政治に対する「抵抗勢力」であり、既存の体制の中でマジョリティーの中の一員として活躍するというケースはあまり例がなかった。

インドにおける「マジョリティー」内に深く浸透したBJPは、近年においては少数民族、辺境など遠隔地、そしてダリットを含めて、以前は浸透の度合いが非常に薄かった部分での支持拡大に努めており、その一環としてダリットの大統領を候補に立てたわけだが、党中央の意向どおりにその他広範な層がダリットへ候補への圧倒的な支持を集めるほど、「機は熟していた」とも言える。

国民会議派総裁選における候補者としてのマッリカールジュン・カルゲー選出(かなり直前になってからガーンディー家から直々の出馬要請があった。しかしその段になってインドメディアで「マッリカールジュン・カルゲーって誰?」という記事が出回るなど、彼自身の支持基盤外ではほとんど無名の人物であったと言える。

そんな彼が当選した背景には、他の出馬者で野心溢れる海千山千の強者ボスたちにとって、彼らの中の誰かが当選することにより、自分の立場が弱体化するとか、党内パワーバランスが崩れることを危惧しての手打ちがあったのかもしれないし、有力候補でありながらも敗北したシャシー・タルールが選挙の公正さに疑問を呈すなど、何かガーンディー家の意を受けての操作があった可能性も否定できない。

そんなバックグラウンドがありつつも、ダリットが出馬したこと、ダリットが当選したことに対するネガティヴな動きなどもなく、ダリット政治家がマジョリティーの中で当然のこととして活躍する土壌がとっくに出来上がっていることが見て取れるなど、ダリット政治家にとっての新しい時代が到来したと言える。

もちろんこうしたダリット政治家に期待される役割としては、出身コミュニティーや地域に拘泥しないニュートラルな指導者としての立場であり、ある意味、米国や英国で台頭し、首相や大統領といったポストすら射程距離に入っているインド系政治家たちが、労働運動や民族的蔑視を糾弾するような政党、組織から出るのではなく、保守系政党の一員として活躍しているのと似ている部分がある。

Meet Mallikarjun Kharge, The Dalit Leader Who Became Congress President In Historic Win (Outlook)

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