HIT & RUN

写真は文中の事故車両と関係ありません
アッサム州のジョールハートの空港に着いた。運が良いことにちょうどそこからシブサーガル行きのバスがあるとのことで乗り込む。空港からしばらく走るとジョールハートの市街地に出る。ジョールハートは、アッパー・アッサムへの玄関口であるとともに、ここから南東へ続く道はナガランド州へ、北西への道路はアルナーチャル・プラデーシュ州につながる交通の要衝でもある。郊外に出たバスはシブサーガル方面には国道37号線に乗り入れる。
片側二車線で舗装の状態も良好な快適な道が続いている。運転手はギアを一段下げてアクセルを大きく踏み込みバスをガガーッと加速させていく。まさにそのときだ。進行方向向かって左側に何かが衝突し、バス左側面にそれが嫌な音を立てながら引きずる音がしたのは。
車内の十数人ほどの乗客たちが総立ちになって左後方へ顔を向けている。そこには自転車とともに路面上に横転した男の姿があった。背後から陽が差しているため外傷があるのか、流血しているのかはわからないのだが、男はなんとか立ち上がって自転車を運ぼうとしているように見えた。
後続車がなかったのは幸いであったにしても、加速中のバスに衝突して無事であるはずはないだろう。街にどの程度の救急医療施設があるのかわからないが、急いで病院へ搬送されるべきである。


運転手はエンジンをさらに大きく唸らせながらバスをどんどん加速させていき、背後の事故現場がどんどん遠ざかっていく。ひき逃げだ。
複数の乗客たちが運転手に何事か声をかけると、彼はいきりたって叫んでいる。地元の言葉なので何を言っているのかわからないが、手のしぐさ、表情、その場の雰囲気から察すると『オレは悪くないぞ。奴がこっちに当たってきたんだ!』と主張しているようである。そしてとにかく事故現場からより遠くへ離れたいという表情である。
興奮している彼はその後も執拗に後方の乗客たちに激しい口調でがなり立てている。『この事故に関してそして自分は悪くない、奴が無理なことをするからだ。ぶつかってきたのは自転車の男であって、こちらに落ち度はない』と繰り返しているのだろう。
乗客たちの騒ぎが収まり、周囲の景色が行けども刈り入れ後の茶色い田畑が続く風景になってきたころ、運転手はかなり落ち着いてきたようである。
 出発後かなり時間が経っても車掌が料金を取りに来ないし、途中どこにも止まらず、沿道でバスを待つ人を乗せることもなくノンストップで疾走する。実はこの車両はある企業がバスをチャーターして従業員たちをシブサーガルよりも先のディブルーガルの町まで連れて行くことになっているそうだ。ジョールハートの空港前で、車掌がシブサーガルに行こうとしている私を乗せたのは通過点であるその街まで運んでやることにより、運賃相当額の臨時収入を得たいからなのであった。
乗客たちは皆仕事の同僚たちであり、チャーターバスの運転手と車掌たちとも彼らと顔なじみではあるようだ。。お互い事を荒立てたくないということもあり、事故後に運転手が猛烈に自分に非がないと主張すると乗客たちはそれを見なかったことにしてしまったのかもしれない。
昔、南デリーの歩道で人を待っていたとき、反対側の車線でトラックが歩行者を轢いてしまう瞬間を目撃したことがある。そのときも事故車両はスピードを上げて現場を後にしていた。よく新聞記事などでも事故を起こした運転手が『absconding(逃亡中)』という記述、ひき逃げで死亡した人についての記事などを目にする。
加害者が事故現場にうっかり降り立ったりすると、周囲の人々等にどんな目に遭わされるかわからないということがあるとはいえ、事故状況を把握している当事者が事故処理をせずに逃げてしまうのは非常にまずい。
インドの道路での安全にはくれぐれも注意するよう心がけたいものである。

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