チャンバルの盗賊の死

 昨年の今頃であったただろうか。伝説の大盗賊ヴィーラッパンが南インドで警察の治安部隊とのエンカウンターの結果、絶命したのは。
 そして今年は、かつてのプーラン・デーウィーと同じく、北インドのチャンバル渓谷を舞台に悪名を馳せたニルバイ・グルジャルが、STF(Special Task Force)との銃撃戦の末、死亡した。おとといの夕方のことである。
 しばしばメディアの取材に応じ、写真とともに記事が掲載されていたので、まるで絵に描いたような「悪漢」らしい不敵な面構えが脳裏に浮かぶ人も多いだろう。
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 200件を超える凶悪事件のお尋ね者。年齢は40代とも50歳を越えているともいわれていたニルバイは、幾度か結婚を繰り返しているが、いずれも妻となった女性たちとの家庭生活は長く続かなかった。その中には部下と駆け落ちした者あり、警察に逮捕されてそのまま生き別れになった者あり・・・。
 獲物を求めて野山をさまよう「狩人」には、世俗の家庭生活などもともと似合わなかったのかもしれない。


 最盛期には70名を越える取り巻きを率いていた彼だが、近ごろその数は5、6名にまで減っていたという。そこにきて仲間の報奨金目当ての裏切りにより、警察に居所が知れたため、こういう結末を迎えることになった。
 これまで数々の危機を事前に察知して乗り切ることができたのは、持ち前の「政治力」によるものだという。中世ならともかく、この現代で地域の政治勢力との繋がりがなくては決して続けることができなかった「稼業」だろう。アンダーグラウンドな人生の中で、他には知りえないさまざまな秘密を抱えてもいたことだろう。
 ヴィーラッパン同様、実際その場に居合わせた治安部隊関係者たちしか真実を知り得ない「エンカウンター」で葬り去られることにも、いかにも「知りすぎた男」の最期という気がしないでもない。
 ジリ貧となっていた近年は投降を真剣に考えており、現在のU.P.州首相のムラーヤム・スィン・ヤーダヴなどに接触を図っていた彼にしてみれば、自分を高く売れるタイミングを見誤った結果ということができようか。
 彼がいなくなったことにより、「枕を高くして寝られる」のは、地域の富裕層ではなく、むしろ彼とウラの繋がりがあった人々ではないだろうか。
 法の枠外で暗躍する盗賊も、よくよく見れば社会という大きな機構の中のひとつの歯車であるのかもしれない。
Nirbhay Gujjar shot dead by STF (The Times of India)
ニルバイの遺体、身内へ(दैनिक जागरण)

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