自転車に乗って村八分 2

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 前置きが長くなったが、インディアトゥデイ9月21日号には、あるダリットの女の子をめぐるこんなニュースが掲載されていた。
 オリッサ州都のブバネーシュワルから10キロほどのところにあるナルスィンハプルは上位カーストが多数を占める村。ここに暮らすダリットの小作農民の娘、マムターが日々繰り返すごくなんでもない行為が、地域で大きな波紋を呼んでいる。村に住むこの階層の女性の中で初めてカレッジで学ぶ彼女は自転車通学しているのだが、問題とされるのはまさにここなのだ。
「アウトカーストの者が自転車に乗ってはならぬという禁を破っている」ということで、地元の支配層の怒りを買い、彼女の父親はその連中から不条理な要求を突きつけられた。
1. カレッジを退学する
2. カレッジへ徒歩で通学する
3. この地域で村八分
以上の中からいずれかを受け入れること。


 将来は教師になりたいという夢を持つマムターが、いずれの要求をも無視した結果、彼女の家は「村八分」の状態にあるそうだ。
 しかし唯一の救いは、地域を管轄する警察幹部がマムターの側についていることだ。この男はアミターブ・タークルという名からして上位カーストの人間だが、「公僕」としてまっとうな仕事をしているようだ。
 ひとりの女性警官を含む複数のポリスたちを護衛につけて、通学の際もマムターの影のように付き添わせるとともに、他の警官や役人を村に遣ってはマムターの自転車通学に同意するよう説得を試みている。
 オリッサでダリットの置かれた状況は、こうしたアウトカーストを含む被差別階級が政治的発言力を向上させつつある西ベンガル、ビハール、ウッタルプラデーシュといった近隣州とくらべてかなり遅れているのだという。
 
 この地域のダリットの人々が置かれている、まるで中世のような状態がうかがえるようであるが、やはりマムターのような勇気ある人の行動とそれを支持する人たちのおかげで少しずつ変化の兆しが見えてくるのだろう。 マムターの「自転車通学問題」は、もちろんダリットをめぐる問題の氷山の一角にすぎないが、彼女の住むナルスィンハプル村でどういう決着を見ることになるのか、気になるところである。
 だが変化というものは同時に反発を生む。インドで地域によっては「カースト戦争」とまで表現されるほどの流血の惨事を繰り返したことがあったし、今でもその炎が消え去ったわけではない。
 これは被抑圧者の立場から見た「解放」、支配側から見た「既得権の消失」という単純な図式ではなく、実はその背後には地域社会における価値観や秩序のトータルな再編成のためのパワーゲームという大きな動きの中の一側面としてとらえるべきなのかもしれない。
<完>

「自転車に乗って村八分 2」への2件のフィードバック

  1. 知り合いのオリッサ人(バラモン)に聞いたところ、「ダリットが自転車に乗ってはいけないなんて、聞いたことがない」と言ってましたが・・・ 

  2. 私もその記事を読むまでそんなことがあるなんて知らなかったのですが、特定の地域のカラーやごく狭いローカリティでの掟みたいなものがあるのかもしれませんね。

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