ビカネール1 旧藩王国最後の宰相の屋敷

バスはシェーカーワティーを出てしばらく細い道を進むと、やがて舗装が非常に良質で道幅が広い国道11号線に出た。スピードが出る分、運転席真後ろの狭いスペースにいると怖い。片側三車線区間が一部、あとは片側二車線が大半。ときどき一車線になったりもする。

昔のように「道路に穴が空いているのか、穴が空いているところに道路が通っているのかわからない」と首相在職時(1998年3月~2004年5月)のヴァジぺーイー氏が発言したようにひどい時代があったが、もはやそれは遠い過去のことになっている。インド各地の主要幹線道路はとても良くなった。

そのいっぽう、沿道の動物たちには危険なようで、30分に1回以上は、轢かれて死んでしまった野犬や牛などの哀れな姿を目にする。誰も処理しないのでそのままになっているのだが、ゾッとする光景だ。

シェーカーワティー地方を出てしまったことは、ハヴェーリーや塔のついた井戸が風景からなくなることでよくわかる。デリーやハリヤーナーに近く、ラージャスターンの他の地域にも囲まれているのに、どうしてこういう独自の伝統がここに残ったのか、それでいてなぜ他の地域にも広がることはなかったのかと不思議に思う。それとは反対に、ごく狭いところから周辺部に伝播した範囲で、シェーカーワティーの文化が形成されたのかもしれない。

やがてビカネール(正確に書くとビーカーネールだが、字面があまりに冗長になってしまうため、今後はビカネールと表記)までの距離表示が、すでに20キロを切った。道路の状態が良いので、もう目と鼻の先だ。

プライベートのバスであったためか、本来のバススタンドではない空き地に停車して、「ここが終点」とのこと。鉄道駅近くの宿まではずいぶん遠かった。

本日の宿は、Hotel Jaswant Bhawan。駅の北口近くとはわかっていたが、鉄道用地のゲート出たところであった。

ビカネール藩王国最後の首相であったラオ・バハードゥル・ジャスワント・スィンが暮らした家がホテルとなっている。築200年というこの屋敷だが、現在もオーナーであるファミリーの居間に通されて食事が出来るのを待つ。

ここは運営を外部に委託しているわけではなく、ここの家族、特に奥さんと主人の若夫婦が対応してくれる。アットホームな雰囲気で、食事の場所や居間スペースが家族のところなので、ホームステイに近い感覚だ。部屋もまずまずで、ちゃんと蛍光灯が入っているので日記を書いたりする際にとても助かる。

料理のメニューは、同じ並びのすぐ隣にあるジャスワントという名のレストランのもの。中は薄暗く、バーと兼用なのであまり雰囲気の良い店ではなく、上品な家族の所有らしからぬ感じがするが、尋ねてみるとやはりそこも家族で所有しているとのこと。この宿で供される料理はレストランから運んでくるのではなく、ここの家のキッチンで作っていた。奥さんが使用人たちを指揮して、出来上がるとせっせと運ばせてくれる。

居間には勲章なども飾ってあり、藩最後の宰相が受けたものであったり、この家から出た軍人が与えられたものであったりするようだ。最近はWi-Fiを用意している宿が多くなったが、ここのホテルも同様だ。宿泊先に必ずWi-Fiがあれば、インドの携帯電話がなくてもなんとかなる部分はあるのだが、やはり移動中に観光地を調べたり、観光中に検索したり、そして電話も使いたいので、やはり今の時代は旅行中でも地元のSIMは必需品である。

〈続く〉

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