スパイス・ジェットに乗ってみた 2

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 実質のフライト時間が40分強しかないムンバイ・ゴア間では、他社の機内サービスも同程度か、せいぜいサンドイッチなどの軽食であったはず。
 だが格安会社の参入により既存の航空会社ではそれらと「差」をつけるために、短時間のフライト時間ながらも、無理して温菜のついた正規の機内食を出していることが、ゴアからの帰りに他社便を利用してみてわかった。
 しかし時間がタイトなため、食べ終わらないうちに回収されてしまう人も少なくなかったし、フライトアテンダントたちが片付け終わるのが空港滑走路へ進入する直前になるなど、安全面等でどうかと思うのだが。
 ムンバイ・ゴア間の運賃が4900ルピー前後の既存各社は、同じルートの通常料金が1650〜1700ルピー程度のスパイス・ジェットエア・デカンとの圧倒的な「価格」差を目の前にして苦労するのは無理もない。


 利用者にとって同じルートを安く、しかも三分の一ほどの料金で行けるのはありがたい反面、こうした新興の会社について不安がないでもない。
 発足したばかりで安全面での実績がないだけではなく、90年代から国営のインディアン・エアラインスと同じ土俵で、ベターなサービスと高い定時運行率で評価を築き上げてきたジェット・エアウェイズエア・サハラといった民間航空会社などと比べて会社の規模が小さく、所有している機材を常時フルに使いまわしている。
 そのためこの中の一機にでも故障があれば、運行スケジュール全体にかかわる問題として利用者に跳ね返ってくる。
 またほとんどネット予約専門というのもやや不便なところがある。スパイス・ ジェットの場合、予約等のために公開されている電話番号がフリーダイヤルと携帯電話それぞれひとつずつの計2本しかないのは実に頼りない。外出中その他でインターネットにアクセスできないとき、非常に急ぐときなどは困るのだ。
 実はゴアからの帰路については、急な事情によりフライトの日付を早めたかったのだが、ネットが不調で電話もつながらなかった。パナジ市内には現地オフィスもない。空港のターミナル外の発券カウンターに到着したときには、同日の便はすでに満席であったため、やむなくスパイス・ジェットのフライトをキャンセルして他社便のチケットを購入した。だが格安航空会社においては、まさにこうした予約システムの集中化と業務の思い切ったスリム化等によってこの価格が実現されているのだからそう文句は言えないと思う。
 かつては「遅々として進む」と言われていたインドだが、この時代(90年代以降)になってからは、世界で最も速いスピードで物事が動く土地のひとつとなっている。
 その中でヨソ者にも特に「目に見えて」ホットなのが航空業界だ。 同国の交通手段の中で、今後最もドラスティックに変化していくのがまさに「飛行機」である。ほんの少し前まで、国営会社インディアン・エアラインスの牙城を突き崩すべく躍進を続けてきた民間航空会社は「大空の革命児」であった。だが昨今の格安路線の登場によりいつのまにか「保守派」のテーブルに座らされている。当人たちもさぞビックリしているのではないだろうか。
 新会社の「低コスト戦略」からポジティヴで強いインパクトを受けるのは私たち乗客だが、航空各社で特に顧客関連の業務にたずさわる人たちはどうだろうか。全体的には相当な成長が今後見込まれる航空業界とはいえ、彼らは強い逆風下にいるのではないだろうか。
 労働運動が盛んで組合が強い力を持つインドではあるが、格安航空会社が順調にシェアを拡大し、カバーする路線が広がっていけば、おそらく今後は既存各社とも業務や人員等の整理合理化が急速に進むことになる。
 これまで国営会社を中心にかなり手厚く保護されてきた航空業界だが、ここで働く人々にとって「雇用のありかた」「働きかた」について、これまで経験したことのない大きな異変が起きつつあることが想像される。
 ひょっとしたら「空の旅の大衆化」 は、その一方で大きな「労働問題」の芽もはらんでいるのかもしれない。
<完>
ボーイング インド新規航空会社スパイスジェットより次世代737-800機10機を受注
(ボーイング・ジャパン)

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