近未来のデリー お出かけは便利な地下鉄で 

  インドの(途上国はどこもたいていそうだが)公共交通機関を利用するのにはなかなかパワーが要る。都会は広いだけに、乗り物をうまく利用しないことにはにっちもさっちもいかない。通常、インドの都市部では公共の足といえばくまなく張り巡らされたネットワークを持つ市バスということになるだろう。郊外電車、路面電車を走らせている街もあるが、ごく限られた路線を行き来しているだけなので、利便性では前者の足元にも及ばない。
 だが線路といういかにもわかりやすいルートを往復するものと違い、道路にバス路線 が矢印で描かれているわけでもなし、しばらく長く住んでいなければどの番号のバス がどう走っているのか見当もつかない。そうであっても普段の自分の行動圏からはみ 出せば、やはり文字どおりの異邦人となってしまう。
 また膨大な人口を背景とした需要に対する供給が追いつかないため、朝夕には出入口まで乗客で鈴なりになっていたりするのを目にした途端乗る気が失せてしまうし、運行間隔がアバウトためか、同じ番号のバスが立て続けにやってきたかと思えば、その後首を長くしてもなかなか来なかったりする。バス停で完全にストップせずに「徐行」中にステップから乗り降りしなくてはならなかったりするのはお年寄りや身体に不具合を持つ人たちにはさぞ大変なことだろう。
 バスはともかく歩いていてもそうだ。「歩道」の縁石が階段の三段分ほども高く、一応足元に注意を払っていないと、蓋が失われたマンホールの中にスッと消えてしまうこともありえるし、コンクリートの敷石もあちこち欠落しているのでつまずいたりするし、急に野犬が飛び出してきたりもする。早朝にジョギングを楽しめる環境ではないから、歩いていても快適とは言いがたい。
 片側複数車線の大通りの中央分離帯は、反対車線から対向車が大きくはみ出してくることのない「安全地帯」だ。半分渡ってここで一息ついてから残りを渡ることができるのだが、これがない通りではかなりの勇気と判断力が必要になってくる。日本と違っておおむね街の灯が暗いこともあるが、特に見通しが悪くなる日没後はこれらに加えて「視力」も大切になってくる。


 おのぼりさんや外国人旅行者にとってはどうだろうか。あたりに人たちに聞きまわり ながら、どこに行くのかよくわからないバスに乗るのは面倒なことだ。土地勘がなければオートやタクシーもかなりボラれてしまいそうだし、夜間一人で利用することに不安をおぼえる女性は少なくないだろう。そこでやっぱりあると非常に助かるのが地下鉄ということになる。
 途上国でなくても、たとえば韓国のソウルを思えばいいかもしれない。地下鉄ならば土地の言葉ができなくても簡単に市内を行き来することができるのだが、市バスを駆使するのはなかなか難しい。
 シンガポールでは、地下鉄SMRT同様にうまくオーガナイズされている市バスだが、これを利用する際にはやはり人に尋ねたり多少調べたりする必要があるし、目的地が来るまでボケ〜ッとしているわけにはいかず、「今どのあたりか?」と周囲に気を配る必要がある。
 あるいはバンコクを思い浮かべてもいいかもしれない。ここで活躍するBTSのスカイトレインは文字通り、地下鉄ではなく頭上の高架を走る高速鉄道だが、眼下で繰り広げられる数珠繋ぎの大渋滞をヨソにスイスイと市内を巡ることができるのだから大いに助かる。バスに比べて地下鉄は、乗っていてずいぶん気が楽なのだ。
 思えば外国でなくても、東京都内のバスさえほとんど利用したことがない。地下鉄で目的地の最寄駅まで行き、そこから徒歩かタクシーである。都バスは乗ったが最後、いったいどこに連れて行かれるかわからないと言っては大げさかもしれないが、何だか面倒なのである。
 そんな中でインドの首都に導入されて着実にルートを広げているデリー・メトロは弱者やヨソ者にもやさしい交通機関として期待する向きも多いだろう。
 今のところ開通しているのはまだごく一部分にしか過ぎないものの、2010年のコモンウェルス大会までには当初計画の全線(規模において地下鉄の「先達」カルカッタなぞ比ではない)開通させる予定だというから、インドの他の主要都市を大きく引き離して市内の往来が実に楽ちんな街になる。しかも将来的にはさらに拡大するプランもあり、近未来のデリーで街歩きするのが今からちょっと楽しみである。
Delhi Metro line up and running

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