巨木にお別れ

 バスに乗ってカルナータカ州の国道を走っていると、突然前方が詰まって渋滞してしまった。ピクリとも動かない。反対側の車線は、車がパッタリ途絶えている。交通事故だろうか?
 他の乗客たちとともにバスを降り、前の様子を見にいってみると、そうではないことがわかった。道路わきの大木が倒れ、道路を遮断しているのだ。
巨木にお別れ こんな作業があちこちで行われていた / photo by Akihiko Ogata
 「走っている車の上に落ちてこなくて良かった!」とほっと胸をなでおろしたが、よくよく見れば、倒木は事故や偶然ではなく人為的なものだった。現在、バンガロールからマイソールを経由して西へと進む幹線道路の整備が急ピッチで進んでいるが、この「作業」もその一環なのだ。
 倒木の上で木こり(?)たちが、斧やノコギリで大きな幹や枝を細かくばらしては、道路の外に放っている。枝はちょっとした木の幹みたいに太く、すべてを取り除くのは大変な作業である。ようやくバスが再びエンジンをかけて走り始めたのは小一時間も経ってからだっただろうか。
 工事によっては片側二車線に拡張される道路もある。州の大動脈らしく立派な道路となって、人びとの往来や物資の輸送の便を格段に向上させることだろう。それにしてもこうやって平気でクルマの交通を長い時間遮断する作業がまかり通ってしまうのはいかにもインドらしい。
 しばらく進むと、また同じように道路がブロックされていた。幸いこちらでは迂回路があり、それほど待たされることなく先へと進むことができた。
 この翌日も翌々日も、クルマで走っていると幾度か同じような「渋滞」に遭遇した。相当な勢いで工事が進行していることがわかる。


 乱暴な工事のやりかたはともかく、便利になることは良いことに違いないのだが、これまで長年道行く牛馬や人びと、行き交うクルマを強い日差しから守ってきた大木が次つぎと切り倒されているのを見ると、ちょっと悲しくなってくる。
 両脇を背の高い木々の列に挟まれ、はるか彼方までどこまでも続く国道の風景はいかにもインドらしい。その昔、道路を整備したときに政策的に植えられたものだろうが、こうして役目を終えていくのには、何か歴史の一区切りを目の当たりにしているかのようだ。
 これからは街中だけではなく、のどかな街道風景の様子も次第に姿を変えていくことだろう。それを想うとちょっと感傷的になってしまう。もちろん、明るい明日を実現する力強さも感じさせてくれるのだが。
 将来、この国に住む人たちが「あのころから、いろいろ変わったものだよ」と回顧するような変化の時代、それがまさに今なのかもしれない。

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