「インド子連れ旅」に思うこと

おもちゃのオートリクシャー
 もうじき三歳になる息子と妻と三人でインドを訪れた。出発前にはいろいろ不安もあったが、交通機関、宿泊、食事などそれなりに気を配れば大きな問題はないことがわかった。もちろん、幼児を連れて旅をすると、大人だけ旅とは異なり、いろいろ注意すべきことがあるのにも気がついた。
 見るからに危険な外の往来はさておき、幼児にとっては、中級クラスのホテル内にも思わぬ危険が潜んでいる。
 まず日本とは建築の基準が違う。階段の手すりの欄干の間隔が、子供がすり抜けられるくらい広い。階と階の間に転落防護ネットのような気の利いたものはない。ベランダの柵もやけに低いことがあるから気を抜けない。
 また、小さな子どもはたいがい寝相が悪いもの。室内の床がコンクリートや大理石板であれば、就寝中に転落して頭を打つことがないよう気をつけなくてはならない。
 食事については、特に辛いものでなければ大丈夫だった。ただ、最初はおとなしくしていたものの数日経って雰囲気に慣れてくると、料理に飽きてきたのか駄々をこねるようになって閉口した。こんな時は、高級ホテルでなくとも利用できるルームサービスに助けられた。
 毎日の昼寝も欠かせない。日本であれば、外出時に幼児用バギーに座らせておけば済むが、インドでは都市といえども、路肩は未舗装だったり、歩道があっても段差が大きく、凸凹だったりするためまず使えない。そのため外出先で寝てしまうと目が覚めるまでずっと抱っこするはめになる。
 だがインドでは徒歩やバスではなく、オートやタクシーで移動できるので、ほとんど歩かなくて済むという点は救いだった。


 オムツを替えられる場所はそう多くない。都会の市街地では、ファストフードや高級レストランのトイレが利用できるが、これらの場所でも子どもを立たせて替えないといけないので、「大きいほう」だとかなり苦しい。雨さえ降っていなければ、ちゃんと寝かせられる公園や遺跡のベンチのほうがまだいい。
 だが、幼児は時と場合を選んでくれない。オムツ替えに適当な場所を見つけにくい混雑した旧市街で車や牛を避けながら歩いているときに、「ウンチ出た!」とはまさに悪夢である。
 使い捨て紙オムツは予想以上にかさばる代物。オムツさえ取れていれば、幼児を連れての旅行は格段に楽になるはずだ。
 一人やカップルで旅するよりも気苦労は大きいが、日本の生活の中でも身の回りの世話がいろいろと煩雑な小さな子どものこと。旅先でも同じ手間ヒマがかかるというだけ!と開き直れば苦ではない。
 結論を言えば、それなりのレベルの交通機関や宿泊施設を利用すれば何ということはない。だがこの国で消費生活をエンジョイする層は都市部にしか存在しないと言ってほぼ間違いない。そのためちょっと脇道にそれると、いきなりポンコツバスとボロボロの安宿しかなくなって、おのずと行動範囲は制限される。片田舎でも一定レベルの経済水準が保たれている先進国との大きな違いである。
 ともあれ、四〜五歳くらいになれば手がかからなくなってくるはずなので、親子ともども旅行をゆったり楽しめることと思う。もっともそのころには、勝手に「脱走」しようとする子どもにヤキモキしているのかもしれないが…。
 「家族旅行」といっても子ども自身は好きで来たわけではない。親に付き合わせているわけなので、本人にとって「インド」が苦痛ではないか気になるところであった。 
 だが幸いなことに、幼心にもインドは好奇心をそそるものであったようだ。動物園以外で見るゾウにラクダ、路上に歩く牛に羊など、すぐそばから眺められることは新鮮な驚きであり、生まれて初めて見るオートリクシャーや馬車に歓声を上げ興奮する。日本のそれとはずいぶん様相の違う鉄道やバスをつぶさに観察することは、乗り物好きな子どもにはたまらない喜びである。  
 あちこちで地元の子どもたちと遊んでもらったり、見知らぬオジサン、オバサンに声かけてもらったりしていたおかげもあってか、「おウチに帰りたい」などと言って親を困らせることなく、興奮と発見に満ちた日々を楽しんでいた。
 日本に帰国してからは、イスに座って左手に棒を持ちテコを動かすようなアクションを繰り返している。オートの運転手がエンジンをかけるときの動作を真似しているのだ。
 何がそんなにアピールしたのか知らないが、インドに行ってからは彼にとってのヒーローの座は、「電車の運転手」から「オートリクシャーのおじさん」に取って代わった。少なくとも彼が記憶しているうちは。
 今日も我が家ではオートリクシャーとアンバサダーのミニカーが勢いよく畳の上を走り回る。空を飛行機が飛べば、子どもは「あれはインドに行くんだよ!」と大声で叫んで窓の外を指差している。

「「インド子連れ旅」に思うこと」への2件のフィードバック

  1. さすが、ogataさんの息子さん!はやくもオートファンですか。これはぜひ息子さんのためにも、Bajaji購入しなくては…(笑)。
    3歳足らずの子どもとインド旅、というのは考えたら大変そうだけど、実際やってみたら何とかなってしまうのかもしれませんね。
    もちろん、「両親のどちらかがインドへ行ったことがある」というのが、けっこうポイントだと思いますが。

  2.  個人的には三歳あたりから、どこかに遠出するのはかなり楽になると思います。
    ウチもそうですが他の家庭を見ていても、それ以前だと何かとすぐに熱出したり病気するなどで、なかなか予定が立てられなかったりもします。このあたりから身体の変調もグッと減って、「まぁ、なんとか」といった具合でしょうか。
    もっとも親ひとりで連れて行くとしたら、あるいは夫婦連れで手間かかる年頃の子供がふたりもいるとかなり大変なことと思います。
    大変といえば航空運賃もそう。二歳以上は大人と同一料金だったり、子供料金が設定されていても鉄道のように半額になるわけではないので、人数増えると経済的な負担も大きいですね。

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