小さなヒルステーションでゆったり

カサウリーの教会
カサウリーはチャーンディーガルから65km、シムラーから77kmの地点にある。パンジャーブやハリヤナーからシムラーに向かう人が、こんな中途半端な場所でストップする理由もないかもしれないが、私は幼い子連れであるがゆえに長い山道がダメなので寄り道してみたのだが、これが意外に良かった。
チャーンディーガルからシムラーへと向かう国道22号線途中にある町ダラムプルから東へ折れて山肌に貼り付く細くところどころ荒れた道を進む。やがて雲行きが怪しくなってきた。霧 が出てきたと思えばそれは雨雲であり、ポツリポツリと降り出してきてすぐに激しい豪雨になってしまい、道はやがて川のようになってきた。
しばらく走ると、道沿いに家屋や商店などが点在するようになってきて町が近いことがわかる。ほどなくカサウリーに到着。
カサウリーのホテル
宿泊先はややくたびれた感じの重厚なコロニアル調の建物。ちゃんと手入れがなされれば相当いいホテルに変身できるのではないかと思う。レセプション脇のレストランを抜けたところにあるバーにはビリヤード台が置いてあり、さらに向こうには広々としたロビーがある。私たちが宿泊する部屋は道路を挟んだ別棟になるが、こちらも同様に古い建物だ。窓際にソファが置かれた寝室の横にはドレッシングルームも付いており、一応スイートルームということになっているらしい。
ホテルにチェックインしてからも激しい雨は続きしばらく外出できそうにないので部屋の外のテラスにテーブルを出して昼食。周囲には針葉樹が多く深く濃い緑が美しい。潤いを帯びた空気とともにまさに「オゾンで一杯」といった感じだ。大きく息を吸い込むとすると肺の奥まできれいになりそうな気がする。
バーとビリヤード台


雨が上がってからホテルを出て坂を上ったところにある英国風の教会脇がタクシースタンドになっている。ここから少し下ったところには簡素なバススタンドがあり、町を貫くモールの中間地点だ。ここから南東側がアッパー・モールと呼ばれ、北西方向がロワー・モールと呼ばれる。どちらもコロニアル建築でいっぱいだが、前者が商業地で後者は住宅地といった具合だ。
1842年からイギリス当局によりヒルステーションとして開発されたカサウリーは当時から軍の駐屯地であり現在も同様である。したがって道路脇には一般人たちが立ち入ることができない建物や敷地があちこちにあり、いくつかの道が一般車両通行禁止となっているのはいかにもそれらしい。
もちろん避暑地としてのカサウリーでは、植民地時代に在住のイギリス人も多かったようだ。『The Room on the Roof』『Rain in the Mountains』などを書いた作家のラスキン・ボンドはこの町で生まれた。またここは医学研究の地でもあり、特に狂犬病に関する調査研究が盛んになされたようだ。
しかしそんなことよりも飲兵衛にとって身近に感じられるのは、ここはインドにおけるビール発祥の地であるとともに、IMFL(Indian Made Foreign Liquor)の故郷であることだが、これについては次回改めて述べることとしたい。
ともあれ道路ネットワークをはじめとする地勢的要因から、商業地として地域の物流の要衝となるべきところに、ゴチャゴチャと形成されていった他の街とはずいぶん趣が違って、浮世離れした静けさと落ち着きがある。埃っぽい集落ではなく、区画ごとが広くて家屋も大きめでしっかりしているところが多く、周囲を豊かな緑で囲まれながらもきちんと整備された町だ。どういう人が住んでいるのか知らないが、大きな屋敷も多いことに驚きをおぼえる。祐福な人たちの別荘なのだろうか。ちなみに山の中にある人口5千人余りの町ながらも、ここに暮らす人々の識字率は80%を優に超えているのだとか。
高い塀に囲まれたお屋敷がそこかしこに
チャーンディーガルあたりから手軽に訪れることができるヒルステーションとして人気なのではないかと思うが、見たところ特に賑わっている様子はない。もう少し北上すればヒルステーションとしては最上格のシムラーに着いてしまうのだからわざわざここに立ち寄ったり宿泊したりする動機に欠けるのだろう。町の規模の割には建物の規模が大きく、英国調の建物が良く残っている。あまり商業化が進んでいないことも保存状態と関係があるかもしれない。モール脇には石畳の小道が続くバーザールもあり風情がある。
決してその数は多くないが宿もレストランも設備のきちんとしたものが目に付く。こじんまりしているがやや高めのリゾート地のようである。
周囲には木肌が赤い松の木が多く、日本のどこかに来ているようでちょっと懐かしい気持ちがする。木立の中の細い舗装道を散歩するのは気持ちがいい。時折注意を払わなくてはならないのはいたずらなサルたちだ。木の上から通行人めがけてしきりに松ぼっくりを投下する奴が多い。仲間のうちの一匹が始めて面白かったので流行しているのか、界隈のサルたちの「文化」なのか知らないが。
松ぼっくりは日本のそれよりもずっと大きく大人の握りこぶしほどのサイズだ。こんなのが当たったらさぞ痛いことだろう。幸いなのはサルたちのコントロールが悪く、そうそう命中しそうにないことだ。
日が沈んでサルどもが悪さをやめるころには町は寝支度に入るようだ。繁華街のようなものは存在しないので、宿泊先で夕食を済ませて自室でゆっくり読書など楽しみながら長い夜を過ごすといいだろう。
カサウリーは、涼しく静かなところでのんびりできて、かつ不便は感じずに快適に過ごせて、しかも交通至便という意味で、とてもお勧めできる保養地だ。

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