NHK スペシャル『インドの衝撃』

 1月28日(日)から三夜連続でインド特集。昨日放送の『わき上がる頭脳パワー』に続き、本日29日は第二部『11億の消費パワー』が、そして最後30日には『台頭する政治大国』といった題目が与えられている。
 躍進するIT産業と優れた頭脳、第三位以下を大きく引き離しての中国に次ぐ世界で二番目の巨大な人口を背景とした圧倒的な市場規模と人々の意識の変化による消費ブーム、国際政治の舞台において大きな存在感を示す大国ぶりと内政面で抱える様々な課題などといった切口から現代インドの姿が紹介される。
 日本で放送される『インド特集』における番組制作者たちのアングルが『ロマン』『歴史』といったものからより現実的なものへとシフトしてきているものの、『近ごろインドは・・・らしい』『今どきのインド人は・・・である』といった具合に巷で言われている紋切型のイメージを追認させる形で作られているものが多いことについてはあまり変化がないように感じる。
 もちろん今の日本にとってインドに対する最大の関心ごとといえば(観光を除けば)経済とその背後にある政治ということになるのだから、まさにその需要に応えたものであるとは言えるだろう。


 だがこうした報道でインドに対するイメージが一般化してしまうことを心配する向きも少なくないのではないだろうか。たとえばかつてのインド映画ブームで、同国で製作される映画はみんな『踊るマハラジャ』状態であるとの誤った認識が広まってしまったことから、今でも『インドの映画が好きだ』といえば『よく飽きないね』『一体どこがいいの?』という返事が返ってきたりして実に寂しい思いをしたりする。
 同様にインドの経済、政治など『一般化』されてしまうのはいかがなものかとも思わないでもない。まさに今の躍進するインドを代表する地域があるいっぽう、出口が見えない紛争が続くJ&K州、人口が非常に稠密ながらも長く停滞が続き社会問題も山積するビハール州、近ごろ韓国企業による大規模な資本投下があったもののやはり後進地域を代表する(失礼ながら)のオリッサ州などのように、『優秀な人材が豊富』というわけではないし、決して『有望な市場』でもなく、今後もおそらく長い間に渡って)『好調な経済』とも無縁であろうと思われる地域は多い。
 かつてインドの経済が総体として『Hindu rate of growth』と揶揄されていた時代と変わらない停滞が続く広大な地域、膨大な人口があることに目をつぶり、すべてを平たくならして一般化してしまうのはちょっと危険な気がする。
 かといってインドの『ひろがり』をどのようにして示すかとなると、これまた大変な手間ヒマがかかるわけだし、あまりに冗長になってしまってはインドについてさほど興味や関心を抱いていない人はいちいち付き合ってくれないだろう。
 しかしこうした平均値が無い、あるいは平均値を示すこと自体にあまり大きな意味がなかったりするところにこの国の『おおきさ』があるのだと思う。たとえインドの『IT』や『経済』などが私たちの期待する姿であろうとなかろうと、ぜひとも末永くお付き合いを続けていきたいものである。
 なおこの番組の再放送は2月11日(日)から13日(火)にかけて予定されている。
◇NHKスペシャル『インドの衝撃

「NHK スペシャル『インドの衝撃』」への7件のフィードバック

  1. 上記のNHKの番組を見て激しく怒っています。特に解説が一番品が無いと思っています。何だNHKの汚いやり方!
    ”貧困から脱出したインド人が商品を楽しんでいます。”という文脈が頭にきた。そこでインタビューされたおじいさんが言っていることと日本語の訳があまりにも違います。それからIT産業がインド経済成長の発展の2%しか貢献していないのに、全経済成長があたかもITに頼っているかのような報道がばかげていると思います。
    NHK(日本側)が”貧困はら脱出した中国人が商品を楽しんでいます”と絶対報道しないでしょう。
    NHKは情けない。近いうちに抗議のファクスを送ります。
    ちなみに私はインド人です。

  2. 日本にあってはまだまだ距離感のある『ちかごろのインド』を伝えるという意味で、大枠としては評価できる部分はあったのではないかと思います。しかし特定の部分を拾い上げて、それをもって一般化してしまつていること、加えて個々の事項の描写についてはいろいろと問題があったのはご指摘のとおりです。
    巷の経済誌のインド特集から寄せ集めた『総集編』みたいな感じで、番組制作前から『結論ありき』だったのでしょう、きっと。
    公共放送という立場のNHKによる『今のインドを伝える』報道ですから、日本の人々の間で『ちかごろインドのイメージ』を形づくる上での影響力には測り知れないものがあります。だからもっと責任を感じて欲しいものだと私も思っています。
    1月30日に放送された第三部に出てきた『インドの選挙』についての描写(テレビを配る公約)についても、あれでは『世界最大の民主主義とはこんな低俗なものでしかないのか』という印象を与えてしまいます。かなり極端な部分の映像を示し、それをもって一般化・単純化してしまうのは観る側に誤解を与えるだけです。
    まさに日印間の隔たりを反映していると言ってしまえばそれまでですが、なんとも残念であり、とても寂しく思います。
    しかしこうした現状だからこそ、もっとインドと日本の相互理解がもっと進めばいいな・・・と願っています。今後ともよろしくお願いします。

  3. 管理人様、いつも楽しく拝見させていただいております。
    失礼ながら初めてコメントさせていただきます。
    件のNHK番組について、私も楽しみにしていただけに色々と物申したい点が目に付きました。分かりやすくはありましたが、やはり管理人様がおっしゃるとおり、まさに結論ありきの印象を強く与えるものだったと思います。
    もちろん、ここ何十年も日本の中で支配的だった「悠久の〜」「貧しい〜」といったインドの枕詞的イメージを全国レベルで払拭するのにある程度は役に立ったのかとは思いますし、それが番組作成グループの目指したところであったのでしょうが、それに終始して点にやはり物足りなさを感じざるを得ないというのが正直なところです。
    特にお粗末さを感じたのは、SR様同様、第2回のものでした。「これまで貧しかったインド人が豊かになって消費を楽しんでいます」という文脈には日本人である私も引っかかりましたし、「消費社会の光と影をこれから知ることになるだろう」という、おそらく中島岳志先生の『インドの時代』からの受け売りの視点にも、(それが受け売りであろうために)上から見たような物言いを感じました。
    それから、「豊かな」と同義で何度も用いられた「欧米風」という表現や、「物質的には貧しくとも精神は豊かであるべきと主張した(?)ガンディー」のイメージの用い方についても同様です。
    つまるところ、「かつてのインド=貧困=後進」、「これからのインド?=豊か=先進=欧米」という極めて単純な二元的図式の枠組みで終始番組進行しており、この図式そのものがステレオタイプで一面的なものだったこと、それを改めるべき時期にきていること、という点に気づかせる趣旨のものでなかったのが非常に残念だったということになるでしょうか。
    SR様の書きぶりは少々激しいですが、お怒りもまさにここにあるのではないかと思います。
    長々と失礼しました。

  4. 私のコメント激しいようだが、はっきりいうと、個人は間違い・あるいは失言をしても、影響力は少ないと思います〈権力・地位のある個人の場合は違うと思います)。NHKのような日本の代表ともいうような組織の影響力は強いと思います。
    私もこの11年間ずっと日本のメディアをみてきているが、やはり、中国に関する報道とインドに関する報道には違いがあります。
     中国や韓国から名の知れない政治家・官僚がやってきてもニュース番組に報道されるが、インドの首相が来日してもニュースにならないことはオカシイと思います。
    それから平気で失礼な言い方をします。
    それは中国・韓国場合には絶対しないですよ。
    理由としては
    1.日本側が思っているのは観客はインド人がいないあるいは読者はインド人がいないという想定で考えているからだ。
    2.間違っても問題がないと思っているひとも少なくない。
    そこで良い手段は抗議をし、間違ったところ指摘をすることだと思っています。そういうことしない限りわかってくれないと思います。NHK ends up taking things for granted, if we dont protest.
     不思議なことに失礼な言い方・間違ったことが報道しているという認識を持っている日本人はなぜ抗議しないのかと思ったことです。
     今までインドに関する番組がなかったのでいろいろ関心が持てる点も報道されたと思います。
    再放送のコール・手紙が170件ぐらいNHKに寄せられたらしい。
    やっぱり中国の報道と違います。
    数年前デリー大学に客員教員としていった日本の社会学者の小熊栄治の「インド、コンピュータ、牛??」といった本を読んで、学者はこんなに偏見を持っているんだとびっくりした。彼のいくつかの文脈・内容はふさわしくないと思いました。責任を持って書くべきと思います。

  5. >SRさん
    日本のマスコミは、中国の工作が進んでいるので、インドを意識的に無視する傾向にあります。
    それでもNHKがインド特集をやったのは画期的なことです。

  6. 中国や韓国に関する報道とインドに関する情報がメディアに出てくる頻度とその扱いについてかなり温度差があるのにはいくつか理由があるように思います。
    まず相手国への距離感などに由来する知識の希薄さに由来する部分が大きいと思います。すぐ隣にある中国・韓国と違って、従来インド事情に関する情報は比較にならないほど少なかったし、現在でもさほど多くないため、一般によく知られていないということもあるでしょう。
    また中国・韓国については、過去の日本による侵略と歴史認識等に関する問題があるので、取り上げるトピックによってはマスコミがある意味自己規制がかかる部分もあるのかもしれないですね。
    いずれにしても今後インドと日本の間での人々や物資等の行き来が増えてきて、相互の理解が深まり、より良い関係を築いていけるようにと切に願っています。

  7. 突然のコメント失礼します。
    サンジーヴスィンハ氏(Mr. Sanjeev Sinha)が代表を務める、世界的なインド人起業家ネットワークの日本支部の設立イベントのご案内です。NHKスペシャルにも出演された、米国市場で初上場を果たした、さきがけ的インド人起業家のカンワル・レキ氏(Mr. Kanwal Rekhi)も来日されます。
    詳細は、↓から。
    http://www.tiejapan.org/0129/

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