慈悲深き父トラ

インドで飛行機に搭乗した際の機内誌で興味深い記事をみかけた。

ラージャスターンのランタンボール国立公園で、オスのトラが子育てにいそしんでいるのだとか。

オスのトラの縄張りの範囲は極めて広く、その中に複数のメスのトラがそれぞれの境界を定めているとされるらしい。

だが子上の父親が自らの子供たちの面倒を見ることはないどころか、幼いトラが母親以外の大人のトラと出会うこと自体が、即ち生命の危険に晒されることを意味する。

もちろん彼らにとって厄介なのは、自らの父親を含めた成長したトラたちだけではなく、ヒョウ他の大型のネコ科の動物たちやハイエナ等の肉食獣も同様だ。トラとはいえ、子供たちにしてみると、生態系のはるか上位にある。

そんな幼いトラを残して母親が脚のケガが元で死亡してしまった。もはや自分たちを守ってくれる存在を失ったことを悟った子トラたちは、荒野をさまようことになった。

当初、国立公園の担当官たちは、彼らの行く末を案じて、国内のどこかの動物園に送ることを検討していたという。他の肉食獣による脅威はもとより、まだ獲物を捕らえる術も知らない彼らが自然界で生き抜くことはできないことをよく知っているからだ。

子トラたちの姿を探しての大捜索が始まってまもなく、二匹の子トラたちが大柄なオスのトラと一緒に歩いているのが見つかり、絶体絶命の危機と関係者の背筋が凍りついたらしい。

だがこのオスのトラ、幼子たちを攻撃することなどなく、彼らを保護している様子に非常に驚かされたということだ。本来ならば、トラという動物の習性からしてあり得ないことらしい。

そのオスは、常に子供たちを帯同して野原を歩き、狩りのやりかたなども学ばせているとのこと。子トラがうっかり他のトラの縄張りに迷い込んで襲われそうになったときなど、どこからともなく救世主のように現れて子供たちを守っているというから大したものだ。

「おそらく実の父では?」という憶測もあるようだが、真偽については誰もよくわからない。通常は、遺伝子上の父親であっても、自らのエリアに入ってきた自らの子を攻撃することはあっても、これを保護するといったことが観察されたのは世界初の例だという。

目下、父親(?)の庇護のもとで、すくすくと成長している子トラたちだが、関係者はこのオスのトラに全幅の信頼を置いているわけではないともいうのも、頷ける話である。

ネットで検索してみると、詳細ではないものの、このトラに関わる幾つかの記事が出てきたので、そのうちのひとつを以下のとおり記しておく。

Tiger dad: A roaring success (The Times of India)

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