東京ジャーミイ

1938年に完成し、老朽化のため1986年に解体された代々木モスクを前身とする、現在の東京ジャーミィが落成したのは2000年のことだ。代々木モスクに先駆けて、1935年に出来た神戸ムスリムモスクと並び、日本で最も伝統あるモスクのひとつということになる。

神戸ムスリムモスクは、建立時から神戸在住ないしは商用等で出入りしていたインド系ムスリムの人々との関わりが深かったのに対して、代々木モスクのほうはトルコとの繋がりが強かった。これを引き継いだ東京ジャーミイのウェブサイトが日本語・英語・トルコ語の三言語による構成となっていることからもわかるとおり、現在もその様相は変わらない。

それもそのはず、建立時の一部の寄付を除けば、外国政府の影響を受けていない神戸ムスリムモスクと異なり、こちらは在日トルコ大使館の管轄下にある施設である。ゆえにトルコ文化センターとしての機能も兼ねており、観光その他の資料等も配布されている。

その他、首都圏では東武伊勢崎線沿いに点在する簡素な礼拝所、加えて小田急線沿線にもいくつかあるそうした施設には、南アジアと縁が深いタブリーギー・ジャマアト関係のものが多いこととも対照的だ。

日本国内で、東京・神戸以外の地域に目を向けてみると、名古屋にある「名古屋モスク」愛媛県の「新居浜マスジド」、福岡の「福岡マスジド」といったあたりが広く知られているが、やはり資金力の関係から視覚面でのアピール度といえば、小ぶりながらも壮麗なオスマン様式の建物で観る者の眼を楽しませてくれる東京ジャーミイの右に出るものは今までのところない。

首都圏ご在住で、まだ訪れてみたことがないという方は、ぜひ足を運んでいただきたいと思うが、遠方にお住まいでそういう機会はないという方も、東京ジャーミイのウェブサイトで公開されているパノラマ画像を楽しむことができる。

蛇足ながら、先に挙げたいくつかのモスクのように日本国外からやってきたムスリムならびに日本国内のイスラーム改宗者のための礼拝施設、修養の場とは異なり、日本社会そのものを対象とするイスラーム文化の広報活動の最も活発な一例としては、サウジアラビア王国大使館付属の文化機関で、東京都港区元麻布にあるアラブ イスラーム学院が挙げられる。リヤドにある国立イマーム・ムハンマド・イブン・サウード大学の東京分校という位置付けになっている。豊富な資金を背景に、こうした機関を通じて、日本人に対するアラビア語その他の教育に加えて、出版・啓蒙活動を展開している。

日本は、イスラームという宗教やその文化背景と縁が薄いため、一般の人々の関心がなかなか向かない反面、歴史の中でこうしたコミュニティとの衝突や軋轢をまったく経験したことがない土壌。警戒心も反感もないという点は、こうした活動を行なう側にとっても私たちにとっても幸いなことかもしれない。

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