ヴィラート・アンコール・ワット・ラーム

だいぶ前のことだが、こんな報道があった。

India starts Angkor Wat replica in Bihar (BBC NEWS INDIA)

ビハール州のヴァイシャリー地区のハジプル近くに、カンボジアのアンコール・ワットのレプリカが建造されるというプロジェクトだ。

10年がかりで完成されるというその建物は、アンコール・ワットを模したヒンドゥー寺院であり、カンボジアにある本物は元々シヴァ神の寺院として建立されたものが後に仏教寺院へと変遷していったのに対して、こちらはラーマ神を祀る寺となるとのことだ。その名もヴィラート・アンコール・ワット・ラーム。

費用2千万米ドル相当の資金を注いで建築、本家アンコール・ワットを凌ぎ、世界最大規模のヒンドゥー寺院が出来上がるとされている。もちろんビハール州の建設現場における最大級の投資額ともなることだろう。

だが気になるのは、その費用の出処。民間の資金によるものとのことだが、その大半はビハール州外からのものと見るのが妥当だろう。

80年代末から90年代前半にかけて、ラーマの生誕地であったとされるところに立地していたムガル朝時代に建てられたバーブリー・マスジッドの存在とラーマ寺院の再建運動(結局、再建運動にかかわる活動家たちにより1992年に破壊されるが、その後寺院建立には至らず)により、コミュナル暴動の嵐が吹き荒れた隣州のウッタル・プラデーシュとは対照的に、政治面では宗教色が薄かったビハールに地殻変動をもたらそうという動きが水面下にあるように思われる。

1990年代から今世紀に入るあたりまで、上げ潮の勢いがあったサフラン勢力の伸びが頭打ちになって久しいが、人口1億人を超える人口稠密なビハール州は、政治的にも治安面でも安定しているとは言い難い。

それでも近年はインドという国自体の経済成長に引っ張られるように、あるいは長らく停滞と混乱をもたらしたラールー・プラサード・ヤーダヴ氏率いるRJD (Rashtriya Janata Dal)の時代とは打って変わり、2005年からJanata Dal党首のニティーシュ・クマールが州首相を務めて実績を上げている効果もあってか、他州を凌ぐ成長率が伝えられているビハール州だ。

ヴィラート・アンコール・ワット・ラームの建立の背後に、新たな政治勢力の台頭の影がチラついているように感じるが、完成までの10年の歳月の間に、その姿が次第に明らかになってくるのではないだろうか。

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