熱暑にご注意

 今日も暑い一日だった。モンスーンのためしばしば激しい雨が降り、酷暑の時期よりはるかにマシとはいえ、外を歩けばやはり暑い。
 まだ日は高いけど、部屋に戻ってクーラーを効かせてしばしうたた寝でもしようか・・・と滞在先のホテルに戻ろうとすると、入口すぐ脇でバックパックを放り出して地べたに座り込んでいる大柄な白人男性がいる。彼は炎天下で頭を両手で抱え込んだままピクリともしない。 
 ちょっと様子が変だと思い声をかけてみると、トロンとした目で意識は朦朧としているらしい。こちらの質問にはかすかにうなづいたり首を横に振ったりするが、声を発することができない。ひどい日射病らしい。状況から察するに、この町に到着してホテル探しをしているときに気分が悪くなってしまったようだ。
 この人はかなり高齢のようで、見たところ60代後半から70代前半といったところ。姿格好や荷物の様子からしてけっこう旅慣れていそうな雰囲気なので、普段は元気な「高齢バックパッカー」として世界各地に出没しているのかもしれない。南アジアでも中東でも、およそ旅行者の出入りするところでは欧州からやってくる年配の安旅行者は珍しくなく、西ヨーロッパ先進国における『旅行文化』の厚みと歴史の長さを感じさせるものがある。
 身に着けているTシャツにオランダ語のプリントがなされているからといって彼がオランダ人だと断定するのは早計だが、こういう年齢での一人旅といえば、フランス、ドイツ、スイス・・・といった今でも『旅行大国』として知られる国々、つまり所得が高くてしかも夏のヴァカンスなどの休暇が長い国の人たちの占める割合が圧倒的に高い。
 本人が口を利ける状態にないので、いったいどこの国からやってきたのかわからないのだが、ともかく危険な容態にあることは見て取れた。とりあえず宿のチョーキダールと彼を日陰に運ぶ。近くの店でミネラルウォーターを買ってきてあげたが、自分で飲むことができる状態でさえなかった。
 そうこうしているうちにホテルからフロント係の従業員が出てきて、携帯電話で彼を病院に運ぶクルマの手配をしている。ふと気が付くと私たちを大勢の野次馬が取り囲み、あたりはまさに黒山の人だかりになっている。
 年配の方々が家に閉じこもるのではなく、興味のある土地へと、世界各地で元気に一人旅を楽しむのは素晴らしいことだと思う。しかし日射病のような突発的な異変ならずとも、そのくらいの歳になれば身体の中にひとつやふたつの慢性的な不安がある人、定期的な加療が必要な不具合を抱えている人も多いだろう。 
 ぜひ体調に充分な注意を払い良い旅を続けて欲しいと思う。
 同時に日射病で倒れている人を見て日陰に連れて行く、水を与える以外にどうしたらよいのかわからなかった自分自身の知識不足(病院に搬送する前に周囲の人が確認すべきポイントがいくつかあるらしい)について反省させられたし、彼の容態を見てこの症状の恐ろしさが少し理解できた気がする。
 高齢者でなくとも、暑い時期に無理をすれば誰でも日射病・熱中症にかかる。今後私自身充分注意していきたい。

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