みんなで観よう『明るいシナリオ』

『パーキスターンでボリウッド映画解禁へ?』という話題は、以前から幾度もメディアに浮上しては足踏み状態が続いている。それでも現政権下でMughal-E-AzamTaj Mahalawarapanなどが上映され、最近ではDhan Dhana Dhan Goalが公開されるなど、内容を吟味して限られた作品数での上映とはいえ、それなりの進展を見せていることは評価できる。
しかしながら諸外国、インドから海を越えた先の東南アジアや中東、はるかに遠くアフリカなどでも広く親しまれているインドの娯楽映画。もちろんその他の地域、欧米や日本を含めた東アジアなどでも注目される作品は少なくない。そこにくると、すぐ隣のパーキスターンの映画館での上映は原則禁止という状況は非常にさみしい。 1965年の第二次印パ戦争以来、パーキスターンにおいてインドの映画の上映は基本的にご法度となっている。


本来、文化的にも言語的にも、まさに血を分けた兄弟だ。歴史や生活習慣はもとより、文学や音楽などの世界でも国境東西で共有するものはとても多い。映画もまたこの地域におけるひとつの文化として分け合うべきものだろう。また全く異なる文化圏に属する国々の大衆はともかく、パーキスターンのウルドゥー話者の人口、国の成り立ちと現代史、インドに対するスタンスなどを背景にしたパーキスターンの民衆は、インド国外におけるボリウッド映画の最大の支持者たりえるとともに良き助言者にもなり、ときには痛烈な批判者たりえるはず。
別の見方をすれば、インド映画界、とりわけパーキスターンでそのまま上映しても人々が理解可能なボリウッドにしてみれば、人口1億6千万近い巨大市場がほぼまるごと手付かずになっている状態で、海賊版ソフトに牛耳られ莫大な利益を逸しているという状況は放置しがたいことだ。
一般的に、映画とは言うまでもなく興行収入を目的とする産業だ。上映場所、客層、地域などさまざまな要素を考慮したうえで、映画製作がなされる。ビジネスであるがゆえに、究極の目標は収益に他ならない。芸術映画として海外でも広く公開するために創られる作品、都会のシネコンで中間層の観客を想定して上映されるタイトル、保守的な地域でまさに広く一般大衆ウケを狙う映画などいろいろある。
パーキスターンが正規の市場として浮上すれば、当然ながらここでの評判を狙って映画作りをする動きが出てくることもあるだろうし、将来この地域を得意とする製作者が出てくる可能性もないとはいえないだろう。つまりパーキスターンにおけるボリウッド映画上映が本格的に解禁されるならば、とりわけボリウッドにおける映画創りやそのトレンドにも少なからず影響を与えることが考えられる。
ロリウッドことラーホールを拠点とする地元パーキスターンの映画界にしてみても、ポリウッドの上陸は必ずしも『市場の侵略』には相当しないかもしれない。ヒンディー語/ウルドゥー語映画産業が国境の東西をまたいでシームレスに広がることにより、パーキスターンにおける映画関連施設、俳優・女優たち、技術者、ロケ地その他映画製作にかかわる諸々のリソースが積極的に活用される環境が整うとすればどうだろう。あるいはインドという新天地に活路を見出すパーキスターンの映画人も出てくるのではないだろうか。目下、地元映画産業の先細りの中で四苦八苦している関係者たちにとって、将来への展望が開けてくるかもしれない・・・といっては楽天的すぎるだろうか。
またパーキスターンの大衆にしてみれば、非正規のルートで入ってくるビデオやDVDが市場あまたに存在し、ケーブルテレビや衛星放送など『個人で』視聴できるのに、映画館で『みんなで』観ることができないというのは何と矛盾した状況だろう。ここ数年間、パーキスターンではおよそ1000件もの映画館が閉鎖されたという。主な理由はロリウッドの凋落により、魅力的な映画が足りないことによる興行の不振だという。パーキスターンにおけるインド映画解禁要求の動きの発端は、他でもない映画館事業主たちによるものだ。
そうでなくとも、パーキスターンの映画界には逆風が吹いている。政情が不安定なことからくる所得の伸び悩みに加えて、作品中での表現、ときには映画上映そのものにも物言いをつける宗教右派勢力が急伸したことなども挙げられるだろう。また対インド関係次第では、上映館やその関係者たちが政治的なリスクを負うことになるかもしれない。
政治的リスクといえば、そもそもボリウッド映画解禁の動き自体がどうなるかわからない水物といえるだろう。印パ関係が比較的安定した状態がしばらく続いているがゆえにこんな話が出ているのだが、ここで何か再びコトを構えることがあれば元の木阿弥となってしまう。思えばカルギルで両国が戦火を交えてからしばらく関係がとても冷え込んでいた時期にはMission KashmirL.O.C.といった、隣国に対する反発と盲目的な愛国心を逆手にとった凄惨な映画が乱造されていた(・・・といっても個人的には戦争映画は嫌いではないのだが)のはそんなに遠い過去のことではない。
両国の人々が喜怒哀楽を共有できる映画が沢山製作されていき、それがより多くの人々に観てもらえるようになることを祈る。国境を境にして互いに面識のない人々がそれぞれの国の映画館で娯楽と喜怒哀楽を共有することによる一体感というものを想像してみよう。ひょっとするとこれは両国の『平和』に対して多大な貢献をするのではないだろうか。その道のりは決して平坦ではないにしても、これから『みんなで観る』映画には、共存と幸せへと続くシナリオが描かれていることを信じたい。南アジアの明るい将来を祈ろう。
Pakistan to show Bollywood film (BBC NEWS South Asia)
सरहद से पहले सिनेमा दोनों तरफ़ से खुले (BBC Hindi)

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