たたかうヒンドゥーたち

90年代以降サフラン勢力が急伸したインドから東へ海を隔てた先にあるマレーシア。人口2600万人中の8%をインド系が占めており、多くはタミル系のヒンドゥーたちである。ここでも政治的なヒンドゥー組織が、ムスリムがマジョリティを占める『世俗的』政府に対して声を上げるようになっている。
背景には、従来からブミ・プトラ政策により不利な立場にあったマイノリティの人々が、もともと非常に寛容なイスラーム国家であったマレーシアの右傾化、つまりイスラーム保守層の台頭により一層の不満と不安を抱え込みつつあることがあるようだ。クアラルンプルを含めた各地で土地の不法占拠を理由としたヒンドゥー寺院の取り壊しが散発的に行なわれている。中にはすでに150年間も存在してきた寺院に対する撤去の予告なども含まれる。こうした動きを受けて、ヒンドゥーの人たちの間では、非イスラームのマイノリティの排除を意図するものであると疑う声があがっているのだという。
都市部での商業活動や高度な専門職に就くことにより、経済的に恵まれた層に属する人々も多い反面、インド系人口の中には、ゴムの樹液の採取作業や農地での小作といった仕事で食いつなぐ貧困層も多く、経済的にも政治的にもマジョリティであるマレー系の人々に対して立ち遅れた常態にあるという。
彼らの声を代弁する存在として大きな注目を浴びるようになったのが、30のヒンドゥー団体の連合体であるHINDRAF (Hindu Rights Action Force)だ。当局による数々の弾圧や不当な逮捕などに耐えつつ、世俗国家におけるマイノリティとしての権利擁護を訴えている。インドにおけるサフラン勢力と違い宗教色が前面に出ることはないが、ヒンドゥーであることを大切なアイデンティティとして持つインド系住民としての社会政治活動ということになる。


自らが帰属するマレーシアと先祖の母国インド双方の旧宗主国であったイギリスに対して補償を要求している。契約労働者としてマレーシアに渡った父祖たちに対する150年の搾取、マレーシア独立時にマイノリティであるインド系の人々の権利擁護に失敗したとしている。後者については、明らかな人種差別である現在のプミ・プトラ政策を合法とする根源的な法的裏づけとして、ブミ・プトラとその他の人々の区別を記した条項(第153条)を含む憲法を持つ民族主義的な新政府に主権を譲ってしまったからということになるのだろうか。
HINDRAFが、インド系マレーシア人ひとりあたりにつき100万米ドルを補償するようにと、クアラルンプルにあるイギリスのハイコミッションに陳情を出したのは今年8月のことである。もちろんこのような要求が認められる可能性はほとんどなく、本当の狙いはマイノリティであるインド系に対する差別待遇について内外からのスポットライトを当てさせて、広く世間の関心を集めて自分たちが抱える問題に対する理解を広めること、現在マレーシアを統治する政権への痛烈な批判である。
このような運動は、マレーシア政府から見れば『社会不安の扇動』ということになる。公には5人以上の集会には当局の許可が必要であり、法令により裁判なしで無期限の拘束が認められるなど、政府にとって好ましくないと思われる運動や集会に関わる人々を速やかに取り締まることを可能とする法的手段がそろっている同国において、これを継続していくことは容易ではない。政府側は慎重に彼らの動きを観察しつつも、指導者たちの逮捕、平和裏に行なわれたデモに対して警察を介入させて力による弾圧を行なうなど、彼らにとって必要とあれば断固たる処置を取るという構えだ。
今後、マレーシア政府の対応、同国社会におけるインド系コミュニティの位置づけ、あるいは外部からの影響の浸透などにより、HINDRAFの活動に宗教的な色づけがなされていったり、運動そのものが先鋭化していったりすることもあるかもしれない。今後の推移に注目したい。
Scores charged over Hindu rally (BBC NEWS South Asia)
Sedition: Hindraf leaders to know next week (The Star Online)
※マレーシア英字紙のインターネット版

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