カシミール初の鉄道開通

鉄道大国インドに新たなルートが開通した。テレビニュースのAaj Takでは、『世界で二番目に高いところを走る鉄道』と紹介していたが、実のところはどうなのだろうか。
ともあれカシミール地方では初の鉄道となる。鉄道建設や中央政府首脳訪問に反対する勢力による大規模なバンドが実行される中、10月11日(金)の開通に際しての式典には、マンモーハン・スィン首相、ソニア・ガーンディー、ラールー・ヤーダヴ鉄道大臣といった要人たちが出席している。
2000年に建設開始したこのルートは、分離独立勢力によるものとされる攻撃等により、鉄道技師その他の犠牲者を出しながらもなんとかこの日を迎えることとなった。スリーナガル北西にあるラージワンシャルから南西方向に下ったアーナントナーグまでの66キロが開通。2009年中には、北はスリーナガル北西のバーラームーラーまで延伸し、南はカーズィーグンドまでの117キロをカバーすることになるのだという。
さらに時期はまだ確定していないようだが、やがて幹線に接続する予定とのことで、南はジャンムーまで延びることになる。従来のようにジャンムーから先はバスに揺られることなく、スムースにカシミールに足を伸ばすことができるわけだ。また天候の関係でスリーナガル発着の飛行機のキャンセルは少なくなかったが、より安定した鉄道という手段を得ることにより、インド北西部の他地域からの観光客を呼び寄せる潜在力は高いだろう。
機関車に除雪機能が付いているなど、特に冬季に対応した施設設備に力を入れているそうだ。また大型の窓ガラスを採用しており風光明媚なカシミールの景色を楽しむことができるように配慮されているというのもうれしい。
もちろん単に観光客の増加のみならず、鉄道という全国くまなく網羅する物流の大動脈と結合することによる産業インフラとしての高い価値はもちろん、インド内外から同州への投資を促す呼び水としても大いに期待されるところである。
もともと観光収入に依存する度合いが高かったカシミールだが、80年代末から激しくなった分離活動やそれにまつわる治安の悪化により訪れた『長くて暗い冬』のため、同地域の観光業は壊滅状態になっていた。ひところに比べると着実に治安の改善が見られる近年、ゆるやかに回復へと向かっているようだ。美しい盆地に恒久的な平和と、そこに暮らす人々の心の中に暖かい春が訪れることを願ってやまない。
しかし、この地域が鉄路の全国ネットワークに組み込まれることにより、中央のより強い影響下に置かれることを懸念する声もあるのだろう。『インドによる支配の象徴』と受け取ることもできる象徴的な面からも、不特定多数の人々が日々出入りするというガードの甘さからも、鉄道施設がテロの格好のターゲットとなることは容易に察しがつく。『いつ、どの駅、どの列車が狙われるか』と予想する向きもあるかと思う。
カシミール地方最初の旅客車運行ということだが、これまで長きにわたって鉄道が存在しなかったということには、その地形からくる制約等があったわけで、これを技術的に克服したインド国鉄は、栄光の歴史に新たなページを刻んだことになる。しかしながらカシミールという地域であるがゆえに、多難な前途もまた想像されるのだ。
Train to Kashmir (YouTube )
First train chugs into Kashmir (Telegraph)
※『流行のドバイの背景に?』は後日掲載します。

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