Namaste Bollywood #14

すでに手にされている方も多いかと思うが、Namaste Bollywoodの第14号が発刊された。今回のトップ記事は、東京六本木のシネマートで『ボリウッド・ベスト』と題して、8月30日からロードショー公開されるKABHI KHUSHI KABHIE GHAM (邦題:家族の四季 愛すれど遠く離れて) KAL HO NAA HO (邦題:たとえ明日が来なくても) DON (邦題:ドン 過去を消された男)、ならびに福岡国際映画祭2008での上映が決まったOM SHANTI OMにまつわるものだ。
言うまでもなく、どれも大作なので、東京でも福岡でも大いに好評をもって迎えられることは間違いないだろう。ただし個人的にちょっと気にかかる部分がないでもない。どの作品をとっても決して不満はないのだが、単に『インド映画好きな人たちの集まり』に終始してしまわないかというところだ。
90年代の日本でちょっとした旋風となった『インド映画ブーム』で、日本人映画ファンたちの間に刷り込まれたある種の固定観念を払拭するだけの広がりや深みを持つ、バラエティに富んだ作品群がやってこないといけないような気がする。ひとつひとつの作品の良し悪しではなく、より違ったタイプの映画が紹介されないといけないように思う。
私たちの間で、日本映画に対する紋切り型の印象、ハリウッド映画に定型化したマンネリ感覚を抱く人はまずいないだろう。もちろん日米ともに映画大国であり、有名無名の数々の監督、役者、裏方の人々が日々活躍しているとともに、私たちは子供のころから多くの異なるテーマ、違った作風の映画に親しんできている。
それがゆえに90年代の日本で突然起きたインド映画ブームについては、最初から非常に危ういものを感じていたのは私だけではないだろう。『歌に踊り』『派手なアクションとハッピーエンド』『庶民にひとときの夢を与える最大の娯楽』などといった表現が一人歩きを始め、『これまでになかった新鮮な映画』というスタンスで、似たような作品が次々に映画館に投入され、一時はかなりの人気を集めるにいたった。


日本で上映する側の安易な商業主義のもとで、『アレが当たったから次もコレで』と似たような作品ばかりが上映されたためか、インド映画そのものが『コトバがわからなくても全然問題なくわかる単純なモノ』として、普段から親しんでいる日米等の作品に比較してずいぶん格下に見られることになったように思った。
おかげで、日本で『インド映画が好き』などと言おうものなら、『よく飽きないね』(どれ見ても同じじゃん!)との返事とともに『審美眼に欠け、つまらない映画を前に時間を無為に過ごしている相手』を哀れむような眼差しがこちらに向けられたりする。そんなことはあの『インド映画ブーム』以前にはなかった。
誤解のないように言っておきたいが、このたび東京や福岡で上映される作品について何か意見や文句があるわけではない。今なおひきずっている『インド映画への固定観念』から、せっかくの大作を観る機会が、『インド映画ファンの集い』に終始してしまい、それ以外の層にあまり波及せずに終わってしまうのではないか、またこれらの作品が予想どおり高い評判を得たとして、日本国内で続いて上映されるのはどういう作品になっていくのかという懸念だ。同じような路線で二匹目のドジョウを狙うことになれば、日本の映画ファンたちの間で、インド映画に対する認識が深まることはないだろう。
日本でもいまだに衰えることのないシャー・ルク人気にあやかるだけではなく、日本の市場で広く受け入れられるであろう新たな(新人・・・という意味ではない)キャラクター、これまで日本に紹介されることのなかったタイプの作品の導入が期待されるところである。
かように個人的にちょっと気になっている部分はあるのだが、決して心配はしていない。なぜならば、昔のインド映画ブームのときにはなかった、今のボリウッドの新鮮な情報を伝えるNamaste Bollywood誌があるし、さらに興味があればインターネットを通じて様々な情報を手にすることができる。特にアルカカットさんによる、インドの歴史、社会、文化、時事問題、旅行その他を幅広く包括的に取り込み、楽しいコンテンツ豊富な『これでインディア』はとても有名だが、この中の映画批評の部分はまさに『現代インド映画百科事典』で、非常にためになる内容である。いまや、映画館で作品を見て『ああ、インド映画ってこんなもの』と思っていた時代とはずいぶん趣きが違うのだ。
8月24日(日)に、東京の新宿三井ビルにてNamaste Bollywood誌主催の『ボリウッド講座vol.4ボリウッド・ベスト公開記念 インド映画にみる家族の肖像』で、『ストレスのない子育てとシンプルライフ―インドから学ぶゆとりのある暮らし』(創成社)の著者である金田卓也氏およびご家族を招いてのトークが行なわれる。誌面のみならず、こうしたイベント等を通じた働きかけにより、インド映画ファンの輪が広がるとともに、作品を観る目も肥えてくることになりそうだ。日本で、みんなが『いつもよく観る映画』としてボリウッド作品が定着する下地が確実に出来上がりつつある・・・と大いに期待しよう!

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