メダルに届かず ビワーニーが送り込んだHitman

昨夕、ZEE NEWSを見ていたら、北京オリンピックにボクシングのインド代表として参加しているバンタム級のアキル・クマールの試合の話題で持ちきりだった。画面では今月15日に行なわれた昨年のアマチュアボクシング同級世界チャンピオンのセルゲイ・ヴォダポヤノフを破った試合の映像が繰り返し流れ、ハリヤナー州ロータクに暮らすアキル選手の家族や知人たちの様子なども伝えられていた。
私にとって、観るスポーツとして最も好きなものがボクシングであるため、この選手についてはオリンピックが始まる前からとても気になっていた。ニュース番組がそのままアキル選手の試合の生中継となるようで、拳闘ファンとしてはまさに渡りに船といった具合である。
北京オリンピックに参加したボクサー5人のうち、最もメダルに近いと言われているのがこのアキル・クマール選手だ。準決勝に進出を決めた選手は、彼に加えてジテンダル、ヴィジェンダルの3名で、どれもクマール姓であることから、メディアでは『クマール・トリオ』と呼んだりしているようだ。
アキル選手は、U.P.のファイザーバードの生まれ、その他2名はハリヤナー州のビワーニーの出身である。しかしこの3名ともビワーニーでボクシングのトレーニングを受けてきた。このビワーニーとは、『ボクシングがクリケットよりも人気』と言われる、インドのボクシング界の聖地だそうだ。
アキル選手については『とても優れた選手』ということ以外に何の知識もなかった私だが、先述の昨年のアマチュア世界王者を破った試合の模様が繰り返し流れるのを見て、『確かにメダルに近い選手らしい・・・」と感じた。
軽いフットワークでアウトボクシングをする選手かと思えば、果敢に打ち合いにも出る。上下左右に打ち分ける多彩な攻撃で手数も多く、またディフェンスもしっかりとした選手のようだ。
それに『見た目』が素晴らしくいい。左のガードを腰のあたりまで下げ、獲物の様子をうかがうコブラのような動きの中で鋭いフリッカー・ジャブを繰り出す。敵が飛び込んでくるとマシンガンのような連打で圧倒。80年代から90年代にかけて、プロボクシング界のウェルター級からクルーザー級まで、中・重量級で活躍した『The Hitman』のニックネームで人気を集めたアメリカのデトロイト出身の黒人ボクサー、トーマス・ハーンズを彷彿させるカッコ良さだ。
さて試合開始の時間を迎え、対戦するふたりの選手たちが入場してきた。アキル・クマール選手側のセコンドにはターバンを巻いたスィク教徒トレーナーの姿があり、これまで見慣れたリング風景と違うインドらしさが醸し出されている。
さて肝心の本日の試合のほうはと言えば、モルドバのウェセスラヴ・ゴージャン相手に、初回ラウンド以外はほとんどいいところを見せないままに時間ばかり過ぎていく。前の試合はいったい何だったのか?と思うようなまったく拍子抜けの試合で、特にコメントする気にはなれない。
ポイントでかなりリードされていたアキル選手だが、相手に『さあ、かかってこい』と言わんばかりに大きく両腕を下げての挑発行為を繰り返す。接近戦での打ち合いの中での一発逆転を狙っていたのかもしれないが、ゴージャン選手はそれを相手にもせずに、離れては接近し、打っては離れと着実にヒットを重ねて勝利へ一歩一歩近づいていく。テレビの前にジッとかじりついていたわりには消化不良のまま終わってしまった。
周囲の期待があまりに大きかっただけに、アキル選手にかかる重圧も大きかったのだろう。トリオのうちの1名は北京のリングを去ってしまったが、残るライト・フライ級のジテンダル選手、ミドル級のヴィジェンダル選手の2名にはぜひともメダルを目指して頑張って欲しい。
試合そのものとは関係ないが、ボクシングの聖地ビワーニーの存在が非常に気になる。機会があれば、ぜひ訪問してジムの様子を見学したり、将来の五輪選手を目指す若い選手たちなどの話を聞いたりしてみたいものだと思っている。
Boxer Akhil Kumar crashes out in quarters (The Times of India)

「メダルに届かず ビワーニーが送り込んだHitman」への2件のフィードバック

  1. インドはアマチュアボクシングが強いのですが、
    何故かプロはいないんですよね。
    理由をご存知でしたら、教えてください。
    ちなみに・・私はボクシングファンです。

  2. 難しいご質問ですね。
    確かにインド出身のプロボクサーがいないわけではないのですが、(日本にあっても近年、千葉県のジム所属のパンジャーブかハリヤナー出身のボクサーがいたはず・・・)世界戦に出て注目を集める選手は記憶にないです。
    クリケットと同じく、イギリス起源のスポーツながらも、コマーシャリズムに毒されたサッカー同様、あまりに商業主義すぎて・・・
    などとは言いませんが、プロボクシングはアメリカの興行プロモーターの力の及びそうな
    国々で盛ん・・・という印象があります。
    やはりインドの拳闘聖地ビワーニーにおけるボクシングのありかたにそのカギがあるように思われます。

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