MagazineX Business vol.1 【特集】タタのすべて

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三栄書房から、ターターの格安乗用車NANOを特集したムック本が発売された。
MagazineX Business vol.1 【特集】タタのすべて (三栄書房)
まさか日本でこのクルマの特集本が出るとは予想だにしなかっただけにオドロキであるとともに、第1号として顧客に納品されたNANOの実車をもとに、その仕様についての詳細なレビューが掲載されている。
これまで自家用車の購入層でなかった人々からの需要を掘り起こそうという、ターターの世界戦略車NANOの分析、これを生んだターターという企業体についての紹介、インドのクルマ市場ならびにそこで競い合う日系をはじめとする外資系企業の動向、インド資本の自動車メーカーの主な製造車種のラインナップといった記事が並んでいる。
NANOを中心に、これが開発された背景やこの車種が投入される市場の特徴などがバランスよく取り上げられており、インドのクルマ市場がどういったものか概観できるようになっているなど、なかなか充実した好感の持てる造りになっている。
ただし『インドといえばカレーだ』と言わんばかりに、クルマとは無関係の料理に関する記事があったり、旅行記仕立ての写真入りの取材者による雑感をまとめたページなどが入っていたりするのはちょっとどうかと思った。限られた誌面なので、やはりNANOないしはインドのクルマ事情に関する記事はいくらでも書けるはずなので、本題のほうにもっと集中して欲しかった。
あと気になったのは、人名・地名などを含む固有名詞等の表記。10万を意味する数詞ラークが『ラック』となり、ヒンドゥスターン・モータースが『ヒンダスタン・モーターズ』となっている。また拝火教徒を意味するパールスィーについて、隣り合った記事で『パールシー』であったり『パーシー』であったりと揺れがある。
日本においてインドの名称に馴染みがないがゆえ、書き手によっていろんな表記をしてしまうことになる。しかし、そうした書き方が様々なメディアで繰り返されることにより、事実上、その表記に定まってしまうことだろう。
もっともその他の外国地名・人名等で、実際とあまりにかけ離れた日本語表記がなされている例は少なくないし、お隣の中国に関しても漢字で書かれた名称等を日本語式の読み方をするのが習慣となっているため、胡錦濤を『こきんとう』と読み、重慶を『じゅうけい』と読み慣わしている。ごく一部、上海を『しゃんはい』、広東を『かんとん』などと、現地の発音に近い読み方がなされものもあるのだが。
結果として、中国語での地名・人名等の読み方について、それなりの予備知識がないと、中国の歴史や政治について英文で書かれたものを手に取ってみたり、あるいは人が英語で話すのを聞く際に、一体何のことについて、誰のことについて述べられているものなのかわからないということになってしまうという、なまじ『漢字圏』に属するがゆえのパラドックスが生じたりもする。
もっとも、現地の読み方に近づけた形であるかそうでないかはさておき、外来の固有名詞や名称等の表記がある程度定まった時点で、日本語の『語彙として定着した』といえるだろう。
その意味で、マスコミ等で取り上げられる機会がとみに多くなってきたインドについて、これまであまり日本語メディアで伝えられることのなかった沢山の人名、地名等を『日本語式に命名する』という、大きなフロンティアへの門戸が開け放たれているわけである。
そうした中、日本語の環境にとって新しいインド発の人名・地名その他の名称が、私たちの語彙の中に根付くまで、様々な書き手がいろんな表記を続けていくことになる。
話はずいぶん飛んでしまった。Magazine X Businessの創刊号は丸ごとNANOおよびインドのクルマ市場ということであったが、12月17日発売予定の次号では、『中国車のすべて』という特集が予定されている。中国では、インドとは対照的に、小規模なベンチャー企業が活発に格安車、電気自動車などを開発していることが話題になっている。再び意欲的な内容を期待したい。

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