ダウリー問題 こんな例も・・・

『ダウリーと闘い続けて: インドの女性と結婚持参金』『インドの女性問題とジェンダー: サティー(寡婦殉死)・ダウリー問題・女児問題』といった邦訳本が出ていることもあり、インドの結婚の際のダウリー問題については日本でも知られるようになっている。
法律では禁止されているとはいえ、結婚持参金(現金ならびに物品等)根強い慣習であるどころか、これまでそういう習慣のなかったコミュニティや階層にも広まっており、雑誌等にその実態等についての特集が掲載されることもある。
インドのメディアでもときどきダウリーにまつわるトラブルや犯罪等の事件が取り上げられるし、2003年に大きな話題となったニシャー・シャルマーさんのニュースを記憶している人も多いだろう。婚約者側からの度重なる不当な要求とハラスメント、加えて結婚式直前に更なる要求が彼女の父親に対して突きつけられたことから、堪忍袋の緒が切れて警察に通報。彼女自身、『この人と結婚したら最後、人生が台無しになる』と悟ったのだろう。
花婿となるはずであった相手は逮捕されて収監、彼の家族も捜査を受けるところとなった。メディアはセンセーショナルにこの出来事を取り上げ、デリーに暮らす普通のお嬢さんであったニシャーは一転、時の人となった。この件については様々な続報があったが、彼女の勇敢さを讃える声が多かった。その後、彼女は無事に理解ある男性と結ばれている。
Dowry demand lands groom in jail (BBC South Asia)
だがこの慣習は一方的に悪と決め付けられるものでもなく、両親からの生前分与という意味合いもあり、それなりの合理性があるようだ。これについてはインドの民法上の規定の関係等との絡みもあるので、ここでは省くことにする。
男性上位の社会で、嫁ぎ先の家に対して、花嫁の実家が与える現金や物品であるため、概ねに前者の立場のほうが強いことが多いだろう。花婿側について、家柄はもちろんのこと、本人の学歴・資格、職業、年収水準等といった条件が高くなるほど、『実入り』が多くなるのはもちろんのことだ。
新郎新婦が結婚した後は、両家は姻族としてよい関係を築いて付き合っていかなくてはならない。社会的な地位を問わず、ちゃんと良識のある人たちは、相手からあまりに無闇な金額を踏んだくろうということはないはず。当然のことながら周囲の目も気になるし、良からぬ噂を立てられたくもないだろう。
何よりも、自分の大切な子供が結婚するのだから、幸せになってくれるのを願うのは親として当然のこと。相手からよほど理不尽なことをされたり、深刻なトラブルでもないかぎり、息子の嫁をいじめたり、その実家を窮地に陥れたりということはないだろう・・・と思う。
だが、あまりに大勢の人々が暮らすこの世の中、ごく少数の人たちの間ではこうしたことがまかり通り、ダウリー絡みのハラスメント、ときにはそこから発展して起きた殺人などが後を断たないだけに、社会の怒りを呼び起こす。
だがこれまでダウリー関係の問題は、夫ならびにその家族が加害者で、妻とその実家が被害者という図式で捉えていたが、必ずしもそういうわけでもないらしい。
インディア・トゥデイの9月2日号で、シムラーで開かれたSave Indian Family Foundationの集会について取り上げられていた。これは妻によるハラスメントに悩む夫たちから成る団体で、『4万人の被害者』の声を代弁しているとのことだ。 同様の活動をしているProtect Indian Family Foundationという団体もある。
ダウリーを巡る嫌がらせや暴力などの被害に遭った女性たちの訴えの大半が正しいものであっても、中には夫とその実家の人たちを陥れるために仕組まれた嘘で固められた罠も少なからず含まれているのだという。
インド刑法には、女性を家庭内暴力等から守るための定めあるが、かなり性的にバイアスがかかっているというのが、こうした団体の主張だ。
とりわけ、条項498 Aが問題であるのことである。
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498A. Husband or relative of husband of a woman subjecting her to cruelty. Whoever, being the husband or the relative of the husband of a woman, subjects such woman to cruelty shall be punished with imprisonment for a term which may
extend to three years and shall also be liable to fine.
Explanation- For the purpose of this section, “cruelty” means-
(a) any wilful conduct which is of such a nature as is likely to drive the woman to commit suicide or to cause grave injury or danger to life, limb or health (whether mental or physical) of the woman; or
(b) harassment of the woman where such harassment is with a view to coercing her or any person related to her to meet any unlawful demand for any property or valuable security or is on account of failure by her or any person related to her to meet such demand.]
…………………………………………………….
あくまでも夫が加害者で妻が被害者という前提の法律であることから、性差別的であるという主張だ。
この法律を意図的に悪用する女性は少なくないとのことだ。つまり条項498 Aに違反しているとの虚偽の訴えにより警察に検挙させるというのである。それによって夫はもちろんのこと、夫の実家の父母兄弟姉妹までもが警察に逮捕されて留置される。
嫁入りした女性の人権は法律による保護が講じられているのに、不運にして謀略を巡らす女性を迎え入れてしまった夫側の家を守る手立てがない、ということに対する問題提起だ。
検挙された多くのケースの場合、まともな捜査もなされないままに立件、起訴されるとともに、裁きの場でも夫側が一方的に悪であるという暗黙の了解があることから、著しく不利な立場に置かれるという。これにより失職したり、自殺に追い込まれたり例も少なくなく、こうした行ないは『司法的テロリズム』であるとしている。
ダウリーにまつわる問題については、広く世間で言われているようなステレオタイプな事例以外にも、まったくその逆を行くような出来事も起きているようである。だがこうした訴えに対して反発するフェミニスト活動家も少ないないかもしれないのだが。
結婚はゴールではなく出発点に過ぎない。結婚すること自体よりも、長い結婚生活を継続していくことのほうがはるかに大変なことだ。最も密なつながりを持つ家庭という中にあっても、それはひとつ小さな社会のようなものでもある。
元々他人同士であった男女が一緒に暮らしていく中、いろいろなことが起きるものだ。そこに両者の実家の利害等も絡めば、そう易々と解決できるものではなくなってしまう場合もある。家庭という社会の中の最も小さな単位の『政治問題』とも表現できるかもしれない。

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