ハザーリーバーグ周辺の民俗画の村巡り③

ハザーリーバーグ周辺のこうした村々は、簡素だがとても清潔にしていてあり、ゴミひとつない。醜悪なプラゴミなどもないため、こうしたポップな民俗画で一杯なので、まるでおとぎの国にでも来たかのような気がする。

遠くから見ると、チャトリーのようにも見える収穫した稲藁でできた屋根。これは「ポーワル」と呼ばれる。下では牛やヤギを囲って飼う。屋根はそのまま少しずつ飼料として与える。牛のフンは燃料となり、何ひとつ無駄にならないエコシステムだ。ここに限ったものではなく、チャッティースガル州、オリッサ州その他でも見られる。

ポーワル

本日訪れた「オリヤー」と「アンゴー」どちらもアーディワースィー(先住民)のクルミー(という少数民族)の村で、土着文化及び信仰とヒンドゥー教文化が混淆しているような具合だという。

もともと独自の民族衣装があったそうだが、えてしてそういうものは手間もコストもかかるため、今の時代はマーケットで安く買える衣類を着ている。同様に、独自の言語もあるそうだが、それほど人里離れたところの集落というわけではなく、村人たちの町への出入りも多いため、日常的はヒンディー語も平行して使用しているそうだ。

ヒンディー語州であっても、チャッティースガル州のバスタル地方のアーディワースィーの村々を訪問したときは、ガイドとして依頼した人を通してでないと、コミュニケーションが容易でないことは多々あったのだが、本日の村々では、目の前にいるおじいちゃん、おばあちゃんから、子供たちまで、村人たちとごく当たり前に会話ができるのはありがたかった。

ヒンディーが広く使われているがゆえに、盗み聞きしようとしているわけではないのに、耳に入ってきてしまうものもある。どうやらテレビの取材班が最近ここに入ってきたらしく、一部の人たちに現金等を配ったらしい。その恩恵に預かることができなかった人たちはこれが不満で、取材班とは関係のないヴィラーサト・トラストのご夫妻に対して、「自分たちの分け前をくれ」と不条理なことを要求しているのが聞こえてくる。

ご夫妻自身、この扱いに手こずっていて大変そうであったが、なにぶん彼ら内輪のことであり、お金のことでもあるので、こちらは遠巻きにしているしかない。村にこれまで無関係であった第三者たちが勝手に入ってくると、それまでの秩序が崩れて、面倒なことになるものだ。

案内していて、良い意味でびっくりすることもあった。昼間は家族総出で田畑に仕事に出ている世帯が多いのだが、どの家もカギなどかけていなかったり、そもそもカギを付けるためのカンヌキや金具さえもない扉が多かったりするのだ。不用心なように思えるが、それほど村の治安が良いのだろう。

カギもなく中に入れてしまう家屋がとても多い。

ここでもうひとつ驚いたのは、案内してくれるご夫妻が勝手知ったる我が家のごとく、家人が出払った家の中へ「さあ、どうぞ、どうぞ」とずんずん入っていってしまうことだ。つまり、そのくらい良い関係が築かれているということである。絵を描くことに対する援助や各種アドバイスを受ける彼らとって、不在時にも誰か連れてきたらテキトーに見せて案内してね、という了解が出来ている。さすがはこの地で長年活動しているがゆえ築かれた相互の信頼関係である。

何の遠慮もなく、家人が出払った家の奥にずんずん入って行けてしまうことの背景には夫妻と村人たちの厚い信頼関係があるがゆえ。

「手入れをしても何年間維持できるのか?」という感じがする「カッチャー・マカーン」だが、築100年を越えるものがあるという。我が家に愛着を抱いて毎年補修を繰り返し、美しい絵で愛情を吹き込んでやれば、100年以上も維持できるものであるとすれば、毎年秋の収穫が終わる時期にせっせと壁を塗り直して新たに絵を描くという村の主婦たちの行動は、実は大変理に叶ったものということになる。伝統というものは、よく考えもせずに毎年繰り返される習慣というわけではなく、優れた知恵の継承という側面もあるらしい。

内容は新型コロナ感染症が流行する前のものです。

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