ナガルコート 3

雨雲迫る
昨日は『閑古鳥の鳴く雨季のナガルコート』と書いたが、近年この季節はそうヒマでもないのだという。
ナガルコートを訪れる人たちは乾季にドカッと集中していたのだが、最近はこの時期にネパール人客が増えているそうだ。ちょうどインドのヒルステーションに、平地の都市部の人たちがワンサカ押し寄せるように、雨季でもけっこう暑いカトマンズの中産階級等の人々が、ナガルコートにやってくるのはわかる気がする。
先述のとおり日帰りも充分可能な距離だ。ネパールの首都ではそれなりの可処分所得を持つ中産階級が台頭していることの証ともいえるだろう。
避暑地といっても、宿泊施設その他の商業地の密度が薄く、霧の中にボンヤリ浮かび上がる松の木々の景色は、どことなくインドのヒマーチャル・プラデーシュのカサウリーを思わせるものがある。もちろん英軍の香りが色濃く残るカサウリーその他、インド各地で旧英領時代以来の伝統を持つヒルステーションには、新興避暑地には真似の出来ない伝統や雰囲気があり、これをナガルコートと比較することはできない。
だが、このナガルコートの尾根から、冬季の晴れ渡った朝に眼前に広がる雪を冠したヒマラヤのパノラマほどの見事な景色(今回の私たちは結局写真で見ただけであるが・・・)は、多くのインドのヒルステーションで望むべくもない。
夕方近くなってから、雲がだんだん厚くなってきた。西のほうでは山肌がずいぶん暗くなっており、そこでは雨が降り出しているようである。だんだん霧のような雲が近づいてきたと思ったら、激しい雨が降り出してきた。すでにテラスは雲の中に入っており、すぐ目の前や階下の様子さえも見えなくなっている。ちょうど冬のデリーの濃い霧のようである。
大雨がやってきた
すっかり暗くなってから雨は上がった。テラスに出ると、薄い上着があってもかなり寒い。しかし雨の後で空気が澄んでいるためか、山間に点々と灯がともっているのがわかる。地上に星を降り撒いたようで美しい眺めだ。
山の中の村であっても、また夜10時すぎというのに、ずいぶん夜更かしだな?と思いきや、宿の人の話しでは『農村では泥棒対策のために、電気を点けたまま寝るのが習慣になっているんだよ』とのこと。そうした灯の数を見て「こんなに家があっただろうか?と思うのだともいう。確かに、眼下にちょっとした町がいくつも点在しているかのように見える。
雨上がりのしっとりとした空気、ここのところ蒸し暑さで毛穴が開いたようになっている身体に冷たい空気がピリッと心地良い。さきほどまで部屋の中で絵を描いていた息子に、テラスから声をかけると返事がない。窓越しに覗いてみると、すでに毛布にくるまって気持ちよさそうに眠っていた。

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