パイロットが足りない!

 経済が好調なインドで、空の交通網の発展も順調。このところいくつもの新たな航空会社が立ち上がり価格競争時代に入っている。
 そうした中でパイロット不足が伝えられており、既存会社と新興のエアラインの間で操縦士の引き抜き合戦、それに伴う給与の高騰ぶりなどについても伝えられている。
 クルマの免許などと違い、所持者の数が限られており、トレーニングには膨大な費用・時間がかかり、養成機関のキャパシティも限られていることから、有資格者を大量に供給する術もない。だからパイロットは現在のインドで最も旬な職業なのかもしれない。
 航空機を操縦する資格を持つ人たちの職場といえば、旅客機や貨物機で各地を結ぶ航空会社がまず頭に浮かぶが、私たち一般市民と直に接点をあまり持たない分野に、その有資格者にして経験豊富な人材が大勢揃っている。それは軍隊だ。
 インディアトゥデイ6月28日号によれば、民間航空会社のパイロットの初任給が15万ルピー前後になるのに対して、空軍パイロットは2万5千ルピーと大きく差がついている。従前はそれほど大きな格差はなかったはずの空軍と一般旅客機のパイロットの賃金格差広がっている。その大きな要因のひとつがここのところの航空業界の好況だ。
 インドの航空界には、今後5年間で新たに300機が投入される予定であり、新たに3500人ものパイロットが必要になるという。ちなみに現在インドの民間航空会社で就労しているパイロットは2500人とか。そうした中で空軍パイロットの中からより良い報酬を求めて航空会社に転職することを目的に軍を退役したいと申し出るケースが続出しているのだそうだ。
 だがインド空軍もまた340名ほどのパイロットが不足しているらしい。しかし肝心の空軍機の不足から、極めて貴重な資格を持つ操縦士の三割ほどの人員が事務仕事をしているというもったいない話もある。
 空軍と民間航空会社の間での人事交流、つまり軍パイロットが必要に応じて一般の航空会社のフライトの操縦桿を握ることができるようにできないものかという意見も以前からあるようだが、国防という重大な国家機密に係わることでもあることから、実現は難しいようだ。


 軍人もまた一人の市民であるという観点に立てば、自身の選択で軍に勤務することになったとしても、個々の事情によりそれを辞して他の職へと移る自由もまたあってしかるべき。
 そもそも就職先が軍であろうと民間企業であろうと、働く目的は国や会社への奉仕であるはずはなく、あくまでも自らが収入を得るためである。
 だが軍当局にしてみれば、国防・安全保障の観点から、要員の配置に支障が出ることは許されないし、将来的に民間機に乗務するパイロットを養成するために訓練費用を支出(戦闘機パイロットに8千万ルピー、輸送機パイロットに3千万ルピー)するわけにはいかないのはもちろんのことだ。
 本題から逸れるが、近ごろの世の中で特に気になることがある。国や地域を問わず、どこでも官から民へという世間の流れから官業が次第に隅に追いやられるようになってきており、それとともに公の仕事に就く人たちの待遇もときに目に見えて下がってきていることだ。
 もともと国民が支払った税金を財源とする予算で運営されている組織・機構であるから極力ムダを排除すべきなのは間違いない。それでも個人や個々の会社の利益追求のためではなく、社会全体の向上のために日々努める立場にある人たちであるからこそ、それなりの厚遇で迎えられてしかるべきではないかとも思う。まっとうな見返りや役得なしに、『社会への奉仕』という大義名分のみで優れた人材が集まるものだろうか。
 結局この部分は民間の会社と同じことで、公務員もまた大きな労働市場の一部だ。それなりの待遇がないと優れた人材が集まらなくなる。より良い世の中、今日よりも明るい明日にするため、その旗振り役である政府をはじめとする公共部門で働くことが誇りとなり、励みとなるような環境を造ることは大切なのではなかろうか。そもそも官と民は対立するものではなく、相互補完すべきものであるはず。
 政府や行政とは、パソコンに例えればウィンドウズやマックといった基本ソフトのようなものかもしれない。すると個人や企業はそのプラットフォーム上で動くアプリケーションソフトのようなものだ。基本ソフト自体は特に何かを生み出すわけではないが、その土俵の上で機能するソフトウェアで人々はさまざまな価値を創造していく。だがプラットフォームが不安定でバグだらけといった劣悪なものであれば人々の活動が滞るし、ときにクラッシュして取り返しのつかないことになってしまうだろう。
 困ったことに『官業叩き』はしばしば大衆政治家たちによる安易な人気取りの手段となる。世の中、とかく声の大きな人の意見が通りがちだ。私たち有権者たちはそうした一挙一動を鵜呑みにせず、『本当にそうなのか?』と自ら検証する姿勢が必要だと思う。
 軍を擁護するわけではないし、私自身も公務員ではない。それでも本当に『小さな政府』が良いのかどうか大いに疑問である。今の世の中の流れがそのまま先へ先へと進んでいくと、最後に大きなツケが回ってくる先は、結局のところ納税者であり市民としてこの地に住まう私たち自身なのだ。

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