遺跡の民営化

 やや古い話になるが、インディアトゥデイ6月14日号にちょっと気になる記事が掲載されていた。ラージャスターン州が史跡運営の民営化に踏み出したという記事である。新たな収益の見込みだけではなく、これまで顧みられることのなかった史跡へのケアをも視野に入れているのだという。
 現在同州政府管轄下にある250の史跡があるが、これらの入場料収入は年間5千万ルピーにしかすぎないのだという。収入不振の原因として体制、スタッフ、セキュリティ等の不備が指摘されており、改善には巨額な投資と多くの熟練した職員たちが必要とされる。
 だがこれらの財源がないため、ラージャスターン州政権は大胆な策に打って出た。保護指定を受けた史跡の管理と整備、運営させる権利を与えることと引き換えにロイヤルティー収入を上げる道を開くため、史跡運営委託に関する法律の整備を行なったのだ。現在、30の史跡が『民営化』の俎上に上がっており、ジャイプルのハワー・マハル、ナーハルガル、ジャイサルメールのパトワー・キー・ハヴェリー、ブーンデイーのラーニー・キー・バーウリーなども含まれている。
 史跡等の管理当局のエライさんの談話も取り上げられている。『マルチメディア・センター、カフェテリア、みやげもの屋やここで繰り広げられるプログラムなどによる収入が見込める』とある。やっぱり史跡民営化の本当の目的は商業化らしい。行政による直接の関与から切り離すことによるコスト削減、民間資本による観光開発による歳入の増加による一挙両得を狙っているようだ。
 州首相のワスンダラー・ラージェー自身のコメントにも『史跡のより良い保存はもちろん、年間10億ルピー(現行の20倍)の収入を上げること』とある。もちろん財政的には史跡管理にかかる費用等を史跡自身の収入から拠出することができればそれに越したことはないだろう。史跡だけではなく州内の18の博物館の民営化も検討されている。


 かたや行政の思惑もあれば、参入する民間資本側の目論見もある。管理委託先に対して史跡の修復(改造?)が認められるのか、文化遺産保護と商業化のバランスはどうなるのか等々、まだまだ不透明な部分が多いようだ。
 ラージャスターン州を中心に、古い宮殿等をホテルに改装して収益を上げている施設はあるか、歴史的な建築物であっても個人の資産と公共財としての文化遺産とでは性格が大きく異なる。まさか史跡がチープなテーマパーク化してしまうなんてことはないとは思うが。
 記事中には管理運営に名乗りを上げている民間資本、競争入札に応じる予定の企業等の名前は明らかにされていないが、リゾートなどを運営する有力企業グループが主体なのだろうかと想像している。
 入場者がほとんどなく、手入れもされずに打ち捨てられた廃墟のようなマイナーな史跡は、立地やプロデュース次第で民営化で息を吹き返すこともあるのかもしれないが、『遺跡の民営化』といってもその例をあまり知らないのでピンと来ない。
 ともあれ守るべき史跡に恵まれすぎたがゆえ、それらに対する手立てが財政的に困難であるがゆえに出てきた苦肉の策には違いない。果たしてこのプランは本当に実現するのか、どういう結果や問題点が出てくるのか、この風潮は他州にも及んでいくのか等々、今後の動きに注目したい。
 遺跡の民営化については、かつてU.P.州でもタージ・マハルの管理運営をあるホテルチェーンに委託しようかという話が出たことはあった。また外国でもイングランドでは環境省から分離して民営化された史跡の保護組織(・・・という経緯から、ラージャスターンでの『民営化』とは性格が異なるのだが)English Heritageが、現在400を越える史跡を管理するといった先例はあるため、まったくありえない話というわけでもないようだ。
 でも本当に大丈夫なのだろうか?とかなり心配。

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