日本でインド映画が危うい?

 ひところに比べてかなり少なくなってしまったが、日本各地に点在するハラールフード店では、イスラム教徒向けに南アジアやその周辺諸国から輸入された食品、日用雑貨や映画ソフトを販売している。 もともと彼らは主に同郷の人々を相手に商売をしていたようだが、日本の不景気と入国審査関係の厳格化により、それらの国々からやってきた出稼ぎ人たちが激減した。
 その結果、今も生き残っている店の中には顧客の枠を日本国外全般、とりわけ東南アジア、アフリカ、南米等々の主に第三世界からやってきた人たちへと広げるなど「国際化」を進め、安価な外国の食材、各国語の雑誌、衣類、小さな電化製品、テレホンカード等々を扱う外国人向けスーパー化しているところが少なくない。
 しかし今なおインド映画ソフトの販売は事業の柱のひとつで、日本在住のインド人たちもよく利用しているようだ。近年増えているIT関係者には南出身が多いためか、ボリウッド映画だけではなく、タミル語など南インドの言語による作品も見かけるようになってきている。
 ソフトのメディアはかつてビデオが主力だったが、やがて陳列棚にVCDが加わり、DVDが登場してからは、再生機器の普及とともに価格もずいぶん下がりつつある。現在ではDVD1枚(販売価格800〜1000円程度)に作品が3本入りのものさえあり、普通のレンタルビデオ屋で洋画や邦画を借りるより安いこともある。新しく顧客に加わったインド人ITプロフェッショナルはさておき、従来から店に出入りしているパキスタンやバングラデシュからの出稼ぎの人々は、概ね購買力が高くない(あるいは母国への送金や貯蓄が究極の目的なので散財したくない)ことが多いので、こうした懐具合に合わせているのだろう。


 人気の店では、話題作は本国での公開からひと月も経てば店頭に並ぶし、新旧の名作から出演者も誰だかよくわからないようなB級作品までいろいろある。手にとって眺めるだけでもなかなか楽しい。
 だが、すべてがそうではないのだがVCDやDVDにはある特定の国々から輸入されたコピー製品の占める割合が低くない、ビデオにいたってはこれらをマスターにして店内でダビングしたものがほとんどだ。これらは日本に暮らす中国系の人々相手の雑貨屋に置かれている大陸、台湾や香港の映画ソフトの大半と同様、立派な(?)海賊版ということになる。
 明白な著作権侵害行為ではあっても、こうした作品の版権所有者や配給業者たちは、日本という「取るに足らない小さな市場」にはあまり関心がないようだし、日本国内の映画関連産業に損害を与えているわけでもないので、「コピー製品排除を!」と圧力をかける団体は特に見当たらない。
 以前にこの「つぶやきコラム」で触れたように、マレーシアがインド政府から「海賊版天国」と糾弾されたのは、自国内の映画産業に尻を押されてのことである。ちなみにこの外圧のためだろう、近ごろマレーシアの主要な店で扱うVCDやDVDの類の多くは「オリジナルである」ことを主張する認証シール付きが増えている。
 今のところこうした「外国人の外国人による外国人のためのソフト」を日本の当局が取り締まる動きはないようだ。彼らが仲間内で取り引きしている分には、お目こぼしといったところだろうか。
 しかし一部の店の中には前述の顧客の「国際化」のためか、取り扱いについてもっと慎重になるべきアメリカ映画、とりわけ著作権侵害については非常に厳しい立場で臨むことで知られているウォルト・ディズニー社の子供向けアニメ作品の海賊版の販売にまで手を伸ばしているところがあるのは少々危険な兆候かもしれない。外国の医薬品を店頭で堂々と販売しているところもあるので、当局がその気になればこうした店を摘発する口実はいくらでもあるのだ。
 非常に多岐にわたる流通チャンネルを持つ中国系映画作品に比較して、インドものは日本国内ではお客の数はもちろんのこと、輸入ルートやアウトレットも少ない。取り締まりがあればその地域でのインド映画の供給は簡単にストップしてしまうことになるし、そうでなくとも南アジア系顧客の比率がジリジリと下がってきていることもあり、「なんだか面倒」と店頭での販売をやめる店も出てくるかもしれない。
 インド映画を正規に輸入している業者も日本国内にいくつかあるが、いずれも価格はかなり高めでストックされている作品も多くない。一時のブームの後、残念ながら人気が定着しなかったインド映画。殻の内にこもった一部のマニアの向けということになれば、競争原理が働きにくいのは無理もないだろう。
 それとは裏腹に現在のところ非公式(?)ルートではかなりの充実ぶりを見せているインド映画ソフトの豊富な流通は、コピー版に依拠している現状とそれらを購入する南アジア系の顧客の存在よるため、事情が変われば今にでもストップしてもおかしくない。
 一時の大ブームが遠い過去のものとなってしまった現在、不本意ではあるが日本でインド映画ソフト普及について、今後の展望はどうも明るくないようだ。
↓ボリウッド映画の供給をめぐり、ロンドンではこんなことが起きている。
Bollywood DVD fraudster is jailed (BBC NEWS South Asia)

「日本でインド映画が危うい?」への4件のフィードバック

  1. 入ってくる正規ものが少ないとはいえ、市中で流通するソフトの中に海賊版が多い現状は危ういなと思っています。
    また「映画文化圏」が違うとはいえ、日本国内ではブームが過ぎてからあまりインド映画が取り上げられなくなっていることも寂しく思っています。
    かつてコピーが氾濫していたマレーシアのKLなど(完全に駆逐されたわけではないと思いますが)で、現在ちゃんとした店ではケースに認証ホノグラムがついているものを見かけます。これは良い傾向です。

  2. ハラルフード店で売られているDVDって、パイレーツが多いんですか?
    見分け方を教えて下さい。
    やっぱり海賊版はダメですよ。
    インドのアーティストも神経を尖らせてるみたいだし

  3. 結局はハラルの思想までを自ら踏みにじる結果に行くのにね〜。
    英国等と違い実際に住んでらっしゃる印度人の人工はまだまだ少ないですし定着は難しいでしょうね。配給者は今後ともできるだけいいものをチョイスする目を鍛える事でしょうが印度の文化そのものが中国や韓国に比べ遠い感じがするのは(地理的にも)否めませんね。
    やはり適当な商売は続かないのでしょう。

  4. >日本でインド映画が危うい?
    貴殿は賊版容認派ですか?
    それはいけませんな

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です


上の計算式の答えを入力してください