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カテゴリー: politics

  • インパール作戦の証言

    今や先の大戦について一人称で語ることのできる人はごく一握りの高齢者たちとなった。 

    近年、当時の日本の戦争について肯定的に見直す動きが出てきている。これは当時の生きた記憶を持つ人たち、つまり当時すでに一定の年齢に達し、軍隊を含めて社会の中である程度責任のある立場にあり、戦争が行われていた時代について自身の体験を踏まえたうえで客観的に語ることのできる人がごく少なくなっていることと無縁ではないだろう。加えてそうした世代が実務から引退して長い年月が経ち、社会的な影響力を失っていることによるものも大きい。 

    NHK 戦争証言アーカイブス

    ここでは、こうした世代の方々からの戦争に関する証言を集めた動画記録を未放送分も含めてウェブ上で公開している。今の時代を生きる私たちにとって平和の大切さを考えるうえで貴重な遺産である。 

    その動画集の中には、太平洋戦争末期に起死回生を狙って無理を承知で、当時英領であったインドへ北東部からの侵攻を企図して決行されたインパール作戦に関する証言もある。 

    インパール作戦 補給なきコヒマの苦闘 (NHK 戦争証言アーカイブス) 

    すでに社会の中で一握りのマイノリティとなってしまった戦中派の彼らの声。私たちは謙虚に耳を傾けて、『歴史は繰り返す』ことのないよう努めるべきだろう。

  • 憎悪の連鎖

    世界を震撼させたアメリカの同時多発テロから9年になる。不幸にも被害に遭われた方々やその遺族の方々は言うまでもなく、『9/11』がその他の私たちに与えたインパクトは大きかった。まさにあの時を境に『世界は変わった』と言えるだろう。 

    被害者といえば、また事件直後のアメリカでは、外見から中東あるいは南アジア系と見られる人々に対する襲撃事件が相次ぎ命を落とした例も少なくないし、事件後アメリカが取り巻きの国々とともに直ちに取った『テロとの闘い』の名の元に展開させた報復行動により、この世から葬り去られたアフガニスタンとイラクというふたつの国(の政権)とそれと命運を共にした当時の体制側の人々やその巻き添えになった無辜の一般市民たちも同様だ。 

    サッダーム・フセイン政権が崩壊直後、それまで厳しく社会を律してきた治安機構そのものが不在となったイラクでは、それまでこの国で長らく弾圧の対象となっていた思想や信条を抱く集団が大挙して周辺国・地域から流入して、強力なリーダーシップで国を率いてきた独裁者のいなくなった『新天地』に地歩を固めることとなり、イラクの社会に混乱と暴力を、人々に怖れと生命への不安をもたらすこととなった。 

    アメリカは『イラクに民主主義をもたらした』と言う。確かに野心と才覚を持ち合わせた個人が策略を弄して上へ上へとのし上がることのできる自由は与えられたかもしれない。だがそれよりもずっと沢山の人々が、上昇しようにも見えない天井があるものの、彼らの社会に課せられた規範を踏み外さない限りは、生命や財産の心配をすることなく日々安心して暮らしていくことのできる社会とどちらが大切だろうか。 

    ご存知のとおり、イラクは確認されている原油埋蔵量は、サウジアラビアに次ぐ世界第2位の1,120億バレル。しかも埋蔵量の9割は未開発であるとされ、本来ならば非常に豊かな国である。人口およそ3,000万人のイラクでは豊富な石油関係の収入を背景に、1990年8月2日に起きたイラクのクウェート侵攻に端を発した湾岸危機とこれに続く国連による経済制裁や湾岸戦争以前には、それなりに豊かで安定した市民生活が営まれていた。市民や外国人が過激派に誘拐されて殺害されるようなことなど想像もつかない、極めて良好な治安が保たれてもいた。 

    『9/11』やその後の一連の動きの中で被害に遭った人々たちの住む地域や社会的な背景は様々であり、思想や信条による色分けはない。たまたま犯人たちが特定の宗教を信仰することになっている人々であった。だがその事件とこれに対する報復劇の最中には、関連地域に生活するキリスト教徒であれ、イスラーム教徒であれ、あるいはユダヤ教徒も大きな被害を受けてきた。事件そのものが政治化されたがゆえの未曾有の『災害』だ。 

    この災害はイラクに先立ち、1978年以来続いてきた内戦の復興からほど遠いアフガニスタンをも呑み込んでしまった。こうした『政治的災害』は、今なおそのエネルギーは衰えることなく、地殻のすぐ下で不気味な響きを立てているその奔流は今後どこへと向かうことになるのか。 

    こうした災害をもたらした『政治屋』たちの謀略をよそに、アメリカで『未知なる人々への憎悪』という市民の間からも火の手が上がりつつあることについては、これまでとはまた違った注意が必要なのではないかと思う。 

    あるキリスト教系の団体が、今年の9月11日をイスラーム教の聖典であるクラーンを集めて、これらの焚書を実行すると宣言している。 

    9月11日にコーラン焼却集会を計画 フロリダの教会 (CNN.co.jp)

    彼らは嫌イスラームの姿勢で広く知られており、同教団のウェブサイトでは、反イスラームのメッセージを伝えるTシャツや書籍の販売も行なっている。 同サイトには、この教団による『クラーンを燃やす10の理由』『クラーンを燃やすあと5つの理由』といった主張も書かれている。 

    他者に対するこれほどの過激な姿勢については、まさに『カルト』と表現するほかなく、彼らの主張がアメリカや他国の大衆や世論をどれほど感化するのかといえば、その影響力はごくわずかなものであると信じたい。それでもイスラーム社会全体を敵とみなすこうした団体の存在は大変センセーショナルであることから、メディアによる取材・報道の格好の材料となる。ゆえに国内外に与える社会的なインパクトは大きい。 

    彼らの行動は、イスラーム原理主義過激派により反米感情を煽る格好の材料として使われる。イスラーム社会に暮らす大衆の間で『反米・反キリスト教』感情をかきたて、彼らの側でも『未知なる人々への憎悪』の炎を燃え上がらせることになる。今後もアメリカ政府機関や多くの罪なきアメリカ国籍の一般人たちがテロや誘拐といった暴力行為の標的となる理由づけに利用されることは想像に難くない。多くは直接出会ったこともないし、声を交わしたこともない未だ見ぬ人々同士の間での憎悪の連鎖を断ち切るにはどうすればよいのだろうか。 

    交通や通信手段の発達により、世界は狭くなったとはよく言われることだが、地域・信条・思想を越えての人々の距離はそう簡単には狭まることないようだ。むしろコミュニケーション手段の進化とともに、疑いや憎悪といったネガテイヴな感情がいとも簡単に国境を越えて人々の間でこれまでにない速度で伝わることが可能となっていることについて、大きな不安を抱かずにはいられない。

  • ジャインティア丘陵の炭坑

    人権NGOヒューマンライツナウは、インドのメガーラヤ州ジャインティア丘陵の炭坑における児童労働を告発している。

    インドにおけるHRN事実調査ミッションのプレスリリース

    (ヒューマンライツナウ)
    現場では生命の危険を含む重篤な人権侵害が常態となっており、背後には国境を越えた人身売買もあるとのことだ。いうまでもなく石炭採掘はこの地域の主要産業のひとつである。
    目下、多少の波はあっても経済が好調に推移しており右肩上がりに成長著しいインドとはいえ、いまだに児童労働に関しては様々な事例があり、私たち外国人が直接目にしたり見聞したりということは、他国に比較しても(国の規模が大きいためということもあるが)ずいぶん多い。
    インド国内のみならず周辺国での失業問題や人口問題等の絡みもある。それらを含めて経済的にも就学機会にも恵まれない層の人たちの間でとりわけ人口増加率が高いことは昔からよく指摘されている。
    インドが高い経済成長を記録するようになる以前、90年代初頭あたりまでは、経済の伸びが貧困層の増加で償却されてしまっているような状況が続いていた。現在ではそれを大きく超える成長をしているとはいえ、都市部ならびに地域間での格差はそのままであり、インド社会全体の底上げを図るためには、国家的な取り組みが必要であると思われる。
    後進地域や部族地域でマオイスト勢力の伸張が見られ、インド社会に対する脅威として広く認識されるようになってきているが、彼らの存在自体が『造反有理』と言えなくもない部分があることは否定できない。
    貧困層の放置は治安に対する脅威と受け止めるべきであろう。

  • マオイスト 鉄道を標的に

    また鉄道の大惨事が起きてしまった。
    5月28日午前1時過ぎ、コールカーターから150kmほど離れたミドナープル地区内のマオイストの拠点ジャールグラム近くにて、ハウラーからムンバイーに向かうギャーネーシュワリー急行が脱線して並行して走る線路に乗り上げた。そこに走行してきたターター・ナガルからカラグプルに向かう貨物列車が衝突したため、被害が更に深刻なものとなった。大きな地図で見る
    事件はマオイストによる犯行と断定されている。当初は爆破事件説もあったものの、鉄路のフィッシュプレート(ジョイントバーとも呼ばれる)というレールの継ぎ目を固定する部品が取り外されていることが確認されたことから、当局はこれが有力な原因とみて調査中。
    すでに100人を超える死者が確認されているとともに、負傷者も200人以上と伝えられている。複数の倒壊ないしは大破した客車の中に閉じ込められている人たちの救出作業が続いており、今後死者ならびに負傷者の数は拡大する見込み。インド国鉄から列車乗客リストがウェブ上に公開されている。以下のビデオは事故発生から間もない時間帯に放送されたものであるため、被害の数はまだ少ないものとなっている。たとえ客車に保安要員を配置して、座席あるいは寝台の乗客安全を図ったところで、その車両が走る鉄路の状況にまで監視の目はなかなか行き届かないであろう。広大な国土のインドである。寒村や人里離れたところを拠点に暗躍するマオイストたちにとって、政府に対して大きなダメージを与えるためには、鉄道は簡単にして確実な攻撃対象となる。内務大臣のチダムバラムがマオイストへの対決姿勢を鮮明にしてから、4月上旬にはチャッティースガル州で彼らの拠点を叩こうとした警察部隊が、反対にマオイスト側から急襲されて76名が死亡する事件が起きたのは記憶に新しいところだ。内務大臣はその責を取り、一時は辞表まで用意したものの慰留されている。
    今回は、事件現場から十数キロほど南東方向に進むと空軍基地というロケーション。国防施設周辺といういわばグリーンゾーンのすぐ外側でこうした惨事を起こすということ自体が、政府の無策ぶりを嘲笑っているかのようである。
    すでに中央政府、州政府、鉄道当局の三つ巴で責任のなすり合いが始まっている様子もあり、まさにマオイストの思う壺・・・といった具合に進展しているようだ。
    現場が僻地であることもあり、国外では『インドでよくある鉄道事故』であるかのように扱われてしまうかもしれない。だがマオイストによる大胆な犯行が連続している状況は、潜在的には2008年11月にムンバイーで起きたイスラーム過激派によるテロに匹敵する脅威を秘めているといって過言ではないかもしれない。往々にして他所から来た人間が散発的に起こすテロ(近ごろでは『テロの国産化』という傾向もあるにせよ)と違い、マオイストたちの存在は地元に根ざしたものであり、それ自体が大衆運動でもあるため、彼らとの対立は文字通り『内なる闘い』ということになるのである。
    ※『彼方のインド4』は後日掲載します。

  • 国勢調査とジャーティ

    次回、2011年に実施される国勢調査をめぐり、人々のジャーティについての調査も含まれる方向にあることが議論となっている。
    憲法上、国民の間でそうした区別は否定されているものの、それは決して存在しないものであるとはいえない。また指定カースト、指定部族、その他後進階層(OBCs)に対する留保制度という優遇策がある。
    本来は憲法の定めるところに対して矛盾しているわけだが、実社会で存在している差別等を解消するために、こうした施策を通じて万民の平等を保障していると解釈することもできる。
    だがその反面、留保制度による救済の対象となっていない人々が皆恵まれた境遇にあるわけではなく、充分な実力や資格を有する人々がこの制度によって引きずり下ろされてしまうことにもなる。そのため留保枠対象でない人々に対する逆差別でもあることから、しばしば政治的問題を引き起こしてきた。
    ごく最近ではアーンドラ・プラデーシュ州ではムスリムに対する留保制度も成立しているが、州ごとに留保のありかたは異なり、例えば同じコミュニティでも州によっては指定カースト、他州では指定部族であったり、OBCに区分されていたりすることは珍しくない。あるいはさらに別の州ではそうした留保の対象となっていないこともあるなど、決して一様ではない。
    州によって特定のコミュニティが置かれている状況が異なるということもあるにしても、やはりジャーティを背景にした政治力学によるところが大きいといえるだろう。
    話は変わるが、日本においてはヴァルナ・ジャーティといえば上下関係を規定するものという具合に理解されていることが多いようだが、そういう単純なものではない。日常での上下関係を決めるものは、個々の社会的な地位、職業、収入や財産といったステイタスであり、ヴァルナやジャーティで規定されるわけではないことについて注意が必要だ。むしろ『部族・同属集団・血統集団・派閥等々で細分化された社会的概念』とでも言ったほうがしっくりくるかもしれない。
    こうした区分が結果的に他者に対する差別という結果を生むということもあるが、同時に自らを律する側面もある。例えば、北インドでは通常、同一ジャーティ内の同じゴートラ(氏族集団)内での通婚はタブーである。
    もちろん法的には可能なのだが、特に保守的な地域では身内やコミュニティにそれを認めさせるのは困難だ。それでも男女の仲なので駆け落ちしたり、入籍を強行する例はたまにある。だが周囲からの制裁も、ときに非常に激しいものとなり、極端な場合には殺人にまで至ることもある。
    最近はハリヤーナー州で、同じゴートラに属するマノージという青年と恋人のバブリーが周囲の反対を押し切って結婚した結果、ふたりはバブリーの実の兄やおじを含む身内の男たちに殺害された。国の司法とは違う次元のローカルな裁きや掟が、コミュニティの自治の役割を持つカープ・パンチャーヤト(地域から選挙で選ばれた代表が仕切る村落パンチャーヤトとは異なる)を通じて深く関わった。
    犯人たちは死刑を含む極めて重い判決を受けたものの、あくまでも控訴して徹底して闘う構えを崩さずにおり、当のカープ・パンチャーヤトも国の介入に対して強く反発しているなど、こうしたいわゆる名誉殺人が発生する土壌には非常に根深いものがある。
    Death Sentence in Honour Killing Case: A Milestone (Pragoti)
    だがこうした負の部分はあるにせよ、様々なジャーティが存在すること自体、それぞれのコミュニティが独自の文化なり伝統なりを維持していることの証でもあり、他の国々にはないインドならではの多元的で豊かな文明を体現しているものであるという部分は否定できない。
    話は国勢調査に戻る。インドの国勢調査でジャーティに関わる調査も実施されたのは1931年が最後で、2011年にこれが実施されるとすれば、実に80年ぶりということになる。
    行政的な視点から言えば、今日もインドの社会においてジャーティの意味するもの、それが果たす役割も大きいことからも、出自をベースにした留保制度が存在することからも、国勢調査で集めるデータの中にそれらもしっかりと加えるべき、ということにはなる。
    だが一方、倫理的な問題もさることながら、これを悪用される懸念も大きく、インドの政治のありかたを大きく変える『パンドラの箱』という観測もある。
    現在インドに生きる人々の大部分にとって『生まれて初めてジャーティまで対象』となる方向にある国勢調査に対して、これを当然そうあるべきものとして歓迎する向きもあれば、疑念や不信感を抱く人々もあるなど、反応は様々であるのは当然のことでもあるが、非常にデリケートな問題を含むため、取り扱いには細心の注意が必要であるがゆえ、目下喧々諤々の議論となっている。
    部外者である外国人としては、どういう結果が出るのか興味深いところであるとともに、そこから導き出されるデータについては、学術的な価値も大きなものとなるであろうことは間違いないだろう。
    国勢調査にこうした項目を加えるかどうかという議論は今に始まったことではなく、かなり前からいろいろな意見があった。以下にリンクを示した記事は、雑誌Frontlineのウェブサイトのものだが、今から10年前の2000年9月の記事である。
    Caste and the Census (Frontline)
    一昔前に書かれたものだが、その内容は今日においてもまったく色褪せていないのは興味深い。
    ※『彼方のインド 4』は後日掲載します。

  • ラシュカレ・タイバが『グローバル化』したらどうなるのか?

    ときどき、アメリカのニュース雑誌NEWS WEEKを手にしてみると、しばしば違和感を覚えずにはいられない。ちょうど中国共産党中央委員会の機関紙人民日報の人民日報の紙面面と共通するものがあるような気がする。
    自由と民主主義を標榜する国から発せられる世界中に流通する民間の週刊誌と、政府による厳しい情報管理がまかり通る国の独裁政党の機関紙が似ていると言うのは奇妙ではあるが、自らが是とするイデオロギーに対する異論を許さないという姿勢ゆえのことかもしれない。
    そのニューズウィークの報道ではあるが、こんな記事を見かけた。すでにひと月以上前のものではあるが。
    The Next Al Qaeda? (NEWS WEEK)
    90年代あたりまではカシミールを主な活動の場として暗躍してきたラシュカレ・タイバ(LeT)だが、今世紀に入ってからは2001年のデリーの国会議事堂襲撃、2005年のデリーでの連続爆破事件、2006年のムンバイーでの列車爆破事件に関わるなど、破壊活動の場を拡大してきていた。
    その中で特筆されるのは言うまでもなく、2008年11月に起きたムンバイーでの大規模なテロ事件であるが、2月にマハーラーシュトラ州のプネーで起きた爆破テロについてもラシュカレ・タイバを名乗った犯行声明が出ている。
    ラシュカレ・タイバとの繋がりでクローズアップされた外国人たち、ともにパーキスターン系で米国籍のディヴィッド・ヘドレー、カナダ籍のタハッウル・フサイン・ラーナーの存在、これまで明らかになっている彼らの足取りや行動の関係等から、このグループについて、それまで認識されていた以上の国際性が取り沙汰されるようになってきている。
    またインドでのラシュカレ・タイバのテロ活動について、2008年11月26日にムンバイーで起きた大規模な攻撃以降、インド以外の第三国の人々をも標的にするようになっている点、彼らにとって米国大使館も標的として浮上してきているということ、他のテログループとの提携なども含めて、他メディアでもしばしば取り上げられていることでもある。つまり彼らの活動が近年とみに広域化・グローバル化しつつあることが懸念されている。
    さらに悪いことに、彼らはパーキスターンでは決して闇の組織というわけではない。長年同国政府、とりわけISIと持ちつ持たれつの繋がりがあったし、地域医療活動などの福祉関係で、それなりに民衆の支持を集めていることもあり、社会的に孤立した組織ではないことには留意が必要だ。
    ラシュカレ・タイバの活動やネットワークの広域化、国際化は憂慮されるところではある。隣国からのテロに苦りきっているインドにとっては、アメリカの大メディアがこうしたテロ組織の脅威を、彼ら自身のセキュリティに関わる問題として扱うことは、好意的に評価できるものだろう。
    しかしながら『民主主義』といっても、その国ごとのカラーや社会的な事情から、それぞれずいぶん異なった様相を呈しているこの世の中。そうしたひとつひとつの国々に主権があり、様々な民意あるいは強権により運営されている。
    武力以外の外交手段を駆使して、ある国を変えようとしても、なかなかうまくいくものではないことはミャンマーの例を見ても明らかだ。あるいは戦争という強硬な手段により政権を崩壊させた後に、新しい国の枠組みを再建へと誘導すれば、民主的かつ公明正大な国が出来上がるというわけではないことは、イラクの有り様を見てもよくわかる。
    現在、パーキスターンで、ラシュカレ・タイバが活動できる土壌を変えることができるのか、といえば、当のパーキスターン自身にも、他のどの国にもできないだろう。
    上記リンクの記事を読んで非常に気になったのは、近い将来、本当にラシュカレ・タイバがテロリストの『グローバル・プレーヤー』として台頭したら、あるいは在外アメリカ公館、ひょっとしたらアメリカ本土でテロ事件を起こしたら、パーキスターンはどのような代償を払わなくてはならないのか、アメリカはどういうアクションを起こすことになるのか、ということである。
    あまりに恐ろしいシナリオが待ち構えているに違いない。

  • 女性留保枠 = 政治エリート一門とセレブの指定席?

    青森県八戸市議会の藤川ゆり議員は『美人過ぎる議員』として評判だが、インドで目を引く美人議員は誰?と問われれば、連邦下院議会のBJPのスムリティ・イラーニーや社会党のジャヤー・プラダーといった芸能界から進出した人たちを除けば、2009年にバティンダー選挙区から出馬して同じく連邦下院議員として当選したハルスィムラト・カウル・バーダル氏だろう。
    Harsimrat Kaur Badal
    以下、2009年の選挙に立候補した際、ハルスィムラト氏がスター・ニュースのインタビューに応じたときの様子だ。雑談程度で中身のあるものではないのだが。
    Prakash Singh Badal’s daughter in law, Akali Dal’s candidate from Bhatinda, talks to Star News (Youtube)
    彼女はシロマニー・アカリ・ダルの党首で、パンジャーブ州副首相のスクビール・スィン・バーダルの妻。義父は同党の前党首で現在パンジャーブ州首相を務めるプラカーシュ・スィン・バーダルだ。現在43歳の彼女自身は、名門の名でとりあえず議席を確保するために担ぎ出されたまったくの素人である。
    ところでインドでの議会といえば、連邦議会ならびに州議会において議員数の三分の一を女性に対して留保しようという憲法改定案が話題になっている。かなり紛糾しつつも、3月9日に連邦議会上院を通過し、今後同下院、続いて各州議会へと送られて審議されていくことになる。
    この法案について喧々諤々の議論がなされていることについては、女性の社会参画拡大と地位向上という美しい建前とは裏腹に、現在までのところ議員数の9割前後を男性が占めている現状(ちなみに連邦下院では、目下女性議員数は11%)自体が障害である。
    また、定数の決まった枠組みの中で有能な人物であっても男性であるがゆえに女性への留保がネックとなり政界での機会を失いかねないこと、果たして留保という形で女性の割合を大幅に増やすことがもたらす効用というものがあるのか、という疑問もある。
    特に後者については、女性議員数が従前の3倍ほどに膨れ上がることから、果たしてどういう人物がその部分を占めることになるのだろうか。少なくとも、この制度が導入された直後の選挙では、経験と実績のある女性人材が乏しい中で、各政党は有力政治家の身内や芸能関係のセレブといった社会的に知名度の高い女性候補を乱立させての議席の奪い合いが展開されるはずだ。
    その結果、ハルスィムラト・カウル・バーダル氏と似たような立場の人たちが、まさに『時代の申し子』として、続々と政界入りすることとなり、当面は既存の政治エリートたちの一門の足元を固めることにしかならなかったり、あるいは盛りを過ぎたセレブ女性たちの政界進出への垣根を低くすることにしかならないような気がする。
    見方を変えれば、特に地位向上を必要としない、従前から『財と力のある』女性たちがこぞって政界に出てくることでもあろう。それはそれで政界に変化を生むはずだが。ひとくちに女性といっても、本来ならば社会のどの部分を構成する層に焦点を当てるかという具体性が必要になってくるはずだ。
    この法案について、Nadwat-ul-Ulemaの指導者が、反イスラーム的であると批判するいっぽう、All India Association of Imamsのように、これを女性の地位向上の好機と捉えるイスラーム団体もある。
    また、Jamaat-e-Islami Hindが、女性留保枠そのものには好意的ながらも、相対的に不利な状況に置かれているムスリムに対する措置がないことについて批判しているのも無理からぬところだ。
    指定カースト(SCs)、指定部族(STs)に対する留保と同様に、同じく社会底辺の広範な部分を構成する自分たちのコミュニティへ同様の措置を長らく求めてきたムスリムの視点からすると、その要求を飛び越えて女性枠が導入される雲行きであることについては、不満が残ることは心情的に理解できる。
    ところで、この『女性枠』というアイデアについては、唐突に出てきたものでは決してなく、かなり前からそういう議論はあった。もっとローカルな自治制度パンチャーヤトでは1993年以降、三分の一の女性留保枠が導入されており、こちらはその留保枠を50%に引き上げようという方向にある。
    今回の女性枠に関する一連の動きには非常に興味深いものがあり、今後ともその成り行きを見守っていきたい。

  • 大いなる落日

    Jyoti Basu
    一昨日、アジアを代表する歴史的な共産主義者、インド共産党マルクス主義派の伝説的指導者ジョーティ・バスが95年の生涯を閉じた。
    1914年7月に医者の家に生まれる。ソビエトのタシケントでインド共産党が結成される6年前のことである。ベンガルの中流家庭の子弟として育った後、イギリスに渡って法学の勉強を志した彼は、当時新しいイデオロギーであった共産主義の思想に出会う。
    1940年に弁護士の資格を得るとともに帰国。以降、彼がインド共産党の活動家としてのキャリアを歩み始めた時代は、植民地期末にインドにおける共産党が非合法化されていた時代と重なる。共産党が禁を解かれてからも数々の弾圧に耐えつつ同志たちとインドにおける階級闘争ならびにイギリスの植民地支配に対する闘いを続けた。
    本来、共産党の支持基盤となりえる労働者層の人口が膨大なインドにおいて、一時は国民会議派に次ぐ大きな勢力を持つにいたったこともある共産党である。しかし左派勢力並びに党内における対立や抗争を経てきたインドの共産主義活動は、1964年に大きな転機を迎えることとなる。インド共産党 (CPI)と袂を分かち、インド共産党マルクス主義派 (CPI-M)が旗揚げすることとなった。
    その1964年といえば、ジョーティ・バスがインド共産党マルクス主義派の政治局員となった年でもある。一月17日に彼が亡くなった彼は、この政治局創設時の最後の存命者であった。
    1967年の州議会選挙で躍進したインド共産党マルクス主義派は、連立政権の一角として浮上、ジョーティ・バスは州副首相となるが、わずか8カ月で政権は瓦解。続く1969年には、連立政権の第一党となり、1971年まで再び同じく州副首相の地位を占めることとなった。
    その後、1977年の州議会選挙において、インド共産党マルクス主義派が初めて議席の過半数を得ることにより共産党政権が打ち立てられる。1957年に普通選挙による世界初の共産党政権を樹立させたケーララ州とともに、民主的な手法により選出された世界でも稀な共産党政権であるとともに、世界で最も長く選挙を通じて改選され続けている共産党政権でもある。
    ジョーティ・バスは、1977年から2000年まで、23年間の長きに渡って西ベンガル州首相を務めた後に次代のリーダーたちに禅譲している。あまりに長く最高指導者の立場にあった彼の功罪や西ベンガル州で記録的な長期政権を運営してきた共産党マルクス主義派についてはいろいろ議論のあるところではあり、近年は西ベンガル州におけるインド共産党マルクス主義派の威光にも陰りが見えてきている。
    それでも民主主義というシステムの中で、つまり民衆の総意の中での共産主義という思想を定着させてきたことは肯定的に評価されるべきであるし、大衆の総意を結集して世の中を変えていくことにより、政治に対する人々の参加意識を高めてきた大きな功績があったことは間違いないだろう。
    ジョーティ・バスの逝去は、インドの大地に沈む真っ赤な夕陽のようでもある。
    20100119-redflag.jpg
    jyotibasu.net
    ※ダーラーヴィー?は後日掲載します。

  • 海抜最も高いところで開かれた閣議

    12月4日に、ネパールの閣議がエヴェレストのベースキャンプ近くのカーラーパッタルで開かれた。海抜5,242mとのことで、これまでネパールはもとより世界中の国々を見渡しても、こんな高地で開かれた閣議はひとつもない。

    閣議は午前11時に開始され10分後に終了。この目的は、地球温暖化によるヒマラヤ地方への深刻やインパクトを世界に知らしめるためのもので、12月7日に始まるCOP15(気候変動枠組条約第15回締約国会議)への強いアピールである。
    Nepali cabinet meets at Everest base camp (Hindustan Times)
    閣議の『会場』となった場所は具体的にどこか?ということについては、以下の地図をご参照願いたい。記号『A』で示されているのがカーラーパッタルである。

    大きな地図で見る
    10月17日にモルディヴの海中で開かれた閣議と好対照を成しているといえる。

    ヒマラヤの高地とモルディヴの海中、場所は違うがどちらも地球温暖化に対するアピールだ。後者は将来国土の大半が失われるという国家の存亡がかかっており、前者にとっても氷河の後退その他の温暖化による影響からくる現象が示すものは、単に景観の変化ではない。ともに切実な訴えである。
    氷河湖の決壊による惨事の可能性はよく言われているが、国際的な河川、複数の大河の源であるこの地の異変は、この国の自然や生態系のありかたを大きく変える危険があるだけではなく、インド亜大陸全域におよぶ環境問題でもある。
    どちらの国にしてみても、普段閣議が行なわれている場所ではなく、わざわざ手間隙かけてこういうところで『閣議』を開くというのは、パフォーマンスではあるが、こういうパフォーマンスならばいくらでも実行して欲しいものだ。
    なかなか外に広く呼びかけようとしても声が届きにくい小国の主張、問題提起がヴィジュアルな画像や映像となって、世界中の人々の元に届く。
    まずはより多くの人々がそれを知り、問題意識を共有することが大切なはじめの一歩だ。メディアを通じて彼らの積極的な呼びかけを耳にしたり目にしたりした私たちも、地球温暖化に対して、何かできることから取り組んでみよう。

  • ラージダーニー急行 マオイストが占拠

    20091027-apharan.jpg
    今月21日にマトゥラーで起きた列車同士の衝突事故、同じく23日にはムンバイー郊外のターネーで、走行中の列車に送水管が落下したことによる事故と、鉄道関係の惨事がニュース映像となって流れたばかりである。
    今日は、夕方テレビのニュースを眺めていると、『Breaking News』のテロップとともに、今度はマオイストと見られる一団により、ブバーネシュワル発デリー行きのラージダーニー急行が長時間停められているという速報が流れてきた。
    場所は西ベンガル州のミドナプル地区。ジャールカンド州境に近いところである。複数の男たち、一説には100名ほどの群集が、赤い旗を手にして列車を停止させ、乗客の人々を人質にしているとの報せに仰天した。
    その時点では、彼らが本当にマオイストであるかどうかの確認は取れていないようで、この地域のマオイストのリーダーは関与を否定しているという説も流れていた。それでも犯行グループは、現在収監されているマオイスト指導者、チャトラダール・マハトーの釈放を要求しているとのことで、やはりマオイストのある派閥に属する者たちによる実力行使であると見られるとのことだ。
    これを書いている今時点で、事件発生から5時間経過した。すでに車両は警察当局のコントロール下に置かれている。犯人グループたちにより、携帯電話を取り上げられた者は複数あったようだが、幸いにして負傷者等は発生していない模様。テレビカメラに映し出されたラージダーニー急行の車体には、前述のチャトラダール・マハトーの解放を要求するメッセージが赤い文字で大書きされている。
    Maoists stop Bhubaneswar Rajdhani Exp, driver missing (ZEE NEWS)
    Rajdhani blockade over, ‘pro-Naxal’ group takes claim (India Today)
    マオイスト、あるいはインドの武闘派極左勢力発祥の地である西ベンガル北部のナクサルバリにちなんで、ナクサルあるいはナクサライトと呼ばれる赤い地下組織は、西ベンガル以外でも、チャッティースガル、オリッサ、ジャールカンド、ビハール、アーンドラ・プラデーシュ、マハーラーシュトラなどで盛んに活動しており、事実上の『解放区』となっている地域さえある。
    部族や寒村の貧困層といった、開発や近年の経済成長の恩恵とは縁遠い人々を主な基盤としており、そうした地域のアクセスの悪さや行政組織の不備等が、彼らの活動を利している部分もある。
    そうした発展から取り残された地域の警察組織の脆弱さ、個々の警察官たちが治安要員としての資質や経験に乏しく、実戦の中で切磋琢磨してきたマオイストの戦闘員たちとまともに対峙することができないという行政側の当事者能力の欠如も指摘されているところだ。
    近年、とみにマオイストたちの活動の拡大が顕著であることから、国内の治安に対する大きな脅威であるとして、中央政府が対決姿勢を鮮明にしているところだ。しかし中央の政治家たちがいくら声を荒げてみたところで、都市部を離れて人口が希薄、ひいては警備もほとんど存在しない公道や鉄路の上で散発する事件に対して、当局はあまりに無力であるように見える。
    マオイスト、ナクサルと一口でいっても、その中には様々な志向の集団が内在していることだろうが、ネパールで内戦を続けた末に、合法的な政党と化し、一度は政権を担うまで至り、今も同国政治の行方を担う一大勢力である『マオイスト』が、彼ら自身の頭の片隅にはあるだろう。
    果たして中央ならびに各州の政府が、地域社会と力を合わせてこうした暴力組織を駆逐する方向に進むことができるのか、あるいは今後ますます犠牲者を出すとともに自らの勢力を拡大していくのか、気がかりなところである。

  • 奇襲!

    これはテロというよりも、まぎれもない戦争である・・・と私は思う。先週土曜日にパーキスターンのイスラマーバード郊外にある同国陸軍本部を武装集団が襲撃し、人質を取って立てこもった事件である。
    Brazen attack hits Pakistan army HQ (DAWN.COM)
    Skilled commandos rescue hostages (DAWN.COM)
    反政府勢力のタリバーンが犯行声明を出しており、軍の側の警備の不手際も指摘されているが、テロリストたちによる軍中枢を狙った奇襲作戦の『華々しい戦果』の裏には、天地驚愕させるような大仕掛けや綿密に練り上げた陰謀があったのではなかろうか。今後次第に明らかにされるであろう、この事件の背景に関わる様々な情報に注目していきたい。
    大規模なテロ事件の続発、著名政治家の暗殺、タリバーン勢力によるスワート地方の実効支配と政府軍による奪還等々に加えて、中央政府の不安定な政権運営など、気がかりなことばかりが常態化しているパーキスターンの政情だが、近年の出来事の中でも最大級の衝撃的な事件である。
    いまや印パ関係以上に、パーキスターンという国自体の行方を案じずにはいられない。隣邦がどういう国になっていくのか、インドにとって外交上の問題のみならず、自国内においても相当な影響を及ぼしていくことは必至である。

  • カシミールはどこの国?

    印中関係が好転している近年、両国間でビジネスや観光等の目的での行き来が盛んになるとともに、ふたつの大国の間を結ぶフライトも増えてきている。
    それでも長らく敵対してきた関係もあり、国力・軍事力ともに上回るアジア最大の国を前に、インドにおける中国に対する不信感や猜疑心はまだまだ強い。
    南アジアのインド周辺国への中国の影響力の伸張、インドとの国境地域における軍の動静など、インド側の神経を逆撫でするような動きがしばしば見られる。
    このほど、在デリーの中国大使館で発行される一部のヴィザについて、問題が生じているようだ。
    どういうわけか、カシミールの人々に対してのみ、旅券に対してではなく別紙にてヴィザを発給しているというものだ。
    India protests issue of separate Chinese visa to Kashmiris (indian express.com)
    Row over China Kashmir visa move (BBC NEWS South Asia)
    上記の記事中には、不幸にして、こうした形で出された査証を手にした人たちは、インド出国の際にひどく揉めたり、飛行機に乗れなかったりということが起きているとも書かれている。
    中国行きの飛行機への搭乗を妨げられた人にしてみれば『中国大使館は、カシミール人にだけ、なぜこんな余計なことをするのだ』ということになるし、インド政府にとっては『カシミールをインド固有の領土と認めないというスタンスだ』ということになるのだろう。
    カシミールは、パーキスターンとの間で帰属をめぐり係争している地帯とはいえ、姑息な形で『内政干渉』してくる国に対して信頼感を醸成できるとは思えない。
    ましてやそれが国力・軍事力で自国よりも勝る大国だ。やはり中国という国は、常に警戒心を抱いて用心深く付き合うべき隣人、決して心を許してはいけない危険な相手であることは間違いないようだ。