女性留保枠 = 政治エリート一門とセレブの指定席?

青森県八戸市議会の藤川ゆり議員は『美人過ぎる議員』として評判だが、インドで目を引く美人議員は誰?と問われれば、連邦下院議会のBJPのスムリティ・イラーニーや社会党のジャヤー・プラダーといった芸能界から進出した人たちを除けば、2009年にバティンダー選挙区から出馬して同じく連邦下院議員として当選したハルスィムラト・カウル・バーダル氏だろう。
Harsimrat Kaur Badal
以下、2009年の選挙に立候補した際、ハルスィムラト氏がスター・ニュースのインタビューに応じたときの様子だ。雑談程度で中身のあるものではないのだが。
Prakash Singh Badal’s daughter in law, Akali Dal’s candidate from Bhatinda, talks to Star News (Youtube)
彼女はシロマニー・アカリ・ダルの党首で、パンジャーブ州副首相のスクビール・スィン・バーダルの妻。義父は同党の前党首で現在パンジャーブ州首相を務めるプラカーシュ・スィン・バーダルだ。現在43歳の彼女自身は、名門の名でとりあえず議席を確保するために担ぎ出されたまったくの素人である。
ところでインドでの議会といえば、連邦議会ならびに州議会において議員数の三分の一を女性に対して留保しようという憲法改定案が話題になっている。かなり紛糾しつつも、3月9日に連邦議会上院を通過し、今後同下院、続いて各州議会へと送られて審議されていくことになる。
この法案について喧々諤々の議論がなされていることについては、女性の社会参画拡大と地位向上という美しい建前とは裏腹に、現在までのところ議員数の9割前後を男性が占めている現状(ちなみに連邦下院では、目下女性議員数は11%)自体が障害である。
また、定数の決まった枠組みの中で有能な人物であっても男性であるがゆえに女性への留保がネックとなり政界での機会を失いかねないこと、果たして留保という形で女性の割合を大幅に増やすことがもたらす効用というものがあるのか、という疑問もある。
特に後者については、女性議員数が従前の3倍ほどに膨れ上がることから、果たしてどういう人物がその部分を占めることになるのだろうか。少なくとも、この制度が導入された直後の選挙では、経験と実績のある女性人材が乏しい中で、各政党は有力政治家の身内や芸能関係のセレブといった社会的に知名度の高い女性候補を乱立させての議席の奪い合いが展開されるはずだ。
その結果、ハルスィムラト・カウル・バーダル氏と似たような立場の人たちが、まさに『時代の申し子』として、続々と政界入りすることとなり、当面は既存の政治エリートたちの一門の足元を固めることにしかならなかったり、あるいは盛りを過ぎたセレブ女性たちの政界進出への垣根を低くすることにしかならないような気がする。
見方を変えれば、特に地位向上を必要としない、従前から『財と力のある』女性たちがこぞって政界に出てくることでもあろう。それはそれで政界に変化を生むはずだが。ひとくちに女性といっても、本来ならば社会のどの部分を構成する層に焦点を当てるかという具体性が必要になってくるはずだ。
この法案について、Nadwat-ul-Ulemaの指導者が、反イスラーム的であると批判するいっぽう、All India Association of Imamsのように、これを女性の地位向上の好機と捉えるイスラーム団体もある。
また、Jamaat-e-Islami Hindが、女性留保枠そのものには好意的ながらも、相対的に不利な状況に置かれているムスリムに対する措置がないことについて批判しているのも無理からぬところだ。
指定カースト(SCs)、指定部族(STs)に対する留保と同様に、同じく社会底辺の広範な部分を構成する自分たちのコミュニティへ同様の措置を長らく求めてきたムスリムの視点からすると、その要求を飛び越えて女性枠が導入される雲行きであることについては、不満が残ることは心情的に理解できる。
ところで、この『女性枠』というアイデアについては、唐突に出てきたものでは決してなく、かなり前からそういう議論はあった。もっとローカルな自治制度パンチャーヤトでは1993年以降、三分の一の女性留保枠が導入されており、こちらはその留保枠を50%に引き上げようという方向にある。
今回の女性枠に関する一連の動きには非常に興味深いものがあり、今後ともその成り行きを見守っていきたい。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です


上の計算式の答えを入力してください