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  • 携帯電話SIM 「J&K州 only」

    携帯電話SIM 「J&K州 only」

    インドのどの州で携帯電話のSIMを入手しても、基本的にはこれを全国で利用することができる。SIMを購入した州外で使うと「ローミング」扱いとなり、通話料は若干高くなったり、同じ携帯電話会社でもキャンペーン内容も少し異なったりするものの、通話もスマートフォンの場合でのインターネットも問題なく用いることができる。多くの機種では、これを介して自前のパソコンをネット接続するテザリングも利用できるはずだ。また、大半の州で3G回線での接続となっているため、あまりストレスなくネットの利用ができる。インドでは3G環境下でSkypeの通話を利用できるのもありがたく、料金を気にすることなく国際通話ができる

    プリペイドのプランのユーザーが非常に多いこと、携帯のハンドセットの中古市場もさることながら、新品でも手頃なアンドロイドのスマートフォンが出回っており、micromaxなどのものでは、5千ルピー台くらいからあるので、スマートフォンによって得られる利便性、加えてSIMフリーでインド国外の第三国でも利用できることなどからも、決して悪い投資ではないだろう。外国語版アンドロイドを日本語化する方法は、ウェブでいろいろと公開されており、ごく簡単に日本語でのメールのやりとりも可能となる。

    携帯電話会社はいろいろあるが、SIM購入の容易さやネットワークの広さなどを考え合わせて、airtelあるいはvodafoneを選択しておけば間違いないだろう。SIMそのものの代金は100ルピーもしないし、現在のインドの携帯電話の国内通話料金は世界最安レベルである。たとえ旅行中であっても自前の携帯電話回線があると何かと便利だ。

    インド中、どこに行っても、そこに電波が届いている限り、全国縦横無尽に活用できるインドの携帯電話のプリペイドSIMだが、ひとつ例外的な地域がある。J&K州だ。同じく政情に不安があったり、国境地帯であったりもするナガランド、ミゾラムその他の北東州では問題なくとも、J&K州だけは「別格」で、基本的に他州で購入したプリペイドSIMは利用できず、反対にJ&K州で入手したSIMも州外では用いることができない。もちろん通話だけではなく、インターネット接続も同様だ。

    一度購入すると、SIMがその後他人の手に渡ってもわからないプリペイド(ときおり携帯電話会社から利用者の本人確認の問い合わせ電話がかかってくることはあるが・・・)の場合と違い、継続的に毎月利用者が料金を支払い続けるポストペイドのプランの場合は大丈夫なのだが。

    J&K州では、州外で購入したプリペイドSIMができないとなると、同州で購入すれば済む話ではあるものの、他州の場合と異なり、この州に居住している必要があるとされるのが厄介だ。ラダック地方でのサービスを実施している携帯電話会社は3社しかない。国営のBSNL、民間会社のaircelとairtelである。前者ふたつは地域内での居住者であるという条件に厳格でダメだったのだが、airtelは、州内在住者が保証人となる(選挙民登録証または運転免許証の写しが必要)ことにより、非居住者でもSIMの購入が可能と言われた。とはいえ、一介の訪問者に過ぎない私が地元の保証人を用意しろというのは無理な話だ。

    ただし、かようにしてガードが甘そうなので「滞在期間が限られているのだから」ということでお願いしてみると、案外簡単に「いいでしょう!」との回答を得ることができた。写真は5枚も必要であった(通常、他の州では1枚のみ必要)が、SIMを購入することが出来た。ただし、購入してからすぐに利用できる他州と異なり、SIMを手にしたものの、「アクティヴェートできるのは明後日の午後4時以降から」とのことで、携帯電話が開通するまでに2日間の時間を要することになった。これは地元の人が購入しても同じことらしい。

    2日後、所定の操作により、アクティヴェートを完了。通話は問題なく利用できるようになったのだが、ネット接続がうまくいかなかったが、ハンドセットの問題ではなく、地元の通信事情が原因であった。まだ2Gでのサービスしか行なわれていないことに加えて、回線そのものの容量がとても小さいため、人口が少ないこの地域では利用者の数も知れたものだが、それでも日中はほとんどパンク状態にあるらしい。日中は電気の供給がなく、午後7時から午後11時までしか電気が来ないという事情も、携帯のネット環境への負荷が大きくなることのひとつの要因ではないかとも思う。

    通話は大丈夫だが、インターネットの利用ができないため、てっきり私のギャラクシータブの設定がおかしいのではないかと思ったくらいだ。日中はエラー表示が出ることが少なくなかったが、深夜近くや明け方に操作してみると、速度はかなり遅いものの、メール等のチェックをすることはできた。

    ただし、通話やネット利用できる圏内は広くない。レー周辺やある程度大きな町があるエリアでは利用できるものの、それ以外ではダメなようだ。ラダック地域で最もカバーしているエリアが広いのは、国営のBSNLらしい。地域内各地を行き来する運転手たちの多くが利用しているからだ。vodafoneその他、サービスを展開してみても、さほど旨みがあるとは思えないこの地域への進出を尻込みしている民間の携帯電話会社も少なくない中、行政の見地からこうしたインフラを提供できるのは、やはり政府系の会社ということになるのだろう。

    蛇足ながら、宿泊先での会話の中で知ったのだが、airtelのプリペイドの通話分のバランスについて、他のairtelのプリペイドユーザーとの間でシェアできるサービスがあることを知った。5Rsから始まり, 10Rs, 20Rs, 30Rsまでの間の任意の金額で相手に譲ったり、反対に貰い受けたりすることができる。

    わずかな手数料分は差し引かれるものの、付近にバランスをチャージできる店がなかったり、緊急の場合などで役に立つのはもちろんのこと、J&K州で購入したSIM(J&K州の外では使用できない)の通話分のバランスを使い残してしまったりする場合、デリーその他で購入したairtelのSIMのほうに移行する(州外のSIMにバランスの移行することは可能なようだ)ことができる。また、インドから出国する場合も同様に、未使用のバランスを他のユーザーにあげてしまうこともできることができる(あるいは出国する人から譲ってもらうこともできる)ことは、覚えておいて損はないだろう。

  • ラダックのレーへ

    ラダックのレーへ

    早朝の便でデリーを発ってラダックに向かう。以前も2回ほど飛行機で入ったことがあるが、海抜3,500mあるため、高いところに弱い人にとっては着いてからしばらくはかなりキツかったりする。中途陸路で少しずつ高度を上げて行けば問題ないのだろうが、私にはそんな時間はないので、どうしても飛行機でということになる。

    DIAMOXという薬については、当初半信半疑であった。多くは緑内障で処方される医薬品であるというではないか。これを服用することにより、毛細血管の流れがよくなるため、眼圧を下げる効果があるからだという。

    同様に、呼吸器や脳についても、血の巡りがよくなるため、むくみが生じにくくなることから、軽度の高山病に対する予防が期待できるのだという。高地に入る24時間前から12時間ごとに1錠服用するということになっている。高地に入ってからも同様に12時間ごとの服用を3日間続ければ、その間に高度順応が出来てしまうという話を医師から聞いた。更に高いところに行く場合、例えば500m以上高いところに行く場合も同様に、24時間前から開始して、12時間ごとに1錠という、このルーティーンをさらに繰り返せば良いとのこと。

    窓の下に広がる壮大な雪山の景色を目にしながら飛行機は大きく旋回してレーの空港に着陸した。機外に出て深呼吸すると、心なしか空気が薄いような気がする。たぶんしばらくすると例の頭痛がやってくるのだろうなぁ、と思いながら宿に向かう。

    簡単な朝食を摂り、荷物を部屋に置いてから町に出る。レーの王宮を見物してからそのすぐ上にある寺院を目指す。さほどの斜面ではないにもかかわらず、ひどく息切れがすることから、やはり空気が薄いことを実感する。

    ハァハァ言いながら歩き回り、夕方になってから宿に戻る。併設している食堂でビールを飲んでいるオランダ人男性がおり、ついつい私も「ビール一本!」と注文してしまいそうになるが、やめておく。前回、といってもずいぶん昔のことだが、着いたその日に酒で乾杯した後、丸二日間続くひどい「二日酔い」になった記憶があるからだ。

    果たして、DIAMOXの効果は想像以上に素晴らしかった。高所に弱い私だが、坂道で息切れする以外は、翌日になっても、翌々日になってもどうもない。

    この薬は、日本では処方してくれるクリニックはごく限られているし、保険外診療とのことで、金銭的にもかなり高くつく。だが嬉しいことに、インドにおいては、例えばデリーなどではごく普通の薬局でも購入することができ、しかも10錠で72Rsと非常にお手頃である。

    海抜3,500m程度いっても侮るなかれ。稀ながらも、この標高でも高山病になり、重症化する人だっている。そうでなくとも、しばらく頭痛がしたり、気分が悪かったりという人は決して少なくない。とりわけ低地から直接飛行機で入る場合など、なおさらのことだ。空路を利用する場合、私のように往々にして時間に余裕がない人が多いこともあり、着いてすぐから「普通でいられる」ことは実にありがたい。

    これからラダックに向かわれる方、DIAMOXはオススメである。副作用といえば、トイレが少々近くなることくらいか。(ゆえにむくみ止めの効果があるわけで・・・)

    緑内障を患っている方など、長年大量に服用されているケースもあることから、この薬自体が身体に何か悪く作用することもないだろう。

  • 慈悲深き父トラ

    インドで飛行機に搭乗した際の機内誌で興味深い記事をみかけた。

    ラージャスターンのランタンボール国立公園で、オスのトラが子育てにいそしんでいるのだとか。

    オスのトラの縄張りの範囲は極めて広く、その中に複数のメスのトラがそれぞれの境界を定めているとされるらしい。

    だが子上の父親が自らの子供たちの面倒を見ることはないどころか、幼いトラが母親以外の大人のトラと出会うこと自体が、即ち生命の危険に晒されることを意味する。

    もちろん彼らにとって厄介なのは、自らの父親を含めた成長したトラたちだけではなく、ヒョウ他の大型のネコ科の動物たちやハイエナ等の肉食獣も同様だ。トラとはいえ、子供たちにしてみると、生態系のはるか上位にある。

    そんな幼いトラを残して母親が脚のケガが元で死亡してしまった。もはや自分たちを守ってくれる存在を失ったことを悟った子トラたちは、荒野をさまようことになった。

    当初、国立公園の担当官たちは、彼らの行く末を案じて、国内のどこかの動物園に送ることを検討していたという。他の肉食獣による脅威はもとより、まだ獲物を捕らえる術も知らない彼らが自然界で生き抜くことはできないことをよく知っているからだ。

    子トラたちの姿を探しての大捜索が始まってまもなく、二匹の子トラたちが大柄なオスのトラと一緒に歩いているのが見つかり、絶体絶命の危機と関係者の背筋が凍りついたらしい。

    だがこのオスのトラ、幼子たちを攻撃することなどなく、彼らを保護している様子に非常に驚かされたということだ。本来ならば、トラという動物の習性からしてあり得ないことらしい。

    そのオスは、常に子供たちを帯同して野原を歩き、狩りのやりかたなども学ばせているとのこと。子トラがうっかり他のトラの縄張りに迷い込んで襲われそうになったときなど、どこからともなく救世主のように現れて子供たちを守っているというから大したものだ。

    「おそらく実の父では?」という憶測もあるようだが、真偽については誰もよくわからない。通常は、遺伝子上の父親であっても、自らのエリアに入ってきた自らの子を攻撃することはあっても、これを保護するといったことが観察されたのは世界初の例だという。

    目下、父親(?)の庇護のもとで、すくすくと成長している子トラたちだが、関係者はこのオスのトラに全幅の信頼を置いているわけではないともいうのも、頷ける話である。

    ネットで検索してみると、詳細ではないものの、このトラに関わる幾つかの記事が出てきたので、そのうちのひとつを以下のとおり記しておく。

    Tiger dad: A roaring success (The Times of India)

  • 東京ジャーミイ

    東京ジャーミイ

    1938年に完成し、老朽化のため1986年に解体された代々木モスクを前身とする、現在の東京ジャーミィが落成したのは2000年のことだ。代々木モスクに先駆けて、1935年に出来た神戸ムスリムモスクと並び、日本で最も伝統あるモスクのひとつということになる。

    神戸ムスリムモスクは、建立時から神戸在住ないしは商用等で出入りしていたインド系ムスリムの人々との関わりが深かったのに対して、代々木モスクのほうはトルコとの繋がりが強かった。これを引き継いだ東京ジャーミイのウェブサイトが日本語・英語・トルコ語の三言語による構成となっていることからもわかるとおり、現在もその様相は変わらない。

    それもそのはず、建立時の一部の寄付を除けば、外国政府の影響を受けていない神戸ムスリムモスクと異なり、こちらは在日トルコ大使館の管轄下にある施設である。ゆえにトルコ文化センターとしての機能も兼ねており、観光その他の資料等も配布されている。

    その他、首都圏では東武伊勢崎線沿いに点在する簡素な礼拝所、加えて小田急線沿線にもいくつかあるそうした施設には、南アジアと縁が深いタブリーギー・ジャマアト関係のものが多いこととも対照的だ。

    日本国内で、東京・神戸以外の地域に目を向けてみると、名古屋にある「名古屋モスク」愛媛県の「新居浜マスジド」、福岡の「福岡マスジド」といったあたりが広く知られているが、やはり資金力の関係から視覚面でのアピール度といえば、小ぶりながらも壮麗なオスマン様式の建物で観る者の眼を楽しませてくれる東京ジャーミイの右に出るものは今までのところない。

    首都圏ご在住で、まだ訪れてみたことがないという方は、ぜひ足を運んでいただきたいと思うが、遠方にお住まいでそういう機会はないという方も、東京ジャーミイのウェブサイトで公開されているパノラマ画像を楽しむことができる。

    蛇足ながら、先に挙げたいくつかのモスクのように日本国外からやってきたムスリムならびに日本国内のイスラーム改宗者のための礼拝施設、修養の場とは異なり、日本社会そのものを対象とするイスラーム文化の広報活動の最も活発な一例としては、サウジアラビア王国大使館付属の文化機関で、東京都港区元麻布にあるアラブ イスラーム学院が挙げられる。リヤドにある国立イマーム・ムハンマド・イブン・サウード大学の東京分校という位置付けになっている。豊富な資金を背景に、こうした機関を通じて、日本人に対するアラビア語その他の教育に加えて、出版・啓蒙活動を展開している。

    日本は、イスラームという宗教やその文化背景と縁が薄いため、一般の人々の関心がなかなか向かない反面、歴史の中でこうしたコミュニティとの衝突や軋轢をまったく経験したことがない土壌。警戒心も反感もないという点は、こうした活動を行なう側にとっても私たちにとっても幸いなことかもしれない。

  • ジープ島

    インドと全く関係のない話題で恐縮なのだが、ミクロネシア連邦トラック環礁のジープ島という場所が気になっている。

    サンゴ礁のラグーンの上にポツンと存在する直径34m、外周110mというとても小さな島だが、人が定住(リゾートなのでスタッフが常駐)している島の中では最小の部類に入ることだろう。

    四方を海原に囲まれて、水平線から昇る太陽も、同じく海の向こうに沈む夕陽も眺めることができるという稀有なロケーション。

    海上のちっぽけな孤島であるため、陸地の生態系との関係はないようで、南海のビーチながらも蚊がいないという。

    島のオーナーは日本人であるとのこと。船で40分ほどのところにあるトラック本島にあるホテルBLRという宿泊施設もこの方の経営だそうだ。

    海に潜って大いに楽しみ、そして小さな陸地で地球の大きさを感じながら、昼寝をしながらのんびり過ごしてみたい。

    ぜひ、いつか訪れてみたいものだ。

    ジープ島紹介ビデオ (ジープ島)

  • ラダックの旅行案内書

    ラダックの旅行案内書

    インドのガイドブックといえば、日本の出版社から出ているものはもとより、欧米やインド国内で出ているものまで、また国全体を包括する内容から特定の地域について取り上げられているものまでいろいろある。 そうした中で、今年6月にこんな旅行案内書が発行されている。

    書名:ラダック ザンスカール トラベルガイド

    著者:山本高樹

    発行:ダイヤモンド・ビッグ社

    ISBN:978-4-478-04267-0

    地球の歩き方のGEM STONEシリーズの中の一冊である。私自身は、取り上げられている地域や場所が少ないため、地球の歩き方というガイドブックはほとんど利用したことがないのだが、ラダックとザンスカールに特化したこの本は、ラダック取材をライフワークという著述家であり写真家でもある著者の手によるものだけに、内容が充実している。

    文章だけでは表現できないものが多々あるのはどこの国や地域でも同様だが、とりわけラダック地方においては、乾燥した高地であることによる空の青みの鮮やかさや透明感を含めて、そこを訪れてみないと想像できない部分が多い。

    美しい写真がふんだんに用いられたこの案内書は、眺めているだけでもワクワクしてくる。140ページ強というスペースの中に占められる画像が多い分、テキストの分量は制限されてくるにもかかわらず、丁寧に各地の見どころの紹介がなされている。

    この地域を訪れることを予定されている方に、ぜひお勧めしたい一冊だ。

  • 携帯電話 若者たちにプライバシー革命

    あまり昔のことと較べても仕方ないのだが、インドの街中でデートする若者たちの姿が増えた・・・と思うのは、ライフスタイルや価値観の変化という外的な要因、洒落たカフェ、モール、シネコンその他のインフラ面の充実といったものもあるが、そうした変化と歩調を合わせるようにして普及した携帯電話を各自が持っているという内的な要因が大きく作用しているはずだ。

    昔、インドでは地方から出てきている学生や就職したばかりの者が自前の電話を持つということはまず無理だった(費用はともかく、固定電話回線を得るのはとても時間がかかるものだった)ため、近所の電話屋に出向いて自分から相手にかけるのみで、向こうからの連絡を受けることはできないという一方通行状態。双方が実家から通学・通勤している場合には双方向で連絡を取り合うことができるものの、ともに家族の反応を気にしながらということもあったし、非常識な時間にかけるわけにはいかないし、ともに在宅しているときのみ可能な通信手段であった。

    個々が専用に所持する携帯電話が普及してからというもの、どこの誰からかかってきているのか、父母等に知られることなく、心置きなく会話することができるし、すでに相手の家人が寝静まっている時間帯でも、こっそり通話することができる。あるいはSMS等を送信しあったり。

    もちろんインドに限ったことではなく、日本その他どこの国でもこうした自由を今ではごく当たり前のものとして、青春時代の若者たちが享受している。私が高校生や大学生くらいの頃には、まだそうしたものはなかったので、付き合っていたガールフレンドに電話する際には、いささかの緊張感があったものである。とりわけ電話口に出たのが相手の父親であった場合にはなおさらのことだった。

    当時のインドでは、若い男女がデートしている場面といえば、広い公園の木陰のような人目に付かないところというのが典型(今でも田舎ではそんな感じだが)であったが、今のインドの都会では、若い男女が出かける先には事欠かなくなっている。携帯電話という自前の通信手段があれば、家族に知られることなく都合のつく時間帯や場所を決めて落ち合うのはとても簡単になった。若者たちの日常生活において、それこそ「プライバシー革命」とでも表現すべき出来事となる。

    そんな時代なので、恋愛や結婚といったものに対する考え方について、それ以前の時代に育った親世代とはかなり齟齬が生じているのかもしれない。親の監視下にあるのが当然の状態で青春期を送った人たちと、それを回避できるのが当たり前の時代に成長した人たちとの違いだ。

    親しい間柄にある人で、最近結婚に失敗してしまった人がいる。結婚自体は双方の両親のアレンジによるもので、当初はうまくいっているものとばかり思っていたのだが、実はそうではなかった。相手の女性は、結婚前から親しかった人物との関係が続いており、それが破局の原因となってしまった。もちろんそういうケースは従前もしばしばあり得たものだが、携帯電話やSNS等といった通信手段により、よほど遠く離れた場所に嫁いでしまわない限りは、そうした婚外恋愛(extra marital affairs)、不倫といったものが容易になることは言うまでもない。

    それはともかく、恋愛観、結婚観といったものについて、「ケータイ時代以降」に青春期を過ごした世代と、それ以前の親世代との間での不協和音は続くことかと思うが、今の若者たちが親となる時代には、そのあたりの事情は大きく変わっているのではなかろうか。中年世代に差し掛かった「かつての若者たち」が『最近の若い奴らは・・・』などと愚痴っていたりすることもあるのだろうが。

  • Kasab: The Face of 26/11

    Kasab: The Face of 26/11

    Kasab : The face of 26/11

    パーキスターンのパンジャーブ州出身のアジマル・カサーブといえば、同国の悪名高き過激派組織ラシュカレ・トイバにより、2008年11月28日にムンバイーで発生した大規模なテロ事件の実行犯の中で警察に拘束された唯一のメンバーとして知られている。

    彼の生い立ち、過激派との接触と組織への加入、武闘訓練、ムンバイーへの潜入、彼が担ったムンバイーCST駅での銃乱射とそれに続く附近の病院での銃撃、市内での逃走と逮捕、警察による尋問と裁判の過程等々がつぶさに描写されたノンフィクション作品が、この『Kasab: The Face of 26/11』と題する一冊である。著者はムンバイーを拠点に活動するインド人ジャーナリスト、ロメル・ロドリゲス。

    ファリドコートという村で生まれ、10代で家を出てからラーホールでケータリング・サービスの職場で働いて自活する、どこにでもいる普通の少年であったカサーブだが、単調な日々に飽き足らず、知り合った仲間たちと「もっと割のいい仕事を」と窃盗を繰り返すようになっていった。

    反社会的な生活に浸かったカサーブは、やがて武器に興味を抱くようになり、銃器類の訓練を受けられるからという理由で過激派組織と接触するようになっていく。そうした反抗期の只中にあるような年代を巧みに扱うことに長けた組織の中で、各種のトレーニングを積んだテロリストとして養成されていく。カサーブ本人は、まさに自分の居場所を見つけたと認識していたのだろう。

    訓練地から訓練地への移動の間、あるいは休暇で帰省する際などに逃亡して姿を消すメンバーも少なくなかったようだ。それでもカサーブは脱落することなく組織の命令に従っていった。

    やがて組織は、他の選抜されたメンバーとともに、カサーブをスィンド州に送り、洋上での訓練とともに『ミッション』遂行のための最終訓練を施して、海路ムンバイーへと送り出し、中途でハイジャックしたインドの漁船、クベール号でムンバイーへの上陸を果たす。

    犯行グループのリーダーであったイスマイルとともにタクシーでムンバイーCST駅に乗りつけるまでの間、彼は車内に時限爆弾を仕掛ける。「釣りは要らない」と手渡された大きな額面の紙幣に喜んだ運転手は、駅の駐車場から発車して市内を走行する間に車体が爆破して帰らぬ人となる。

    タージマハル・ホテル、オベロイホテル、ユダヤ教関係施設のナリーマン・ハウスに乗りつけた他の犯行メンバーたちも、利用したタクシーに同様の手口で爆弾を仕掛けて、事件の「同時多発性」を高めることにより、警察の対応の攪乱を図っていたようだ。

    カサーブとイスマイルの犯行目標となったムンバイーCST駅や近隣の病院にしても、この事件における他の実行犯の攻撃目標となった高級ホテル等にしても、現場で誰彼構わず銃弾の雨を降らせて多大な死傷者を出す残忍極まりないものであった。

    この作品では、カサーブの家族や交友関係、パーキスターンの過激派組織内の人間模様、彼らの犯行の犠牲となった市民や彼らと果敢に対峙して殉職したインドの治安組織の職員等々の人々の生活背景にも踏み込み、誰もが忘れもしない『26 Nov.』とそこに至るまでの道のりの多角的な検証がなされている。

    こうした大規模なテロ事件の実行犯が生け捕りにされること自体が異例であったが、まさにそれがゆえに明らかになった部分もまた多い。

    あまりに大きな事件を引き起こした犯人たちのひとりであるカサーブに同情の余地はまったくないが、裁かれるべきは過激派組織のツールのひとつに過ぎないカサーブ自身だけではなく、その目的のために彼とその仲間たちを訓練し、犯行を逐一指導してきた黒幕の面々でもあるのだが、そこにはインドの司法は及ばない。

    こうした集団の存在を許し、排除どころか規制すらできないパーキスターン政府の機能不全ぶりには、怒りとともに限りない恐怖感を抱かずにはいられない。隣国にそうした行政・統治がある限り、インド側の市民が隣国に信頼を置くことはあり得ず、インドの情報機関もまた、こうした集団の所在や訓練地などについて精度の高い確信を抱きつつも、自国の権限が及ばないところにあるだけに、手出しが出来ないことをもどかしく思うのも無理はない。

    分離独立以来続くカシミール問題はともかく、パーキスターンにテロの実行集団を抱える過激派組織があり、これらの活動を同国の政府が野放しにしている限り、印パ間での善隣外交などあり得るはずもない。

     

    書名:Kasab: The Face of 26/11

    著者:Rommel Rodrigues

    出版社:Penguin Books

    発行年:2010年

    ISBN-10: 0143415476

    ISBN-13: 978-0143415473

     

  • ANA 成田・デリー、成田・ヤンゴン就航

    10月28日(日)から成田・デリー便(毎日)、それに先駆けて10月15日(月)から成田・ヤンゴン便(月・水・土)が就航する。どちらも直行便だ。

    デリーもヤンゴンも、かつては成田からANAがフライトを飛ばしていたのだが、採算が取れずに撤退した過去があり、再度就航ということになる。

    前者はともかく、後者については現在ブームのミャンマーだけに、目先の利益はともかく「この機を逃すな!」といった具合に、将来性を見越しての先行投資ということになるだろう。

    近年、非常にモダンなターミナルビルが完成したものの、規模は小さく滑走路も大型機の発着には長さが不足と思われるヤンゴンの国際空港だけに、現在の「ブーム」が今後も続くとすれば、遠からずパンクする事態になるかもしれない。

    もっとも、政治的に先行きが不透明な要素が多い国であるだけに、「ブームが続く」ということこそが肝心であることは言うまでもない。

  • Namaste Bollywood #33とJ-one 第3号

    Namaste Bollywood #33とJ-one 第3号

    今回で第33号となるNamaste Bollywood。特集記事『ボリウッドのBはビューティーの』と題して、ミスコン出身女優たちが取り上げられている。

    さすがに美の大国だけあり、神々しいまでに麗しい女優たちが多いボリウッドの世界だが、その中でミス・ワールド、ミス・ユニヴァースといったトップレベルのミスコンでの受冠経験を持つ女優は多い。

    だがミスコンの肩書は、映画界入りの際の看板にはなるものの、ただ美しいだけで成功できるわけではない。演技者しての高い技量、内面的からにじみ出る魅力、そしてカリスマ性といった要素に加えて、苛烈な競争の映画界で巧みに生き抜く「営業力」や「政治力(のようなもの)」を備えてこそ、スターとして輝くことができるのだ。

    嬉しいニュースも掲載されている。Ra. Oneの日本公開のお知らせだ。ボリウッド好きの人たち以外の間での関心度は今のところ無に等しいかもしれないが、公開が始まってから口コミその他で注目度が急上昇しそうな気がする。夏休みの映画の最大の目玉のひとつとなるのではないかと予想している。

    今号の「ボリウッド千夜一夜」は怪談仕立て。内容についてここで触れるわけにはいかないが、ぜひとも本誌を手に取って楽しんでいただきたい。

    社会問題をテーマにしたANTAR DWANDのDVDについても触れられている。TIRAKITAにてレンタル・サービスが行われているとのことで、こちらもぜひ利用したい。

    Namaste Bollywoodと同じくスタジオ・サードアイによるJ-one第3号もすでに発行されている。「ライフワーク企画 福島と生きる」「相馬高校放送局 今伝えたいこと」「劣化ウラン弾と内部被曝」等々、見出しを眺めただけでも中身の濃い内容が目白押しであることがうかがえるだろう。

    大飯原発の再稼働をめぐる政府のスタンスを見ていると、あたかも福島第一原発の事故後しばらく続いた「脱原発」の方向にあるかのように見えた一連の対応は、あくまでも世論を宥めるためのパフォーマンスに過ぎなかったのかと、忸怩たる思いを抱かずにはいられない。世界を震撼させる大事故であったにもかかわらず、そこから有益な教訓を得て変革を図ることなく、旧態に戻そうとするこんな政府に、この国の将来を託してよいのだろうか。

    変化を求める民心を惹きつけて政権交代を実現させた民主党だが、肝心の民意は彼らに届かない。党の迷走ぶりと合わせて、今から思えば、あれは一体何のための総選挙だったのかと思う。

  • IRCTC (再アップデート)

    またインド国鉄時刻表改定の時期の7月となった。先月末の時点で、同鉄道のウェブサイトにアップロードされているTrains At A GlanceのPDF版は、2012年7月以降(2013年6月末まで)の内容に改められた。

    ひところ、インド国鉄のウェブ予約を扱うIRCTCのサイトでは、インド国外発行のクレジットカードによる支払いができず不便であったが、cleartripという助け舟的な旅行予約サイトの存在があることは、1年半ほど前にIRCTC (アップデート)と題して取り上げてみた。

    だがしばらく前から、事前にIRCTCのサイトで手続きして、インドで入手した携帯電話に送信される認証パスワードを入力しないと購入できなくなっている。厄介なのは、インドの携帯電話でないとこれを受け取ることができないため、もともとそうしたものを所持していないとか、持っているけれどもインド国外にいるという場合だ。

    そうしたケースの場合は、IRCTCにその旨の電子メールを送れば、メール宛に認証パスワードを送信してくれることになっているのだが、パスポートの写しを送信しなくてはならないし、返信が来るまで1日か2日程度かかるので、「ああ面倒!」と思う人も少なくないだろう。

    そのあたりについては、『インド鉄道利用法:予約から乗車まで』というウェブサイトに詳しく書かれているのでご参照願いたい。

    予約内容をプリントアウトすることなく、携帯電話やiPad等に送信された予約内容をそのまチケットとして利用できるという措置が取られるようになっている一方で、予約手続き自体は利便性の向上と逆行しているのがもどかしいところだ。

    目的は、クレジットカードの不正利用、そして乗客に対するセキュリティ対策の一環といったところに尽きるのだが、運用されるシステム自体はいかにも「お役所的」である。つまり何か対策が取られるべき問題があるとして、それに対していかに効果的に実施するかという方向ではなく、「これを実行しました!」「こういう対策を取りました!」といった具合に、場当たり的な『私たち、仕事してます』というアリバイ作りに終始しているように思われる。

    クレジットカードの不正使用はともかく、仮に犯罪をもくろむ人物が狙いをつけた列車のチケットを入手しようとするならば、駅の窓口や旅行代理店などいくらでもある。ちょうど、鉄道駅のセキュリティ対策と同じようなものだ。

    大きな主要駅のエントランスから入場する乗客たちに大げさなセキュリティチェックを施していても、実は沿道からプラットフォーム脇に入ることができるようになっていたり、駅構内にテナントとして入っている食堂等を経由したりすれば、保安要員の検査を受けることなくプラットフォームに入ることができてしまうことが往々にしてある。また中途駅ではそのような措置さえないところが少なくない。

    ペーパーレスのチケットが有効となっているならば、いっそのことIRCTCがAppleのiPhone / iPad用あるいはGoogleのアンドロイドの予約用アプリケーションでも開発して、それらを経由して予約・支払いができるようにでもしてくれたら、販売側も管理は楽になるだろうし、利用者側ともによほど助かるのだが。

    今のところ、IRCTC用のそうしたスマートフォンやタブレットPCからアクセスできるIRCTCのモバイル用サイトを除けば、アプリケーション自体でインド国鉄のスケジュールや路線のチェック、PNRステイタスの確認等が出来るものはいくつか存在しているのだが、直接予約をできるようにはなっていない。

    今後の進展に期待したいところだ。

     

  • ヴィラート・アンコール・ワット・ラーム

    だいぶ前のことだが、こんな報道があった。

    India starts Angkor Wat replica in Bihar (BBC NEWS INDIA)

    ビハール州のヴァイシャリー地区のハジプル近くに、カンボジアのアンコール・ワットのレプリカが建造されるというプロジェクトだ。

    10年がかりで完成されるというその建物は、アンコール・ワットを模したヒンドゥー寺院であり、カンボジアにある本物は元々シヴァ神の寺院として建立されたものが後に仏教寺院へと変遷していったのに対して、こちらはラーマ神を祀る寺となるとのことだ。その名もヴィラート・アンコール・ワット・ラーム。

    費用2千万米ドル相当の資金を注いで建築、本家アンコール・ワットを凌ぎ、世界最大規模のヒンドゥー寺院が出来上がるとされている。もちろんビハール州の建設現場における最大級の投資額ともなることだろう。

    だが気になるのは、その費用の出処。民間の資金によるものとのことだが、その大半はビハール州外からのものと見るのが妥当だろう。

    80年代末から90年代前半にかけて、ラーマの生誕地であったとされるところに立地していたムガル朝時代に建てられたバーブリー・マスジッドの存在とラーマ寺院の再建運動(結局、再建運動にかかわる活動家たちにより1992年に破壊されるが、その後寺院建立には至らず)により、コミュナル暴動の嵐が吹き荒れた隣州のウッタル・プラデーシュとは対照的に、政治面では宗教色が薄かったビハールに地殻変動をもたらそうという動きが水面下にあるように思われる。

    1990年代から今世紀に入るあたりまで、上げ潮の勢いがあったサフラン勢力の伸びが頭打ちになって久しいが、人口1億人を超える人口稠密なビハール州は、政治的にも治安面でも安定しているとは言い難い。

    それでも近年はインドという国自体の経済成長に引っ張られるように、あるいは長らく停滞と混乱をもたらしたラールー・プラサード・ヤーダヴ氏率いるRJD (Rashtriya Janata Dal)の時代とは打って変わり、2005年からJanata Dal党首のニティーシュ・クマールが州首相を務めて実績を上げている効果もあってか、他州を凌ぐ成長率が伝えられているビハール州だ。

    ヴィラート・アンコール・ワット・ラームの建立の背後に、新たな政治勢力の台頭の影がチラついているように感じるが、完成までの10年の歳月の間に、その姿が次第に明らかになってくるのではないだろうか。