この日はトレッキング最後の行程となる。
朝7時に朝食。ここに宿泊の人たちが一堂に集まることになるので壮観だ。当然全員は入りきれないため、時間ずらせて来る人たちも少なくない。ローティー、バターとジャム、チャーイ、ブラックティー以外にポリッジもあり、これがなかなか好評。
簡単に朝食を済ませてから早々に出発。もし天気が悪かったら、ニマリンでの宿泊者たち全員まとまって行こうということを、各グループのガイドたちの間で相談していたそうだが、晴れ間も見えているまずまずの天気なので、その必要はなさそうだ。よって各自バラバラに出発していく。
キャンプ場の手前にある川の橋を越えてから上へ上へと斜面を登る。雲で朝日は見えないが、少し登ったあたりから残雪がところどころ見られる。あるいは昨日降った雨はここでは雪だったのかもしれない。最初の登りはけっこう急だが、しばらく登ると少し緩やかになる。そしてコンマル・ラへの最後の斜面はかなり勾配だ。
あとひとガンバリで峠頂上というあたりまで来ると回りは雪だらけになる。今日はカンヤツェも頂上まで顔を出してくれている。天候としてはまずまずである。昨夜の雨がウソのようだ。このあたりはすでに海抜5,200メートル近いので。歩みが遅くなり息が上がる。さりとて苦しいとか大変というほどではないのだが。さきほどの斜面でフランス人の還暦夫婦を追い越したのだが、しばらく峠で写真などを撮影していると、やがて彼らもここにやってきた。
峠よりも低い周囲の山々からはまるで湯気が立ち上っているかのように雲がかかっている。峠の部分から東側には尾根が伸びていて、その部分はここよりも高くなっており、雪で覆われている。今日のハイライトであり、またこのトレッキングのハイライトでもあるコンマル・ラである。しばらく景色を楽しむ。
タシはここから携帯で電話をしている。ここまでの村では通じなかったし、昨夜のキャンプ地でも繋がらなかったそうだが、この峠にくると電波が届くらしい。レーに戻るためのクルマの迎えのために連絡している。
コンマル・ラからのカンヤツェ方面の景色も素晴らしく、心が洗われるようであった。
しばらく写真を撮ったりして過ごしてから、下りに入るが、かなり急な坂を進んでいくことになる。反対側からやってくるトレッカーたちがある。彼らはすべてがマールカーの全行程を行くのかどうかはわからないのだが、おそらくそうなのだろう。私たちが来たルートのほうが少しずつ高度を上げていくことになる分、体力的に楽なはずだ。また、コンマル・ラとニマリンあたりがこのルートのハイライトでもあるため、最初ににここを訪れてしまうと、後が少々退屈なものとなってしまうかもしれない。
あとはどんどん下るだけと思っていたが、実はこの最後の行程はあまり楽ではなかった。けっこう深い谷間になっている部分も多く、そうしたところでは流れの速い急流を渡渉しなければならないからである。それが連日の雨で増水しているため、膝よりも深かったりする。
後でレーに戻ってから再会したイギリス人とフィリピン人でキャンプ用品持参でトレックに来ていたカップルによると、彼らはもっと遅い時間帯に通過したようで、腰までの深さのところがあったり、フィリピン人女性のほうは、急流の中で転んでしまったりと、かなり大変だったようだ。
私自身もかなり緊張感を伴うものであった。またその渡渉の回数もこれまでで一番多かった。やっと渡ったと思ったら、またすぐに渡らなくてはならなかったりする。どんどん高度が下がるにつれて、川は周囲の湧き水を加えて大きく、深くなってくるため、さらに厄介になってくる。
シャン・スムドのあたりまで出た。このあたりは車道が通っているところに近くなるためか、家屋はこれまでよりも立派できれいな感じになる。クルマが入ってくることができるエリアになった。川の左右には広い川床が広がっている。さきほどのような両側を狭い谷に挟まれた中に流れる急流ではなくなるため、渡渉も楽になる。
迎えに来たクルマに乗り込み、一路インダス河沿いの地域に出る。ここまで来るとると、まるですっかり低地に来たかのような気分。またずいぶん景色が開けたところという印象にもなる。これまで歩いて通過したのは、こじんまりした集落ばかりであったので、レーの町など素敵な都会に見えてしまう。
タシはレーの町の下の端にあたるガソリンスタンドとロータリーがあるエリアで下車。
これまでの6日間、どんなガイドと過ごすかによって、トレッキングの印象が異なってくるものだが、タシは実に好青年でよく気が付く人でもあり本当に良かった。心から感謝である。
〈完〉