アフガニスタン、アンゴラ、カンボジアなど内戦が続いた地域では、各地に残された地雷によって多数の市民が負傷しており、そのありさまは日本でもしばしば報道されているが、インドでも同様の問題が起きていることがインディア・トゥデイ誌(12月6日号)に報じられていた。
最近の印パ関係は比較的良好なものとなっているが、2001年末以降しばらくの間は一触即発の緊張状態が続いていた。
きっかけとなったのは同年12月にデリーで起きた国会議事堂襲撃テロだ。国家中枢が狙われるという未曾有の大事件を受け、急遽展開した軍事警戒行動「オペレーション・パラークラム」の一環として、ジャンムー&カシミール州、パンジャーブ州、ラージャスターン州にかけての国境地帯におよそ100万個もの地雷が敷設された。
その結果、2002年1月から2004年3月の間にこの地域に住む一般市民は、死者58名、負傷者310名という犠牲を払うことになった。現在もまだ地雷は除去されたわけではない。今後も悲劇はさらに続くことであろう。
地雷は、軍人・一般市民の区別なく殺傷するとともに、敷設後長きにわたり人々の生活や往来を著しく阻害する危険な装置だ。一般的に地雷の製造コストは一個あたり3ドルからと言われるほど非常に安価だ。しかも敷設後に人員を配置することなく敵の行動を制限できる。そのため紛争地帯では実に手軽な兵器として使用されているのが現状だ。
たとえ地雷が戦略上必要なものであったとしても、国際政治や両国の対立となんら関係もない庶民が、たまたま国境地帯に住んでいるがうえに負わされるリスクはあまりに大きすぎる。
死亡者については25万ルピー、障害が残った者に対しては10万から15万ルピーの補償金が中央政府から支出されている他には、被害者へのリハビリテーションあるいは年金の支出といった対策は講じられていないというから、インドという国に対する地域住民の人心は離れていくのではないだろうか。
今後急いでそれらを取り除く作業を進めていかなくてはならないはずだが、地雷の除去には製造コストのおよそ50倍の費用がかかるだけではなく、探知機と作業に熟練したスタッフをしても、5000個除去するごとにその中から1人の死者と2人の負傷者が出ると言われるほどのリスクがともなう大事業だ。
1997年、対人地雷の使用・貯蔵・生産・移転の禁止とその廃棄を目的として、国連の「対人地雷禁止条約(オタワ条約)」http://peace.s9.xrea.com/2/mine/otawa.htmが成立したが、国連安全保障理事会の常任理事国5カ国のうち、米国、ロシア、中国の3カ国が条約に加入していない。これらの国々は地雷を大量に流通させている張本人でもある。
インドも戦略上地雷が必要であると判断しているためこの条約に署名していない。締結を拒否しているのは隣国のパキスタンも同様であることから、おそらく国境反対側でも同じ悲劇が起きているに違いない。
ところで前述の記事中で気になったことがある。地雷の犠牲者たちの写真が掲載されているのだが、わざわざ義足を外して身体の切断面をカメラに向けていたり、爆発により失われた両眼を隠すサングラスをわざわざ外して脇に置いてあったりすることだ。
ショッキングな画像には、地雷の悲惨さについてより強くアピールする効果があることは否定しないが、敢えて体に受けた障害を強調するような演出をしなくても・・・と思ってしまう。インドのメディアを見ていると、ストーカーによって顔の硫酸をかけられて無残な状態になった女性の風貌、レイプ被害者の顔写真がそのまま掲載されてしまうことが珍しくないなど、被害者の人権への配慮が見当たらないのは問題だ。
話はそれたが、印パ衝突の危機が去った今も、本来自分たち国民を守る義務を負う自国軍隊が残したとんでもない置き土産によって、紛争とは関係のない一般市民が犠牲になるとは何ともやりきれない話である。
対人地雷禁止条約(オタワ条約)締約国一覧(外務省)