ラージコート 2

朝6時過ぎに近くのモスクからアザーンの呼びかけが流れてくる。今日は7時まで寝ているつもりであったので、「起きるものか」と頑張ってみるが、数秒の間を置いて他のモスクからも流れてくる。互いに反響するみたいにワンワンと鳴るので、やはり目覚めてしまう。

しばしば思うのだが、この礼拝の呼びかけについて、スピーカーで電気的に拡声した声を流すというのはいつごろから始まり、どのようにして各国に広まっていったのだろうか。その過程でその是非について宗教者たちの間で議論などはあったのだろうか。

朝7時ごろ、部屋に朝食を頼む。移動する日には時間の節約のため朝の食事は抜いている。こうしてゆっくり食べると気持ちに余裕が出来ていいものだ。

オートでGO!

ガーンディーが15歳のときまで暮らしていたという彼の父親の旧家へ。ここの藩王国の宰相であったという割には意外に簡素な家である。あまり大きくもない。建物内ではガーンディーや独立運動にまつわる様々な写真を中心とした展示がなされている。

その後、Watson Museumに行く。1880年代のイギリス人行政官のコレクションが元になっている博物館である。彼が集めたサウラーシュトラ地域の文物以外に、自然科学関係の展示もあった。だが内容としては田舎博物館という感じで、あまり見応えがあるものではない。

しばし徒歩で市街地の古い建物を見物する。この街を前回訪れたのはもう20数年も前のことになる。当時は快適そうなテラスや手の込んだ飾り窓などが付いた伝統的なたたずまいの建物がたくさんあり、テキスタイルを中心とする商業活動は盛んながらもひなびた雰囲気があったと記憶している。だが今はずいぶん様変わりしているようだ。レンガにコンクリートや漆喰、そしてペンキで塗られた四角い建物に置き換わっている。それこそ、インドネシアでもアフリカでも、つまり世界中どこにでもある普遍的な景色になっているといえる。地域性の希薄な建物だ。

当時、かくしゃくとしたご隠居さんであった人たちの多くはすでにこの世を去り、元気に働いていたおじさん、おばさんたちは隠居し、あのころオギャアー、オギャーと盛大に泣いていた赤ちゃんたちがバリバリとよく働く商売人、でっぷりと貫禄のあるお母さんになっていたりするのだ。それほど長い時間が経過しているのである。もはやふた昔半くらい、つまり四半世紀くらい過ぎているのだから。

だがそんな中にも古い街並みは少し残っていた。傾斜屋根の瓦、二階に突き出た出窓やテラスであったり、面白い意匠の飾り窓であったりする。なかなかいい感じだ。ただし、多くは残念なコンディションにあり、ところどころ崩れていたりもする。しばらく立ち話をした地元の人によると、2001年のカッチの大地震のとき、ラージコートでも相当な被害が出て、そうした古い家屋におけるダメージも相当あったとのこと。

古くからの伝統的なスタイルの家屋は、街や地方の個性を無言のうちに主張していたものだが、そうしたものはどんどん消滅している。遅かれ早かれ、これらは街中から消滅してしまうことだろう。こうした様式で新しく今風の建材で作ってもいい感じなのではないかと思うが、そうしたものはだ見ていない。

シンガポールやマレーシアのように、行政が主導して保存に取り組むことがなければ、こうしたものはすぐに消えてなくなってしまうであろうことは間違いない。街並み保存については、そうした措置を講じるほどの社会的な余裕があるかどうか、人々が今もそれらに愛着を抱いているか、保存にメリットを感じるかどうかによるのだろう。

その後、サーリーを機織りしている工房へ。ここでは糸からすべて手作りで生産している。婚礼シーズンで使われるという絹のサーリーを製作中であった。糸は最初から染めてあり、その色の間隔できちんとデザインを組み上げていくという職人技の世界。オートの運転手に携帯で話をさせて場所確認して行ったのだが、普通の住宅地に見えるところなので、ここを通過しただけだったら、まさかここがそれらの工房が寄り集まっている場所であるとは気がつかないことだろう。

通り過ぎただけでは機織職人たちのエリアとは判らないだろう。

おそらくこれらの品物の単価が高いからであろうが、どの家もかなり立派だ。作業場はそれなりに散らかっているものの、外から家を見ると、ロワー・ミドルクラスやそれよりも少し上くらいのクラスの家に見える。かなり経済的にうまくいっているコミュニティであることが見て取れる。

機織を見学してからしばらく徒歩で街中を散策してみる。途中、路上でハルモニウムを修理している人がいた。知的な風貌の人で、彼の名前のブランドでハルモニウムを製作しており、その顧客から依頼された修理をしているという。彼自身の作製したハルモニウムだというのだが、本当だろうか?

〈完〉

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