スワデーシーな航空会社

格安航空会社の先発組にして代表格の航空会社エア・デカン。近ごろはマナーリー、ダラムサラ、シムラーといったヒマーチャル・プラデーシュの街にも路線を広げている。
ヒマーラヤの南斜面の山岳地および丘陵地からなる州であるがゆえに、地図上では大した距離がなくとも山道に入ってからが実に長いのだ。
従来から飛んでいたジャグソン・エアラインスインディアンなどに加えてデリーからの本数が増えるとともに、これらよりも低い料金設定がなされている。時間もお金も余りなくとも、比較的訪れやすくなったといえるだろう。
ただ問題は州内各地に散在するメジャーどころの観光地を結ぶフライトは、小回りの利く小型機を飛ばす先述のジャグソン・エアラインスを除いて存在しないので、陸路を使えばちょっとした移動でいとも簡単に10時間以上かかってしまうことだ。
エア・デカンが最近就航させたデリー・レー間のフライトも魅力的だ。これからしばらくラダックは他の地域よりもかなり短い観光シーズンを迎える。避暑地としての魅力はもちろんのこと、荒涼とした大きな眺めや日没後大空に広がる満天の星に感激するのもいいだろう。
また『耳がツーンとするほど静か』な土地というのもそうそうないのではないかと思う。人があまり住んでいない野山であっても、虫に鳥や獣たちが暮していれば特に朝夕は鳴き声などでそれなりに騒々しいものだ。ラダックでは生き物がほとんど住まない月面のようになっている地域も多く、ただ聞こえてくるのは自分の靴音だけだったりする。立ち止まるとあまりに大きな静けさに包みこまれて、自分自身の存在も無になってしまったような感じがする。


そんなことをあれこれ思いながら『さてどこに行こうかな?』と思案するのも楽しい。航空会社のウェブサイトを開き、地図を広げてしばらく考えた末『よし、ここにしよう』と決めた先はレーではないのだが、ともあれ出発地をクリック、フライトを選択・・・・。
必要事項を記入していき、最後にクレジットカードの情報を入力して確定ボタンを押す。処理中の画面をしばらく眺めながらコーヒーを啜っていると、やがて表示されたのはエラーメッセージ。入力情報の間違いがある・・・のだそうだ。その後幾度か繰り返してみたがどうしてもここから前に進めない。
個人情報等の入力ページの下方をよくよく見ると、『インド国内発行のクレジットカードのみご利用いただけます』とある。国際クレジットカード(インド国外発行)の不正防止のための手立てなのだという。
どうも腑に落ちないので、同社のコールセンターに電話してみた。空港に設置された発券オフィス以外では基本的にネット販売であるが、問い合わせの電話は24時間受け付けている点についてはなかなか便利だと思う。電話に出た係の男性の対応も良かった。
だが肝心のインド国外発行のクレジットカードについては『将来的にどうなるかわかりませんけれども、現状ではまったく対応いたしておりません』とのことであった。
当日にでも空席があれば空港で現金で支払ってもいいのだが、前もってちゃんと予定が立てられないと困る。
外国のクレジットカードについて具体的にどういう問題があるのかという説明はなかったが、少なくとも国外から訪れようというお客は視野に入っていないことはよくわかった。ついでながら同サイトの支払者の住所記入欄について、居住国のところにカーソルを合わせるとズラズラッと表示される国々の中から選択することになっている。
インド以外にアメリカ大陸、欧州、オセアニア、中東といった地域の国々の名前がたくさん出てくるのだが『JAPAN』はもちろん、『KOREA』といった東アジアの国が見当たらない・・・というよりも、インドより東の国の名前がひとつも見当たらないのだ。『CHINA』から『BANGLADESH』まで、途中にある『TAIWAN』『SINGAPORE』『THAILAND』などといった国々とともに欠落している。その反面『SIERRA LEONE』『ETHIOPIA』など、インドにあって著しくマイナーな国名はきっちり入っている。誰だ!こんなサイトをデザインしたのは!と憤っても仕方ないが、同社にしてみてもこの奇妙な造りについては申し開きできないだろう。
それでもよくよく考えてみれば、2003年8月に所有わずか一機にして日に4本のフライトから始まったこの航空会社、その後4年にも満たない現在すでに43機の飛行機で国内65か所、日々350便も飛ばすまでになっているのだから大したものだ。
『Simply Fly』をモットーに『Empower Every Indian to Fly』という目標を掲げて、それまでコスト高だったインドの空の旅に徹底したコスト削減による価格攻勢を仕掛けてきた。
ターゲットをほぼインド人のみに絞るのにもそれなりの戦略があるのかもしれない。いつまで居住・滞在しているのか、あるいは今度いつやってくるのかもわからないような外国人よりも、今後ずっと繰り返し利用してくれる自国の人々に対するサービスを優先するのは当然のことでもあるだろう。
ターゲットとなる顧客層は既存の航空会社の利用者のみならず、路線拡大により新たに獲得すべきは鉄道(ACクラス)乗客でもある。またエア・デカンもまた後発の格安系航空会社に追われる存在でもあるが、目下言うまでもなく新興の格安系会社としては最大規模を誇るのがエア・デカンで、なかなか魅力的なルートと価格である。
私は『そろそろ仲間に入れてよ!』と言いたい。
※『ヤンゴンのインドなエリア』の続編は後日掲載します。

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