近ごろのテロ事件、テロ未遂事件に思う

 イギリスで摘発されたアメリカ行き旅客機同時多発爆破テロ未遂事件発覚後、ロンドンからの飛行機乗客たちが手荷物の機内持ち込みを禁止され、パスポートとわずかな身の回り品のみが入った透明なビニール袋を手にしているニュース映像を見て思った。『ついにここまできたのか』と。
 犯行に使われようとしたのが液体の爆発物であったことからあらゆる液体類が機内持ち込み禁止となった。ペットボトルに入った飲料類からはじまり、子供の飲み薬やコンタクトレンズの洗浄液もダメ。ガラス瓶にはいった香水や酒類も当然持ち込めないことになってしまうためバカンスシーズンの向こうも、お盆の出国ラッシュの日本でもまた空港の免税店にとっては大打撃となっているようだ.
 また起爆装置に転用可能とされる携帯電話やモバイルPCなども持ち込み禁止となったという。ビジネスマンたちはとても困るだろう。それにパソコンのような精密機械を機内預け荷物というのは非常に不安でもあるだろう。こういう状態が続くようならば、今後世界を股にかけて行き来する人たちの間では、床に放り出しても壊れないようなタフなノートパソコンが求められるようになるのだろうか。
 それにしても飛行機にほとんど手ぶらで搭乗しなくてはならない時代がやってこようとは、かつて誰が想像しただろうか。それでも今後まだまだアッと驚くような仕掛けで攻撃を企てる者が出てくることだろう。上着の中に爆発物を仕込むという事件が起きてジャケット類の機内持ち込みが禁止となったり、カツラの中に危険物を隠し持つ輩が出てきて長髪の乗客は厳重にチェックされるようになったりということもあり得ないことではないだろう。
 今回の事件について空港のセキュリティ担当者の関与も取り沙汰されているようだ。テロリストたちはこうした保安関係者たちに加えて整備士、あるいは大胆にも客室乗務員や操縦士たちといった部分にも浸透を図るのかもしれない。
 また容疑者グループのメンバーたちの所属するコミュニティや人種に偏りがあるため。今後は一見して風貌や容姿が違うとともにこうした事件に関わった前例のない国籍・人種の人々の取り込みに力を入れるということも考えられるだろうか。
 このところ空の旅への不安は高まるいっぽうだが、同時にムスリムというコミュニティ、ムスリムである個人、ムスリム人口の多い国への漠然としたあるいはあからさまな偏見や敵対感情などが高まっている様子。
 このところ反ムスリム勢力による『Not all muslims are terrorists, but all terrorists are muslims』とのメッセージが現実感と説得力を持って非ムスリム人々の心に響くようになってしまっている現状はとても心配だ。不信と憎悪とそれへの反発と対立。それらは過激分子のさらなる先鋭化へとつながるのだろう。
 来る8月15日はインドの独立記念日。当局により例年厳しい警戒が敷かれるのがこの時期だが今年はいっそう厳重なものとなりそうだ。アメリカは在デリーの同国大使館を通じ、インドの独立記念日前後にデリーとムンバイーでのテロが計画されているとして警戒を呼びかけているからだ。これがただの杞憂に終わるといいのだが。
 しかしこの時期何も起きなかったからといってテロの脅威と縁が切れるわけではない。大事件が発生したり、危険が予測されたりしているようなときには警戒が厳しくなる。だがそうした体制を敷くのには手間ヒマも費用もかかるし、往々にして通常の市民生活を圧迫する部分もあるため恒久的に続けられるものではない。犯人側にとっては警備がゆるんだあたりが再び狙い目ということになる。
 また保安要員その他の数量的限界もある。ムンバイーで起きた郊外電車の連続爆破テロ直後にはデリーの鉄道駅ではものものしい警戒網が敷かれており、プラットフォームに立ち入る際には厳しいセキュリティチェックがなされていた。いかにも外国人然とした私自身もカバンも開けて中身を調べられた。列車内にも制服の警官その他(おそらく私服も)配置されており、一晩中車両間を行き来しては乗客の様子や乗降口の戸締まりなどを確認していた。またこうした保安要員が昔ながらの大ぶりなライフルではなく、小回りの利く拳銃を持っていたのは現実的な対応だと感じた。
 だが首都その他の主要都市を出る際にはそれなりの対策がなされていても、地方都市から首都行きの列車に乗り込む際にはそうしたことは一切なかったし、駅で警戒する要員さえも配備されていなかった。車両の中では武装した保安要員が目を光らせてはいたが。
 そんなわけで悪意を持った人物にとって地方発の上り列車で首都が近づいたあたりで何かしでかすのは簡単なことなのかもしれない。いずれにしても大時代的なおおらかな造りのインドの駅舎には日々数え切れないほど様々な人々が出入りしている。こうした環境で空港並みのセキュリティを実現できるはずはない。インド国鉄側のせめてもの対応として所持する切符と本人のIDを照合できなければ乗車できないなどという日が来るのかもしれない。
 また空港のセキュリティといっても国によって様々だ。そうした国から自国へと向かうインド機を攻撃することを企てる連中もあるかもしれない。手荷物に関して厳しくなってきたとはいえ、相変わらずインド人乗客たちはかなり大きな荷物を抱えて機内へ入っていく傾向がある。チェックの甘い空港でそうした人々に紛れ込むのはそう難しいことではないように思う。なんとも嫌な時代になったものだ。

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