迫り来る中国の悪夢

最近のネパールの新聞のウェブサイトも『見せ方』や『読ませ方』をずいぶん研究しているようだ。Nepal Republic Media 社が発行している英字紙Republica、ネパール語紙のनागरिकともに通常のウェブ版以外に、実際に市中で販売されているものと同じ紙面をネットで閲覧できるようになっている。

ところで、11月29日付のRepublicaの第3面左上の囲み記事をご覧いただきたいと思う。あるいは通常のウェブ版でも同じ文面が掲載されているのでご参照いただきたい。

China eager to bring train service to Lumbini (Republica)

中国を訪問したシュレスタ副首相兼外務大臣が帰国時に立ち寄った香港でのインタビューの要旨とのことである。短い記事ながらも、中国による気前の良い援助攻勢により、ネパールがどんどん北京に引き寄せられている様子が窺える。

2年ほど前に『ネパールにも鉄道の時代がやってくるのか?』と題して、中国によるネパールへの鉄道建設のオファーについて取り上げたが、11月29日のRepublicaのこの記事の中で、ネパールと中国の両国が鉄道建設のための調査を開始することで合意に至ったことが明らかにされている。

ここで言うところの『鉄道』とは、2006年にラサまで開通している青蔵鉄道のことで、ネパール側はとりあえず首都のカトマンズまでの延伸を主張しているが、中国側はルンビニーまで延長することを目論んでいる。

もちろん建前としては中国が執心しているルンビニーの観光開発ということもあるはずだが、『世界の工場』たる中国にとっては、大量輸送の有効な手段である自前の鉄道を自国以外のアジアでもうひとつの巨大市場を目前にする場所まで引っ張ってくることにより『将来が大いに楽しみ』ということになる。

だがインドにとっては、自国産業の保護という観点よりも、むしろ自分たちの主権の及ばない隣国に、長年の敵国である中国が深く食い込んでいくことについて安全保障上のリスクが懸念されることはもちろんだ。こともあろうに自国との国境のすぐ向こうのルンビニーまで『中国の鉄道が乗り入れる』となれば、まさに悪夢以外の何物でもない。

これまでのどかだったインド・ネパール国境だが、中国の鉄道がルンビニーまで延伸されることになり、またネパールにおける中国のプレゼンスが今後さらに増していくことになれば、それそうおうの厳重な警戒が必要となってくる。当然、軍備面でもそうした措置が求められるようになる。

中国という狡猾で危険な国に、インドから見れば文字通り血を分けた兄弟であるネパールが取り込まれつつあることについては、親中国のマオイストたちが現在のネパール政界に強い影響力を持っていることもあるが、インドのほうにも責任がないわけではない。

ネパールが『腹黒そうだが今のところは気前が良くて面倒見も良い兄貴分』になびいてしまっている背景には、長年の付き合いの中で『横暴かつ財布のヒモが固くて冷淡な長兄』に愛想を尽かしてしまっているという部分も否定できない。ネパールに関して、いずれインドは高い代償を支払わなくてはならないだろう。

中国とインドの狭間で、現代のグレート・ゲームの舞台のような具合になっているネパールは、両国の間でうまく立ち回り、上手に利益を引き出していくことになるのか、それとも今後は前者に従属的な立場になっていくのだろうか。

長年、強い絆のあるパーキスターン以外の南アジアの国々に対して、近年様々な形での積極的に外交・援助を展開している中国。インドにとって安全保障上の大きな脅威である中国だが、それとは裏腹に中国にとってインドの存在はそれほどの重さを持つものではない。インドにとってかなり分が悪いことは言うまでもない。

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