虫屋台

久しぶりにバンコクのカオサン通りに来てみた。

特にここで何か用事があるわけではない。だが一時滞在の外国人という流動的かつ季節や時勢によって大きく増減するお客を相手に、これまた多くはこの場所において一時滞在的なタイ人その他の商売人たちが、様々な工夫を凝らした仕事をしているのを見物するのが楽しい。

もちろん昔からずっと同じ場所にて家族で商っている人たちもあるのだが、そうした人たちは少数派である。そもそもカオサン通りは1980年代以前までは米穀類の問屋街であり、目と鼻の先には王宮その他バンコクの観光名所が目白押しというロケーションに目を付けた現地女性が、外国人向けの民宿を始めたのがそもそもの始まりであったという。その後は次から次へと安宿、飲食店、旅行代理店その他の旅行者向けの商売をする人たちがこの通りを占めるようになった。

バンコクの繁華街どこでもそうだが、カオサンもとりわけ流行り廃りは早い。いつ訪れても雰囲気は同じようでも、お店はずいぶん入れ替わっていることに気がつく。視界を遮るものが多く、雑然としているためそうとは気付かなかったりするのだが、いつの間にかビルが丸ごと建て替わっていたりもする。

カオサンに高級な感じのリゾートホテルが出来ていた。泊まるならば、このホテル余りのバンコクではけっこういいところが安く出ていたりするので、市内のまともなところに宿泊したほうがいいと思うのだが。とりあえず何でも手近に揃うというメリットがあるので、利用する人は案外少なくないのかもしれない。

昨年の同時期に見かけたアップル製品の専門店は姿を消していた。iPhone, iPad, iPhone, そしてアップルのノートパソコン等が展示されていて、店内ににはそこそこ人が入っていたものの、やはりバックパッカーのゾーンにアップル製品は高価格過ぎたのだろうか。

カオサンでは昔からタトゥー屋はあったが、それらがずいぶん増えていることに改めて気付かされる。いろいろなデザインのサンプルを手にして、旅行者たちに手当たり次第に声をかける男たちがいる。それほどタトゥーが西洋人の若者たちの間で一般化しているということだろうか。もちろん日本人の間でもそうした傾向はあるのだが。

何の屋台かと思えば昆虫専門

食べ物や飲み物等の様々な屋台が出ているカオサン通りだが、夕方になると昆虫専門屋台も出ている。飼育用ではなくすべて食用で、すでに調理済みだ。タイでもイサーン(東北)地方ではもともと昆虫を食用とする例は多いが、もちろんここでは好奇心旺盛な外国人たちが顧客である。

イナゴ
タガメ、甲虫、何かの幼虫

タガメ、何かの幼虫、甲虫、イナゴなどいろいろあるが、すべて素揚げになっている。極め付きはサソリである。けっこう大きなサソリが他の虫と同じように揚げてあり、黒々テカテカと光っている。写真を撮りに寄ってくる人も多く注目度は抜群。

サソリの姿揚げ

見た目はグロテスクだが、調理しているのはタイ人なので、試してみると案外美味なのではないかと思う。だが私自身は、昆虫を口にすることに対してとても抵抗感があるのでやめておく。

いい商売になるかどうかはさておき、西洋人のバックパッカーたちの中で、これらをトライする人は少なくない。仲間や彼女の前で豪胆なところを見せてやろうといった気負った感じの若い男性が多いようだ。あるいは酔った勢いでといったところだろうか。もちろんこれらを「旨いから食べたい」という動機を持つ者はまずいないので、当然そういう具合になる。

サソリを食べて「醤油の味しかしないなあ」などと仲間に言う者、ビールを片手にイナゴをつまむ者・・・。だが1, 2回ほど齧ってみれば、それで満足してしまい、習慣的にこれら好んで食すリピーターはほぼ皆無だと思う。カオサン通り彼らの顧客はタイでの定住者ではなく一時滞在者なので、次から次へと新たにこの場所にやってくるため、商機は無尽蔵である。

ある意味『コロンブスの卵』のようなものかもしれない。こうした屋台が外国人たち相手に売れるはずがないと思うのがごく当たり前のところだ。だが近ごろは食に対してオープンな人たちが増えているのか、あるいは単に客層が好奇心に溢れる若い世代が大半であるためかもしれない。屋台のお兄さんは『案外売れているぞ』と手応えを感じているのではなかろうか。

かといってこれが大当たりすることもなさそうなので、お客が飽きてきたらさっさと違う品物を売り始めるに違いない。カオサン通りに出入りする商売人たちは、様々なアイデアと機知でいろいろ試行錯誤している。彼らのフットワークの軽さが面白い。

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