サッカーと軍政

 インドの東隣のミャンマーでは2009年からMNL (Myanmar National League)というプロサッカーリーグが発足した。同年5月から2か月間ほどに渡るカップ戦が展開され、今年3月からは10のクラブチームによる正式なリーグ戦が開始され、記念すべきMNLリーグ初代優勝チームはYadanarbon F.C.である。 

言うまでもなく旧英領であったこの国では、サッカーという競技の歴史は古い。かつてはアジアを代表する勢力であったこともあり、観るスポーツとしての人気も高かった。社会主義計画党時代のビルマでは、実業団チーム(といっても省庁や自治体が構成するチーム)のリーグがあり、私自身も『税関vsヤンゴン市役所』(であったと記憶しているが・・・)の試合をアウンサン・スタジアムで観戦したことがある。 

その後90年代に入ると、いわゆるクラブチームがいくつも結成されるようになり、ヤンゴン市にはプロチームさえ存在していたものの、全国的なプロリーグというものはなかった。 

いまや地域の他の国々の多くにプロサッカーリーグがある昨今、経済的に非常に厳しい状況にあるミャンマーにもそうしたものができるのは時代の流れなのだろうと思っていたが、その裏には軍政による大きな後押しがあったことを示唆するニュースがあった。

昨日、ジュリアン・アサンジュ氏がイギリスで逮捕されたことが各メディアで伝えられていたが、彼が創設したウィキリークスから流された在ヤンゴンのアメリカ大使館発の公電に関するBBCの報道がそれである。

मैन यू ख़रीदने पर हुआ था बर्मा में विचार (BBC Hindi) 

上記記事によれば、2009年1月以前に当時の軍政の議長タン・シュエ氏が10億ドルを投じて、イングランドのプレミア・リーグのマンチェスター・ユナイテッドを買収としようと画策していたということだ。 

サッカーによって政治・経済に対する国民の不満のガス抜きをしようという目的、タン・シュエ氏自身が同チームのファンであり、彼の孫もチームの買収を強く希望していたという個人的な動機があったとのことだが、近年有望視されている領海内のガス田からの収入等を背景に、それほどの金額を出資することが可能であったという点はちょっと驚きである。 

しかしその前年2008年5月にミャンマーを襲ったサイクロン『ナルギス』の被害からの復興の遅れ、加えて外国からの援助を断り、被災地の人々に対する痛手をさらに大きなものにしていると国際的に非難を浴びていた時期でもあったことから、これを断念したということ。そのため自国内にプロリーグをスタートさせることを決心したということが書かれていたそうだ。 

だからといって2009年初頭にマンチェスター・ユナイテッドの買収を諦める代わりに4か月ほどでプロリーグを始動させるというのは無理があるため、もともとそういう方向で動いていたものを前倒しさせることになった、という具合なのではないかと思う。

確かにMNLがリーグとして正式に開幕したのは2010年だが、それに先立って2009年に2カ月間のカップ戦を行なうというのは中途半端で解せないものがあった。このあたりについて、やはり当時の軍政の意向が働いたのかもしれない。 

そもそもミャンマーにおいては、90年代以降は経済の様々な分野における民営化の進展著しいが、その中で軍関係者による関与はとても大きいようだ。 

当然MNLを構成するクラブチームについても、純粋に民間人による運営がなされているとは想像しにくいものがある。後に機会を設けてそれらの背景について調べてみようと思う。 

11月に実施された総選挙により『民主化された』という建前となっている同国の政治同様に、一皮剥けば経営陣に軍関係者たちがゾロゾロ・・・という具合であるかどうかはさておき、なかなか興味深いものがあるのではないかと想像している。

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