新型インフルエンザ 『行動計画原理主義』でいいのか?

ついにインドでも新型インフルエンザの患者が確認された。
First confirmed case of swine flu in India (THE TIMES OF INDIA)
エミレーツ航空のフライトにて、アメリカからドバイとデリー経由でハイデラーバードに到着した人物からウイルスが検出され、現在隔離されているということだ。
また日本では、5月17日昼ごろまでの時点にて、国内でヒトからヒトへ感染が認められたケースは21名となった。いずれも高校生であり、『なぜ高校生ばかり』という声もあったものの、その後成人(20代と40代にそれぞれ1名ずつ)の感染疑い例も出ており、確定すれば成人では始めての例となる。
国内感染計21人に 大阪で9人、兵庫で4人新たに確定 (asahi.com)
大人からも陽性反応 新型インフル、兵庫で新たな疑い例 (asahi.com)
新型インフルエンザ感染が確認された神戸では、今月15日から17日に開催される予定であった『第39回神戸まつり』や同17日に行なわれるはずであった『おまつりパレード』が急遽中止となり、スポーツの試合や大会も中止や延期され、映画館も休館するかもしれないという。また保育所や介護施設も一斉に休業するなど、大きな社会的影響が出ている。
今回の新型インフルエンザについて、日本では厚生労働省が医療専門家等の意見等をもとに定めた新型インフルエンザ対策行動計画をもとに、さまざまな対応がなされているところではあり、これを基に各省庁や各地方自治体での対策行動が進んでいくことになる。
しかしながら、この行動計画自体が、強い毒性を持ち、高い致死率を示すであろう鳥インフルエンザに対して策定されたものである。今のところ季節性インフルエンザ(新型インフルエンザに対するこうしう呼称は、ここ2週間ほどで社会にすっかり定着した)と変わらない症状で弱毒性である。
今後ウイルスが変化してより強い毒性を持つようになる可能性も否定できないとはいえ、メディア上にも医療関係者から疑問の声が多く上がっている。
毎年冬になるとインフルエンザの流行が報じられ、学校などで一定以上の感染者が発生すると、学級閉鎖その他の対策が取られるが、今回の一連の動きのような大きな騒動には発展することはない。
すでにアメリカでは、今回のインフルエンザの症例を見極めたうえで、過剰な反応をすることを取りやめて、季節性インフルエンザに対するものと同等の対応をすることになっていることはすでに広く報じられているとおり。
蛇足ながら、現在の季節性インフルエンザにしてみたところで、もともとは鳥類の病気であったものが、豚を介してヒトにも感染するようになったとされている。今回のインフルエンザは、確かに新型とはいうものの、前代未聞の特異な変化を起こして発生したというわけではない。
行政機構という、上意下達のシステムの中で、それを担当する各組織ないしは該当するスタッフ等は、上からの指示に黙って従い、職務を遂行するしかない。だが策定されている行動計画が、今回のインフルエンザに対する処置としては、かなり的外れであるようだという声が医療関係者からも多く出ている。
一度定めた行動計画の内容について、これを汲み上げて柔軟に対応する機能がなく、事前に定められた行動計画をひたすら墨守すべき根本原理であるかのように、ただこれを声高に叫ぶ政治家や官僚主導により、猪突猛進的に推し進められていく様子自体に大きな不安をおぼえる。
もちろん季節性のインフルエンザでも、毎年世界中で4万人前後の死者が出ているといわれており、社会や個人で気をつけるべきこと、心がけるべきことはたくさんある。
また従前より危惧されていた強い毒性を持つインフルエンザが新たに出現した際に、すでに策定されている対策が流行拡大に対してどの程度の効果があるものなのかを確認する危機管理訓練の機会であるということも否定できないが、社会に対する、また個々人の生活に及ぼす影響があまりに大きい。
行動計画という規定に基づき、これを機械的に推し進めるのではなく、現状を観察したうえで、それに応じて既定の行動計画に対して柔軟かつ適切な軌道修正を行なうこと、それを可能とするシステムを持つことこそが、今の行政に対して求められているはずだ。
当初の想定と異なる部分が出てきた場合、それに対していかに速やかに対応できるか、これが危機管理にキモであることは言うまでもないだろう。この部分がすっかり欠落していることが大変気がかりだ。不必要な部分や大幅に緩和するべきが出てくれば、そのように対応すべきだろう。反対に、より強化すべき部分が生じた場合には、そうした処置を講ずる必要があるにしても。
ともかく、新型インフルエンザについて、臨機応変に対応する能力を著しく欠く、はなはだ硬直した政府が策定した『行動計画』原理に基づく集団ヒステリーを、このままさらにエスカレートさせて良いものなのか、はなはだ疑問である。
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※本日夕方、大阪府の橋元知事が、今回の一連の動きについて『通常のインフルエンザの対応に切り替える必要があるのではないか』として、厚生労働大臣に見直しを要請したことを明らかにした。
橋下知事、「新型インフル対応」見直しを厚労相に要請 (asahi.com)
これを機に、いたずらに危機感を煽ったり、過剰に過ぎる対応を根本的に正して、現状に即した妥当な方向へ向かうことを期待したい。
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「新型インフルエンザ 『行動計画原理主義』でいいのか?」への1件のフィードバック

  1. 大阪府知事からのものに加えて、与党から厚生労働省へ『季節性インフルエンザと同じ対応で』という要請があったのが、本日5月18日昼ごろ。
    ようやく現実的な対応へと見直しが行なわれる見込みのようです。
    「軽症なら在宅療養に切り替えも」厚労相が対策緩和表明
    http://www.asahi.com/nation
    インフルエンザは大して怖くないものの、政府主導であまりに過剰にすぎる反応で大揺れすることのほうがよっぽど恐ろしかっただけに、今後毎年冬のインフルエンザ流行時並みのまともな対応となることを願います。

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