タバコにビックリ

口腔ガンの写真入り
『マールボロ・ライトを下さい』
代金を渡して手にしたパッケージにプリントされている鮮やかなカラー写真を目にしてギョッとする。ガリガリにやせ細った身体の男性。鼻や喉に管を差し込まれ、口元はプラスチック製のカバーに覆われた瀕死の状態の人物は、個人が特定できないように、目元だけには強いボカシが入っている。
バンコクの大通りの歩道脇の雑貨屋。店番の女性は、ヴィックス・インヘラーの類似品みたいなものを鼻に当ながら、クルマやバイクの忙しい往来をボンヤリ眺めている。本来は鼻づまり対策のものだが、強いメンソールの刺激で清涼感を得られるためか、この暑い国ではカゼを引いているわけでもないのに常用している人が多い。
『これ、ちょっと替えてもらえますか?』
タバコが身体に悪いのはわかっているし、今やたいていどこの国でも警告文が入っているが、いくらなんでもこれはあんまりだろう。
彼女が次に差し出してきたのは口腔ガンの患部の写真。これまた酷いものだが、さらにまた別のグロテスクな写真が出てくるのだろうから、このまま受け取っておく。
店先にぶら下がったタブロイド版の新聞のトップに、ユーモラスなワニの顔の大きなカラー写真が掲載されている。だが口にくわえているのは人間の手であることに気がついてギョッとする。肘のあたりで捻じ切られたようになっている。あまりに生々しくて怖ろしい。
バンコク・ポストなど英字紙では、こうした残酷写真の掲載については、比較的抑制が効いているようではあるが、タイ語の一般紙では事故や事件などの報道で、ちょっと信じられないような酷い写真を掲載しているし、そうした画像を集めた専門誌?も存在するようだ。
泰国義徳善堂や華僑報徳善堂のような、華僑を中心としたお寺の檀家集団による互助会が、盛んに救急活動をしていることは広く知られている。これら活動拠点では社会から広く資金を募っている。これまでの活動実績をアピールするため、交通事故や殺人事件など、思わず目をそむけたくなるどころか、即座に記憶から消し去りたくなるような凄惨なカラー写真が展示されているのを目にしたことがある方は多いだろう。
過激な写真がメディアその他に広く散在しているだけに、タバコの『タバコは害である』といった警告文とともにこうした画像が入ったところで、とりたてて驚くほどのことではないのかもしれない。あるいはこうしたパッケージを見慣れてしまうと、怖い写真も箱に描かれた模様の一部のように感じられてしまうのかもしれないが、これを初めて手にした私にはとてもショッキングであり、この箱を手にすると気が滅入る。
タイで、以前はこんな警告写真は見かけなかった。おそらく最近導入されたものなのだろう。現在、世界中の多くの国々でそうであるように、タイも喫煙者の数と非喫煙者の受動喫煙の機会を減らすよう長年努力してきている。パッケージに印刷されたどぎつい警告写真もその運動の一環であろう。
タイにおける受動喫煙防止と法体系
もともと南米でインディヘナの人々特有のものであった喫煙の習慣を欧州に持ち帰ったのは征服者であった欧州人たちであり、その後世界各地にタバコが広まっていったのはご存知のとおり。だが近年の嫌煙化の流れの中で、愛好家による嗜みから、野蛮な奇習という扱いになっていくのかもしれない。
私はだいぶ前に禁煙しており、普段はタバコを吸わない。だが酒を飲みに出かけたり、ちょっと旅行に行ったりする際のみ、その禁を解くことにしている。そのため完全な非喫煙者であるとはいえないのだが、このグロテスクな一箱でやめにしておこう・・・と思った次第である。
 

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