家路

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 就労機会とベターな賃金を求めて物乞い、家政婦、工場作業員、教員、経理士、IT技術者等々、実に様々な人々が外へと出て行く。まさにインドは出稼ぎ大国。
 しかし同時に周辺国から同じような動機で、インドに出てくる人たちもまた多いのは興味深い。バングラデシュからの不法移民は各地で社会問題になっているし、インドのどこにいってもネパール人のチョーキダールやサービス業に従事する労働者は多い。
「みんな大きな夢ばかり見ているんだ」
ヒマなオフシーズンのゴアの宿、キッチンで働くネパール人青年が言う。
「外国に行けば、大いに稼いでいい暮らしができると思っているからね」
 結局こうしてインドに来ている彼もそのひとりということになるのだが、ここで何年間も働いて過ごしてみて「現実が見えてきた」のだという。
 国外で働く人たちの多くが、エージェントを通じて出入国や仕事の斡旋を受けているとのことだが、
「だけど実際には1 Lakhしかかからなくても2 Lakh、3 Lakhと懐に入れるような連中だからね」
と彼。近隣地域から日本にモグリで働きに来ている人たちのことでもよく耳にするようなことである。
「こうして働いて故郷に送金してみたところで、国や仕事にもよるけどあんまり貯まらなかったりもするのさ。何年も何年も離れていると、地元との縁も薄くなってくる。留守の間にいろいろ事情が変わるしね。久しぶりに帰郷すれば、まるで外国人みたいになった自分の立場に気付くというわけだ。条件の良い仕事を探そうにもままならない。だから出稼ぎに出ているんだもの。何か自分で始めようにも元手が無いとどうにもならない。運よくまとまったお金があったとしても、ノウハウがなければ往々にして失敗するものさ。リッチな人は運が良かったんじゃなくて、お金の扱いかたをよく知っているものだからね。そうじゃない人は結局使うだけ。まあ、しばらくしたらそれまでと同じように出稼ぎの旅に出るっていうのは多いみたいだなぁ」
 すでにあまり若いとはいえない彼の遠い眼差しが見つめているのは「現実」や「故郷への想い」なのか、それとも「まだ見果てぬ夢」なのだろうか。
「何かを求めて」彷徨う若者は多い。それが自分にとって一体何なのか見つからないうちに青年期を終えてしまう人たちもまた多い。
 勇気を出して外に飛び出してみることより、「家路につく」ことのほうがよっぽど難しいことだってあるのかもしれない。

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