今年の雨は?

 インド気象庁は18年連続で「平年並み」のモンスーンを予報しているが、この長い年月に各地でひどい旱魃や大きな水害もあった。それでも多くの年では、広く全体でならしてみれば通常の雨量ではあったかもしれない。
 農作物については小麦の生産量の86%がウッタル・プラデーシュ、パンジャーブ、ハリヤナー、ラージャスターン、マディャ・プラデーシュに集中しているのを見てもわかるとおり、気候や風土が地域ごとに大きく違うこの国では、収穫されるあらゆる作物が各地でまんべんなく栽培されているわけではもちろんなく、作物ごとに産地が特定の地域に集中することが多いようだ。そのため局地的な雨量の多寡が人々の暮らしに不可欠な産物の流通に大きく影響することもありえる。
 現在インドでは熱波による死者が125名にのぼり、一説には200名を越えたともいわれているという。もっとも大きな被害を受けているのがオリッサ州で75名、そしてアーンドラ・プラデーシュ州では35名の死亡が確認されているそうだ。
 ところによっては気温が摂氏50度に達したところもあり、とりわけ体力の劣る子供や老人には非常にきつい季節である。また都市部にありながらも被害を確認しにくいのが路上生活者たちだろう。死者が出ても、それが果たして暑さによるものなのか、病気あるいは栄養失調によるものなのか判然としないことが多いに違いない。
 一般の市民たちの間でも似たようなことが言えるかと思う。庶民の間に広くエアコンが普及している社会ではないので、もともと具合の悪かった人が暑さのために急速に体力を失い容態が悪化することもあるだろうし、勤労者たちにあっては睡眠不足に加えて昼間の暑い最中での仕事で消耗することによる過労死も少なくないと想像される。この時期、人々を襲う不幸の中で、高い気温が引き金となっているものはかなり多いはず。
 昔、ラージャスターン州でモンスーンの訪れに遭遇したとき、それはまさに映画に出てくるシーンのようであった。酷暑の中で静まり返った午後、誰もが心の底から願っていた雨季が、地平線の彼方から巨大で分厚い雲のうねりとともにやってきたのだ。
 あたかも目の前に巨大な滝が出現したかのような激しい雨・・・というよりも天から注ぐ奔流を、人々は窓からあるいは軒先から満面の笑みで迎え、瞬く間に流れる川となった道路で子供たちは茶色い濁流の中で嬉々として遊んでいるのであった。
 私自身もその晩、潤った空気と低い気温のおかげで、久しぶりに食欲が沸き夕食で何を口にしてもおいしく感じられ、涼しく快適な夜はぐっすり眠ることができた。
 6月初めにはケララ州に到達したとされるモンスーンだが、今年の雨はどうなるのだろう。おそらく「平年並み」に悲喜こもごもあるのだろうと想像しているが、どうか良き雨季でありますように。

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