ドアの無い村

 今でも日本の田舎では「カギをかける習慣がない」というところは珍しくないが、インド北部U.P.州のアヨーディヤ近くにあるスィーマヒ・カリラート村では「家屋にドアを付ける習慣がない」というのだからビックリしてしまう。
 プライバシーを守るためにカーテンをかけるのみというのは、数百年前にこの土地にいた聖者が「家を建てる際、最初にいくつかのレンガを寺に寄進すること、そして住まいにドアを作らないこと」を人々に命じたのがはじまりだという。
 インドの家といえば、ありとあらゆる窓に鉄格子がはまっており、家の中でもあらゆるところにカギ、といったイメージを抱く人は多いだろう。75軒しかない小さな村とはいえ、U.P.州は隣のビハール州とともに犯罪多発地域だ。コソ泥だけではなく盗賊も出没するのだから、あまりに無防備すぎるのではないかという気がする。極貧のため守るべき財産もない状態にあり、結果として扉さえ必要としないことはありえるかもしれないが、地域の不文律として敢えて家屋を開け放しておくとは恐れ入る。
 
 だが信じられないことに百年あまり犯罪が起きていないというのだ。警察にも1906年以来事件の記録さえないという。聖者のご加護かあるいは盗むものさえ見当たらない寒村なのかよくわからないが、一切を放棄するかのような家屋のありかた、そして「ドアを作らない」というしきたりの裏にある生活哲学のようなものが、犯罪を未然に防いでいるのかもしれない。ともあれ「ドア無し村」の存在がニュースで取り上げられることにより、ヨソからやってくる犯罪者たちに狙われるようなことがなければ良いのだが。
 ドアの無い生活には興味を引かれるが、私にはどうにも真似ることはできないだろう。防犯上の理由だけではなく、U.P.の夏はクーラー無しでは耐えられないほど暑く冬の寒さもまた厳しいからだ。
 場所によっては理不尽にも思えるこんな哲学めいたしきたりが残るインド。機会があればこのスィーマヒ・カリラート村を訪れて、人々の話を聞いてみたいものだ。だがこんなところにいきなりヨソ者が訪れたら、非常に警戒されてしまうのだろう。泥棒が少ないところはたいていヨソ者の出入りも非常に少ないものであるから。 
Doorless village has no crime (BBC NEWS)

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