CHAI IN CHINA

 十数年前の話になるが、中国雲南省の瑞麗(ルイリー)という町を訪れたことがある。同省南西部、ミャンマー領にやや食い込んだ地形で、古くからここに住むタイ系の景頗族自治州の中心地だ。漢族は人口の半分にも満たないのだという。
 周囲を山岳地に囲まれ、他のさまざまな少数民族の出入りも多く、今ではすっかり有名な観光地になっている。しかし外国人の旅行にいろいろと制限が多かった当時、この町はようやく「開放」されたばかりであったと記憶している。
 国境貿易で栄えるこの町は、許可を得たミャンマー人の就労やビジネス等が認められており、なかなか国際的な土地柄でもある。
 タイやマレーシア製の生活雑貨や電化製品を中心に外国製品が氾濫し、路上では浅黒い肌の人たちがミャンマー特産のルビーだという触れ込みで怪しげな石を商い、夜になると国境の向こうからやってきた娼婦たちが出没するなどといった話を聞いた。地元の人たちに紛れてミャンマー側の町を訪れた(警察に捕まるとちょっと厄介なことになるが)という旅行者にも会った。
 何かと中国らしからぬ雰囲気に満ちているこの町ならでは、インド系の人たちが経営する店がかしこにあるともいう。ミャンマー、特にその都市部ではインド系人口が多いので、こういうところに出てくる人だって少なくないのだろう。ちょっと興味を引かれた。


 長距離バスに乗って到着してみると、それまで人づてに聞いていた話そのままであった。見上げれば、中国のどこにいても目にするような没個性にして無表情な安手のコンクリートビル(その類はインドでも多いが)の建造が進む様子が視界に飛び込んでくる。だが足元に目をやると路上には大ぶりだが安いミャンマー葉巻「シェルー」を並べて商うおばちゃんたちの姿、よく知らないエキゾチックな食べ物を売る屋台もある。
 人びとの会話には漢字と景頗語に加え、ミャンマー語も飛び交っていることは、繁華街に溢れる文字や人びとの顔立ちからしても明らかである。自転車に乗ってちょっと郊外へ足を伸ばせばミャンマー式のパゴダがあり、小乗仏教のお坊さんたちにも出会った。
 利用した宿の壁に貼られた巨大なポスターをよくよく眺めてみれば、漢字の字面から察するところによるとHIV感染へ厳重な注意を呼びかける内容であった。
 インド系の人びとは、ここで何をしているのかといえば、行商人から宝石商までさまざまである。
 バザールの一角、インド料理店らしき店を見つけ、入ってみるとやはりそうであった。経営者のムスリム男性は「パキスタン系ミャンマー人」を名乗るが、先祖は英領時代にU.P.州から移住したのだという。カレーはかなりミャンマー風に仕上がっていたが、インド料理には違いない。懐かしい味をありがたくいただいた。
 チャーイを注文してみると、やはりこちらも限りなくミャンマー式に近いものが出てきた。つまり甘いコンデンスミルクが底にベットリと沈んでいるものだ。
 お茶だけ飲みにくるインド系ミャンマー人も少なくないようで、それらしき男たちが入れかわり立ちかわり入ってくる。
 どこからかアーミル・カーンとジューヒー・チャウラー主演の映画「Qayamat se Qayamat tak」(1988年)のフィルムソングが大音響で流れてくる。中国にいながらインドな気分。ミスマッチ加減が面白い。 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です


上の計算式の答えを入力してください