警官隊との「エンカウンター」による大盗賊の最期というセンセーショナルなニュースが全インドを駆け巡った。彼の遺体は検死の後に公開され、左額に生々しい銃創を受けた顔写真が各メディアに掲載(インドは倫理基準が違うのでこれは仕方ない)された。時間の経過とともに今回の大捕り物の顛末が次第に明らかになってきている。
当局はここしばらくの間、ヴィーラッパンの潜伏地に近い村(町?)に土木作業員、食堂のお兄ちゃん、行商人、バスの車掌等々に扮したスパイを放ち動向を探っていたのだという。
ヴィーラッパンは体調を崩しており治療(喘息とも眼の疾患という説も)を必要としており、医療関係者にコンタクトをとっていた。しかし約束の場所に現れた救急車を運転するのは変装した警察官とは露知らず、たどりついたのは運命の「エンカウンター」の場所。気がつけばヴィーラッパンはすでに特捜隊に取り囲まれていた。
警察による投降の呼びかけにもかかわらず発砲してきたため、一斉射撃を受けて蜂の巣状態になった救急車の中で一味は絶命していた・・・という具合らしい。
ここでまず頭に浮かんだのは救急車の運転手に扮していた警官はどうなったのか?悪党ともども銃弾の犠牲になってしまったのだろうか?
Deccan Heraldの記事によれば、なんと彼は「銃弾の飛び交う下をかいくぐって脱出した」のだという。他紙には「最初からそういう具合に打ち合わせてあった」とも書かれていたが本当だろうか?
そのあたりはともかく、手の込んだ演出といい派手なエンディングといい、一昔前のインドの勧善懲悪アクション映画みたいだ。
警察の手柄が大きく取り上げられる一方、こうしたやりかたに対して一部非難の声も上がっている。人権擁護団体による抗議だけではない。これだけ綿密な計画を立てて、しかも予定どおりに物事が運んでいたのになぜ生け捕りにできなかったのかということだ。
彼がこれまでに起こしてきた重大事件の背後を明らかにすることは必要だが、これではまさに『死人に口無し』である。
これまで幾人ものジャーナリストたちがヴィーラッパンと会ってインタビューしているにもかかわらず、彼の居所をつきとめるのに警察はなぜこんなに時間がかかってしまったのかという疑問を持つ人たちは多いだろう。やはり噂どおり一部の政治家や警察幹部などの有力者たちとのコネクションがあったのだろうか。
そして過激派組織とのつながり、特にスリランカのLTTEとの関係も指摘されていたが実際のところどうだったのだろうか。
湧き上がる感情に後押しされた善が悪を叩き潰すというエンディングはいかにもシネマチックで庶民ウケしそうだが、ヴィーラッパンという悪党が不要あるいは邪魔に思うようになってきた黒幕が、彼をこの世から永遠に葬り去りたかったのではないか、という疑いを持つ人だって出てくるだろう。
そもそも華々しい「エンカウンター」というのだってちょっと怪しくないだろうか。当局は極秘に身柄を拘束しており、人気のないところに連行された丸腰の彼らに警官たちは容赦なく銃弾を撃ち込んだということだってあるかもしれない・・・と想像してしまうのは、ボリウッド映画の見過ぎだろうか?