遺跡の不条理(2)

●あんたがたどこさ?
 インド国内では、インド系外国籍の旅人もよく目にする。ヘアスタイルや服装から一見してそれとわかることもあるが、彼らが外国人料金を支払わされることは稀なのではないかと思う。インドの都会の若者だって近頃はずいぶんファッショナブルになり、外国帰りみたいな雰囲気を持つ者が少なくないから、しゃべらなければ区別しにくい。


 なんとか抜け道はないものか。ある時、わたしが何食わぬ顔で地元料金を差し出すと、窓口の男は疑わしげな眼差しで「あんたどこの人?」と尋ねてきた。ヒンディー語で「ナガランドから来た」と答えると、「ああ、そうか」とすんなり入場できた。それ以来、同じような手で外国人料金をスルーしてきたが、理由はなんにせよ身分を偽るというのは後味が悪い。身分証明書を要求され、「街に住む友人宅に置いてある」などと言い張れば良心がとがめる。そんなウソをついてしまうと、普通のインド人はまず持っていないようなデカイ一眼レフカメラを取り出して撮影することはできない。
 ある遺跡で、警備員やポリスたちに囲まれ、ボカスカ殴られている若い男たちを見たことがある。聞けば、チケットを人数分買わずに無理矢理入場したらしい。そんなことぐらいでリンチに!?私は肝を冷やした。外国人がウソついてインド人料金で入ったのがバレると、やはり殴られるのだろうか。あるいは「××××ルピー以下の罰金。あるいは×年以下の懲役。または両方」などという罰則があるのではないか。
 インド人であっても、東北のモンゴロイド系少数民族や、グジャラート州サウラーシュトラ地方の「スィッディー」と呼ばれるアフリカ系人びとのように、見た目からして外国人と間違えられそうな人たちがヨソの州に来た場合、「インド人である」証拠を要求されるのではないだろうか。国際結婚でインド国籍を得る人だっているし、その子どもたちは外国系の血が入ったインド人ということになる。
 元首相=故ラジヴ・ガーンディーと、イタリア生まれのソニア・ガーンディー(現・国民会議派総裁)の間に生まれた息子=ラフル・ガーンディー。彼はインド人と言うよりヨーロッパ的な風貌ゆえに、ウソか本当かこんなエピソードがある。
 以前、彼がムンバイ沖のエレファンタ島を訪れたときに、入場券売場で外国人料金を請求された。スッタモンダの挙句、「私はインド人だ。ソニア・ガーンディーの息子なのだ!」と声を上げると、チケット売りの男は澄ました顔で「あんたの母親がソニアなら、オイラの親父はラジヴだぜ!」と取り合なかった。結局、彼は外国人料金を支払うはめになったという。
<つづく>

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