Destination Pakistan 2007

Destination Pakistan 2007
 今年、インドの隣国パーキスターンでは政府の音頭により『Destination Pakistan 2007』と銘打ち観光の推進を図っている。隣国インドに負けず劣らず多彩な文化と豊かな自然に恵まれ、非常にリッチな観光資源を持つ国である。近年何だかネガティヴなイメージが定着してしまっているようだが、これを機会にその魅力を存分にアピールしてもらいたい。
 PTDC (Pakistan Tourism Development Corporation) のウェブサイトにも『Visit Pakistan Year 2007』と謳われている。ホームページ上部を見てわかるとおり、英語以外に8ヵ国語での情報提供がなされている。だが機械的に翻訳されているだけなので、ここの日本語版を見てお判りのとおり、かなり凄いことになっている。
 サイト内で目下準備中のようだが、求人募集もなされるようだ。『Talent Hunt』直下にある『apply for a job』をクリックすると出てくる個人情報や学歴・職歴を記入するフォームの下のほうには、『PTDC is committed to equal opportunity employment regardless of race, color, ancestry, religion, sex, national origin, sexual orientation, age, citizenship, marital status, disability, or any other status』と書かれている。明らかに外国人の雇用についての案内であろう。


 インド・パーキスターン間の関係が改善していくことは両国の人々の為になることであるのはもちろんのことだが、同時に私たちのような外国人にとっても、パーキスターンへの入国地点や利用できる交通手段が増えてインドからより訪れやすい隣国となってくれればそのメリットはとても大きい。歴史的に切り離すことのできない深いつながりを持つ両国を『ひとつの地域』として旅することができたらどんなにいいことかと思う。
 またグループによる企画ツアーなどでも、現在のバングラーデーシュからインドを経てパーキスターンまで横断する『仏教遺蹟ツアー』や『ムガル帝国ツアー』といったものなどがあれば人気を呼ぶのではないかとも思う。 もちろん今のパーキスターンとなっている地域固有の文化や魅力もいろいろあるのだが、同国を観光目的で訪れる人々の関心の的には現在のインドのそれと重なる部分が非常に多い。
 そう考えてみると、パーキスターンの観光振興のカギのひとつに観光政策部分でのインドとの協調ということも考えられるのではないだろうか。例えばカシミールにしてもパンジャープにしても、それらの地域を訪れる人々にとってLOCないしは国境によって遮断されてしまうので、そこからさらに先へ先へと続く豊かな広がりについて身を持って感じることが難しくなる。そのため国境のこちら側と向こう側とでずいぶん違ったイメージを抱いてしまうということはないだろうか。
 国という縦割りの行政枠に縛られるずに、大昔から物理的に続いていた『ひとつの地域』としてのつながりを打ち出すことにより、国境の両側に広がる地域について従来にも増して多くの魅力をアピールすることがではないかと思う。
 同様のことが東側国境、つまりインドとバングラーデーシュの間にも言える。両国にまたがるスンダルバンの豊かな大自然、ベンガル各地に広がるテラコッタ建築群、それに近ごろインドが観光プロモーションに力を入れている北東地域についても、陸路の場合はコルカタのすぐ東にある隣国を通ることによりずいぶんアクセスが良くなる。両国が観光面で協調して情報提供や往来の便宜を図るなどといった政策を打ち出せば、その答えは『1+1=2』ではなく、4にも5にも成り得るほど実りあるものと成り得る。
 実際、観光客誘致のための『国際協調』で、規模としては小さなものだが他国にこうした例がある。タイ・カンボジア国境にある9世紀に建立された巨大なクメール遺跡、カオ・プラ・ヴィハーンだ。アンコール遺跡群とともにクメール建築を代表する大寺院である。
 そそり立つ断崖絶壁に広がるこの場所は両国国境をカンボジア側に入ったところにある。かつてこの地域はカンボジアの反政府勢力が支配する地域であり軍事的な要衝でもあったことから周辺地域には今も地雷原が広がっており、遺跡には今でもタイ側からしかアクセスできないようだ。
 そのためカンボジア側がこの観光資源を活用したくても、タイの側から客を送り込んでもらわなくてはどうにもならない。またタイのほうにしてみても、せっかく見事な遺跡がすぐ目の前(ほとんど国境線上にあると言っても差し支えない)にありながらもそれがカンボジア領内に属している以上、同国による特別な便宜がなくては地域の観光の目玉として活用することができないのだ。
 そこで現地で展開されているのが両国の見事な連携である。タイ側では遺跡に近いエリアを『国立公園』として入域の際に料金を徴収(観るべきところはカンボジア側の遺跡しかないのだが)し、カンボジア側では観光客がこの遺跡見学についてはヴィザ無しで越境させて(だがこの遺跡から更に他地域へと進むことはできない)おり、もちろんタイ側での『国立公園入場料』とは別に『拝観料』を取っている。この寺院遺跡を挟んだ両国側で民間人たちもみやげもの屋や食堂などを展開して商売にいそしんでいることから、タイ・カンボジアどちらもこのひとつの遺跡を元手に官民ともに結構な収入を上げているようだ。
 政治的に微妙な立地ながらもこうして両国が協力して地域の貴重な文化遺産を公開していることは観光客たちにとっても非常にありがたいことである。
 これまで南アジアのこれらの地域では国境の両側に広がる文化や伝統などを国境の両側が共同して観光客誘致のためのアピール活動を活発に展開・・・なんてことはなかったし、もちろんそういうことを行なうことができるような良い関係にもなかった。でもいつか近い将来にこうしたことが可能な平和でいい時代がやってくることを願いたいものである。

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